2日目




「はぁ……。 マジかぁ……」


 まさか、罰ゲームで廃墟の探検をさせられる羽目になるなんて思わなかった。

 しかも、真夜中にだ。ため息も出ようものだ。


「しかし、災難だったな!」


 災難だった。

 まさか、ただのジャンケンでストレート負けするとは思わないだろう。

 また一つため息を漏らす。


「ただジャンケンに負けただけで、こんなとこを探検してこいって言われるだなんて……」


 心細くて泣き出しそうになるが、泣いた所で助けは来ない。

 それに、すぐに引き返せば先輩達が無理にでもまた廃墟に向かうように仕向けるはずだ。

 今までもそうだった。

 だから従う他に無いのだ。


「おかしいよなぁ。 どう考えてもリスクとリターンが釣り合ってないだろ」


 おかしいとは思うが、考えても仕方がない。


 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

 大丈夫だ。僕にはジョンが着いている。


「ふぅ……。 よろしくな」


「おう」


 意を決して真っ暗な廃墟へ一歩踏み入れる。


 がさり、がさりと草の根を掻き分けて進まなければならないほど雑草が伸びきっていた。

 雑草は腰に届かない程度の高さだが、度々足に絡み付いてきて鬱陶しい。

 かなりの長い間、人の手が入っていないことが伺えた。


「何も、出ねえよな?」


 何かが出てきそうな雰囲気に怯えながら、廃墟へ入ると外の茂みから、がさり、と物音がして、心臓が跳ね上がる。

 咄嗟にそちらを照らして目を凝らすが、何も居ない。

 息を潜めて耳を澄ますと、梟の鳴き声が耳に届くばかり。


「野生の動物か? ……おい、そんな泣きそうな顔をするなよ」


 もう嫌だ。帰りたい。

 思っても口には出さない。

 言った所でどうにもならないし、出来ないのは変わりないからだ。


 気持ちを切り替えよう。

 深呼吸をして、しっかり呼吸を整えて。


「よし……行くよ」


「足元、気を付けろよ」


 足元を照らし、天井や壁などが所々剥がれ落ちて出来た瓦礫を避けて通る。


「しかし、雰囲気あるな」


「これは確かに、何か出そうかも……」


 この廃墟がどんな場所なのかは先輩達から予め聞いていた。

 如何にも幽霊が湧いて出そうな場所だということを。


 ただ、曰く付きがあるとは聞いていないので、実際は何かが出るなんて言うことはないのだろうけど。

 それでも怖い物ものは怖い。


「おい、怖いなら引き返してもいいんだぞ?」


「すぅ……ふぅ……大丈夫、大丈夫……」


 また深呼吸をして自分を落ち着かせ、廃墟の奥へと足を踏み入れることにした。


 その時。

 からり、と小さな瓦礫が落ちる音が少し遠くで鳴る。


 慌ててそちらに向き直って照らすと、高い位置で光り輝く目と目が合ってしまった。


「うわぁぁぁああっ!!?」


 その瞬間、パニックに陥った僕は瓦礫に躓きながらも一目散に逃げ出した。


 脇目も振らず、ひたすらに来た道を引き返す。


 廃墟を抜け、踏み倒して作った雑草の道を行き。

 そうして、先輩達が居るところまで戻ってきた。


「おう。早かったじゃんか。なんか見っけたか?」


 ニヤニヤと先輩達はしているが、それどころではなかった。


「かっ、かかかっ! 怪物が!! 二、三メートルくらいある化け物が!!!」


 と、伝えた所で、あることに気付く。


「あ、あれ……? ジョン……? ジョンが……居ない……?」


 もしかして、あの廃墟に落としてきてしまったのだろうか。

 もしそうなら、もう一度あの廃墟へ戻らなければならないことになる。


 その事実に気が付いた僕は、急激に目の前が暗くなった。






お題:泣かないよ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る