第12話 火の気配
少しして中から大勢の人がぞろぞろと出てくる。
「何があったんですか!?」
俺は市場から出てすぐその場に崩れる女性に事情を伺う。
先程の悲鳴と煤汚れた彼女の体から火事が起きたのは分かったが、そこまでの経緯を知りたかった。
「分からない! いつも通りにオークションをしていたら、いきなり裏手から火が上がったの!」
その言葉を聞いた瞬間俺達は硬直する。恐らくみんな同じ不安が頭の中によぎったのだろう。
エルフの子が奴隷商人にどう扱われるかどうこう以前に、この中にいるなら火に飲み込まれて焼死してしまうと。
「みんな急ぐぞ! もう時間がない!」
真っ先に俺が動き、そして先導する形で市場のテントの中へと逃げ惑う人を掻き分け入っていく。
「熱っつ!! くそ……火の手がもうかなり回っている……」
舞台は完全に火に包まれていて、奴隷が置かれているであろう裏手に向かう唯一の道は燃え盛る炎で塞がれている。
どこまで広がっているか分からない炎に突っ込むなんて無謀なことはできず、俺はどうしたらいいか思考を巡らす。
「ねぇリュージ。火のクリスタルの力を使えばきっとあの火を吸収できるはずよ。やってみてくれるかしら?」
ミーアは他のみんなには聞こえないように至近距離で小声で話す。
「とりあえずやってみるよ」
俺は心を落ち着かせ、自分の中にある力を発揮するべく、体から力を抜きつつも心臓に意識を集中させ燃え盛る火を吸収する姿をイメージする。
視界が一瞬赤く光ったと思えば、体温が急激に上昇して全身から力が溢れ出す。
「頼む……できてくれよ……!!」
俺は手を前に突き出す。すると炎が急に動きを変え、物理法則を無視して俺の方へ向かってくる。
それは体の中に入っていき、その分力が増しているのを感じ取る。
「何だその魔法!? どうやったんだ!?」
「あぁこれはクリ……」
エルフィーにクリスタルについて手短に話そうとしたが、ミーアに脇腹に肘打ちをくらわされてしまう。
そういえば魔王にクリスタルのことはできるだけ口外するなって言われてたんだっけ……
「えーと、これは俺の作った魔法なんだよ。あはは……」
「そうか……とりあえずこれで裏手に行けるな!」
エルフのみんなは仲間を助けることに意識がいっているおかげで俺が口を滑らしたことに言及するものは誰もいない。
俺達は火が消えた道を通り奴隷が置かれているであろう舞台裏に向かう。案の定そこには鎖で繋がれて逃げれなくなっている奴隷達がいて、その中にはエルフの特徴と合致する子もいる。
「お姉ちゃん!」
エルフの子達のうち一人の女の子が消え入りそうだったが、それでも持てる限りの力を尽くして声を上げる。
その子は見るからにボロボロで、衣服も所々破れ痣や切り傷も見られる。
「大丈夫だったか!?」
それを見るにエルフィーが飛び出してその子の元まで向かう。どうやらその子が彼女の妹のようだ。
他の子もエルフィーお姉ちゃんが来てくれたと安堵と喜びの声を漏らす。
「ちょっと待ってて。鎖は私が切るから」
ミーアの瞳が緑色に発光して、手から極小の風の刃を放つ。
それらは正確にエルフの子達も含めた奴隷の子達の鎖を切り裂き、彼らを拘束から解き放つ。
「うぇーん怖かったよ!!」
エルフィーの妹が彼女に抱きつき泣きじゃくる。
「大丈夫。お姉ちゃんがいるからもう怖くないぞ」
そんな妹の頭を撫で、抱きしめ、不安な気持ちを取り払ってあげる。
その姿は正に純粋な愛を捧げる姉であった。
「いきなり向こうにいた子が火を吹き出した怖いおじさん達を燃やしたの!」
エルフィーの妹が言った言葉を理解できず、俺達が首を傾げながらも火の手が増しているので早くみんな避難させようとした時、この空間の奥の方から少しずつ圧が放たれ始める。
このことに気づいているのは俺とミーアだけだった。つまりこの気配は……
「おいミーア。数キロ圏内なら気配が分かるんじゃなかったのか?」
他の人には聞こえないくらい小声で耳打ちする。
「そのはずだけれどね……分からないわ。最初はほんの少ししか力を使わず私達が探知できなかったか、もしくはクリスタルに頼らずに火を操っていたのかもしれないわ」
「どっちでもいいな……今はとりあえず……」
俺とミーアは気配がした方へ駆け出す。
「みんなは早く外に逃げ……」
振り返りながら他のみんなに早く逃げるよう促そうとしたが、突如奥の方から放たれていた圧が一気に強まる。
何かがくる。その確信めいた感情と共に迫ってきたのは巨大な火球だった。
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