第10話 キンキンキラキラ七夕伝説交野市

「では私も帰ります」


みさきがそう言うと葉月がそれを呼び止める。


「あ、そう言えばみさきちゃん」


「はい?なんでしょう?」


「部活決まってないならウチ来ない?」


「え?」


みさきの表情が固まる。


「そんなに固まらなくても……」


「あ、いえ。

 私はバイトがあるのでクラブはちょっと……」


「そっか。

 気が変わったら来てね」


「はい。では失礼します」


みさきはそう言って部室を出た。


「なんか……あの子……

 何かあるね」


葉月が何かを確信する。


「なにかって?」


「なんか潰れちゃいそうな不安を感じる」


「え?」


「まぁいいや。

 私もバイトあるから失礼するね」


「みさき先輩バイトなんかしてたっけ?」


「スーパーでお惣菜を売ってるよ」


「そうなのですか」


「うん」


「じゃ、私がいなくても泣いちゃだめだからね!」


葉月はそう言って小さく笑うと部室を出た。


とある平日3月29日の金曜日。


一はそっと空を見上げて、小さくつぶやいた。


「曇りだね」


それに美姫が答える。


「これじゃ織姫と彦星が出会えないね」


そして一が言う。


「雲の上は晴れているんじゃないかな?」


「そうなの?」


「きっと邪魔しないでねって言っているんだよ」


「つまりヤりまくっているってことだな」


護がそういうと美姫が怒る。


「ちょっと!女子の前でそういうこと言わないの!」


「そうですよ。

 彦星さんも織姫さんも生きていたらおじいちゃんとおばあちゃん。

 そんな元気はないですよ」


みさきの言葉に一は少しだけ癒やされる。


「川名さんピュアだね!」


一が微笑む。


「ピュアですか?」


「うん。

 多分まだ若いと思うよ」


一がそういうとみさきが冷静に言う。


「彦星は10億歳。織姫は3.5億歳。

 もうご年配の域を超えてますよ」


「不老不死なんだよ」


美姫が笑う。


真面目なトーンで一が言う。


「ってか僕たちは、なんで織姫と彦星の話をしているのだろう?

 今は3月じゃん?」


「なんだかんだで終業式なのに校長が彦星くんと織姫ちゃんを呼んだからじゃね?」


護がそういうと一が頷く。


「そうだね。

 僕たち高校生なのにね」


美姫が言う。


「もうすぐ2年生だね」


「ああ。俺達ずっと同じクラスだしな」


護の言葉にみさきが驚く。


「そうなのですか?」


「ああ、俺達自由クラスだしな。

 他のクラスは進学クラスで進学を目的に頑張っているクラスなんだ」


護の言葉にみさきは何かを言おうとしたが躊躇ったあと言うのをやめた。


「……まぁそんなわけで川名さん。

 来年度もよろしくね」


「……はい」


みさきは軽く頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る