第13話 捨て身

 俺はその火球もクリスタルの力で吸い込んでしまおうとする。


「っ!? 熱っ!!」


 だが勢いが多少弱まった程度で完全に吸い込むことはできない。ありえない量の魔力が注ぎ込まれている。


 そりゃクリスタルの力にも限界はあるよな……まずい。躱すのが間に合わない!!


 俺は咄嗟に足を突き上げ火球を上空に向かって蹴飛ばす。

 それはここの天井の布を突き破り、燃え広がる間もなく上空へと消えていく。

 後ろにいた子供達は悲鳴を上げ、エルフィーや長老達が落ち着かせながらも彼らを外へと誘導する。


「来たわよ……リュージ気をつけて。恐らくあの子は火のクリスタル担当の、クリスタル集めの参加者よ」


 奥から姿を現したのは全身炎に包まれた女の子だった。

 不思議なことにその子自身や服には火が燃え移っていない。これもクリスタルの力の一端なのだろう。


「気をつけて。クリスタル所持者は他の所持者から大きなダメージを与えられたら持っているクリスタルが飛んでいくことがあるわ」

「あの火球に当たったら俺の火のクリスタルが吹き飛んでっちゃうかもってこと?」

「そうよ。だからなるべく攻撃には躱すか受け流すかして……」


 悠長に話している暇はなく、女の子は今度は何発も、それも先程より大きく速い火球を放つ。

 だが最低限の情報の交換はできた。それにエルフィー達ももう逃げて外に出ているので躱した火球が彼女らに当たる心配はない。

 戦闘の準備は万端だ。


「ウィンドカッター!」


 ミーアは自分に向かって来た火球を風の刃で真っ二つにし、最小限の動きと魔力の消費で対処する。

 俺の方も最小限の動きで火球を潜り抜け躱す。


 銃弾と比べたら全然遅いな。簡単に躱せる。でも問題は……


 女の子は全く消耗している様子はなく、追加でバンバン火球を放ちまくる。

 今はまだ対処しきれないほどではないが、このままではいずれ命中してしまうのも時間の問題だ。


「う……うぅ」


 呻き声が上がる。俺とミーアじゃない。だとすると上げたのは……今戦ってる目の前の子しかいない。


「気を失ってる……?」


 俺は目の前にいる子が白目を剥いて気を失っていた。自分の体を自分の意思で動かしていない。


「あがっ……助け……」


 彼女は無意識に口から助けを求める声を出している。苦しんでいる。戦いたくもないのに戦わされている。


「おいそこの君!! もしかして体が言うことを聞かなくなってるのか!?」


 もしかしたら戦わずに済む道があるかもしれないと微かな希望を見つけ、確実に向こうに届く声で訴えかけてみる。


「あぅ……」


 反応はあった。完全に外界との感覚が死んでいるわけではない。

 そして彼女が十中八九自分の意思ではない暴走状態なのだということも分かった。


「あの様子……あの子クリスタルの力に振り回されているのかしら」


 ミーアもそのことに気づいたようで、しかしだからといって何かできるわけでもない。お手上げ状態だ。


「可哀想だけれどこっちも死ぬわけにはいかないわ。せめてあの子が死なないように祈って攻撃するしか……」

「ちょっと待って!! 俺に考えがある」


 火球を掻い潜りながら、俺はあの子を傷つけずに無力化する方法をミーアに説明する。


「はぁ!? あなた頭おかしいの!? そんなことしたらあなたの体は……」

「でも、傷つけずに助ける道を捨ててまで俺は人を傷つけられないんだ。ごめん……!!」


 ミーアの制止を振り切り、俺は火球を潜り抜け炎に纏われ苦しんでいる女の子の元まで向かう。

 近づく度にどんどん熱くなり、二個の火のクリスタルの力では吸収しきれず体が燃え始める。


 俺の体なんて、命なんてどうなってもいい! それよりあの子はいま苦しんでる……使いたくもない力に振り回されてるんだ。なら助けないと……!!


 俺は死んでしまうこと前提で女の子に抱きつきクリスタルの力を吸収する。


「聞こえているんだろ!? 落ち着いて力を抑えるんだ!!」


 力に振り回されていて尚且つ意識がまだ辛うじてあるのなら。この子に訴えかけて火を消させること。それが一番の平和的な解決法だ。

 

「うぅ……」


 俺が火を吸収して彼女の力を弱めたおかげか意識がハッキリとしてきたようで、俺がそろそろ本当に死ぬと思うのと同時に当たりの火がパタリと消える。

 女の子を纏っていた炎は消え、そのままこちらに倒れてくる。


「危ない!!」


 焦げた体で彼女を受け止め、どれだけ痛みが全身を駆け巡っても彼女を離さなずゆっくりと地面に置いてあげる。

 危うく死ぬところだったが、何とか火のクリスタル所持者の女の子を助けることができた。


 

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