KAC20246 トリあえず、彼女と青い鳥を探す

久遠 れんり

第1話 彼女は願う。私青い鳥が必要なの

「それって何?」


 後ろの席に座っている塚本 彩つかもと あやちゃん。

 クラスの中でも、トップクラスにかわいい。


「えっ」

 そう言って、顔を上げた彼女。

 だがその頬には涙が伝う。


 彼女はその潤んだ瞳で、僕を見つめる。

「私幸せになりたいの、祐介君手伝って」

 彼女はそう言って、僕の手首を掴む。


 さっき彼女がしていたのは魔方陣。

 同数のマス目に数字を入れ、縦横斜めすべての答えが同じになれば良い。

 むろん魔法陣とは違う。


 良くWEB作家が間違える漢字だ。


「私、青い鳥を探さなきゃ」

 そう言って、僕の手を引っ張っていく。


 そうしてなぜか、ギルドに行って申込書を貰ってくる。

「未成年は、親御さんの署名が必要ですから」

 そう言って、書類を貰って帰る。


 その途中に、コーヒースタンドにより話を聞く。

「お父さんの会社が、上手くいっていないみたいで、お金が必要なの」

「そうなんだ。あの魔方陣は?」

「この雑誌。少しだけど賞金が出るの」

 一万円が抽選で十名様とか書いてある。


「そうか」

 だがそこから後が、言葉に出来ない。

 高校生の僕が持っているお金など、たいした事は無い。


 そこから後、彼女の言動は少しおかしくなる。

「ほらみて、私と同じような境遇」

 実録、最下層の少女達。

『親の会社が潰れて、風俗店で働くようになりました。人生が辛いです』


「ほら、何とかしないと、こうなっちゃうの」

 そう言って、彼女がしがみついてくる。


「だから…… ダンジョンへ行って、少しでも助けになるようにするんだね」

「そう。だから、私は青い鳥を見つけて、幸せになるの」

「分かったよ、一緒に探そう」

「祐介くん。ありがとう」

 そう言って、また泣き始める彼女。


「分かったよ、一緒に探そう」

 そういうと、彼女は微笑んでくれた。


 親にも説明し、親の承認欄へ捺印を貰う。


 そして、翌日は休日。


 僕は女の子と初デートみたいだと、ドキドキしながら、彼女を待つ。

 だけど、彼女は来るなり謝ってくる。

「お父さんに、サインとはんこを貰えなかったの。お前は心配しなくて良いって」

「そうなのか。じゃあ残念だけど……」

 そう言いかけた僕だが……


「私待っているから。お願い」

「えっでも、青い鳥なら本人が探さないと」

「だいじょぶ。居場所は五階のフロアボス。ブルーバード。周回をすれば、ごくたまに宝玉を落とすの。それが、ものによってはいい値段になるから…… お願い」

 その言葉に、馬鹿な僕は乗ってしまう。

 彼女の真剣な目に断ることが出来なかった。


 ギルドで登録し講習を受ける。


「初心者はレベル十くらいまでは、五階のボスに挑むのはやめてくださいね。命を音落としますから。それと、ダンジョンでの初レベルアップ時にギフトをもらえることがあります。その時は申請をお願いいたします」

 などという注意と共に、ライセンスカードを貰う。


 初級クラス。佐藤 祐介さとう ゆうすけ。十七歳。


「さて行くか」

 ギルドの喫茶店で待つ彼女。

 挨拶をすると、頬に軽くキスをくれた。


「ごめんなさい。お願いね」

 なんだか勇気を貰った僕は、トリあえずスライムとゴブリンの待つ戦場に足を踏み入れる。


 最初に皆が受ける試練。命を奪う禁忌感を、彼女の姿を思い出し、心の奥底に飲み込む。

 そして幾匹か、勢いだけで倒していると、レベルアップと何かが来た。

 

 体がバラバラになり、再構築されるような痛みと快感。

「ぐはっ」

 思わず、その場に跪く。


「ぐわあぁ」

 おおよそ五分くらい。

 体感ではもっと長かった気がしたが、時計の針はそんなものだった。


 そして、意識の中に魔法の使い方が流れ込んでくる。

 魔素を属性へと変化させる方法。


 意識して、現象として変化させて撃ち出す。

 それを理解したときから、スライムやゴブリンは雑魚になった。


 いや初級でも倒せる雑魚だけど、それでもバットでゴンゴンガンガンせずに倒せる。それも一発で。


 魔法も、ダンジョン内に漂う魔力を使えば、非常に省エネ。


 途中幾匹か倒しレベルアップをしながら、階段へ向かう。


 途中で、クラスメイトと出会う。

「あれ? 大介じゃないか。いつからハンターになったんだ?」


「おう。佐藤。いや少し、急いでいるんだ」

 大介はそう言って、足早に駆け抜けていく。

 ただその時に、『トリあえずコレで喜んでもらえる』

 そう言って、宝玉を持っていた。


 そう。いやな予感がした。

 ただまあ、待っているのは、たとえ、クラスの子でも大介は誰かと付き合っているのかもしれない。


 そう思い、階段を降りていく。

 本当に簡単に。


 そして、途中で幾人ものクラスメイトに会う。

 歯を食いしばり頑張る姿。


 クラスのハンター率高すぎ。

 だが流石に気が付く。

 俺が異常な速度で移動しているから出会うが、そこそこ広いダンジョンのフロア。

 彼ら同士が出会うことはないのか?


「おう。荒井お前もか? もしかして彩ちゃんに頼まれたのか?」

 助けたついでに聞いてみる。


「サンキュー。魔法が生えたのか、すげーなあ」

「それは良い。宝玉を取ってきてくれと塚本 彩に頼まれたのか?」

「えっ。ああうん。泣きながら頼まれて。荒井君だけが頼りなのって言われて」

「ほー。俺もなんだよ。さっき大介も宝玉を持って走って行ってた」

「えっ」

「それだけじゃない、他にも何人もクラスの奴らが居た。彼女。ギルドの喫茶店で待つているのか?」

「そうだ、ってそれじゃあ」

「ああ多分な……」

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