第6話

 皆、会社が倒産することを知っていたのだろうか。いや、知らなくても雲行きが怪しいことには気付いていただろう。なぜそれを話してくれなかったのか。それこそ最後のあの言葉に集約されているのだろうか。


夏帆かほさんに恩はあっても、誠二さんに恩はありません』



 誠二せいじが途方に暮れていると、偶然にも隣の課の飲み仲間からスマホにメッセージが送られてきたのだった。


 リモート会議に参加していた同僚の大部分が夏帆に引き抜かれ、別の会社に再就職したという話だった。


 残りの仲間は合同で起業する準備を始めているという。

 会社が危ないという話は、数か月前から内部で噂になっていたということだった。


「何も知らなかったのは、自分だけか……」


 あまりの滑稽さに鼻で笑った。

 それから二時間かけ帰宅すると、玄関に妻の靴はあるのに、家の中がやけに静かだった。


「寝ているのか?」

 と呟いて居間に入ると、中央のテーブルに数年前の浮気調査の見積書と、誠二と夏帆の深い関係を疑わせる写真がずらりと並べてあった。


「……っ!」

 誠二は狼狽しながら、その写真を手に取った瞬間、視界に人影があることに気付いた。

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