第10話 やるぜ、愛してるbot!!

 …………botか……。


 俺は相変わらずエグいことしか思いつかないスレ民達に驚愕しながらスマホを閉じる。


 因みに現在も無言のまま、俺は2人から睨まれている。

 そしバラした張本人であるレティシアはこの異様な空気に戸惑っている様子だった。


 えー、botになるには……まずどんな言葉にも『本気で愛しているんです!!』と言わないといけないのか。

 ついでに目の感情を無くして、人間っぽさも無くして小刻みに揺れながら……ね。

 いや改めて考えるとむずいな。


 試しに言葉は言わずに動きだけやってみるも……何か力んでう◯こ我慢してる人にしか見えん。


「……やばい。botって……実はめちゃくちゃ難しいのでは?」


 俺が安価で決めたことを若干後悔していた時……遂にアルベルトが重い空気と沈黙を破るように口を開いた。


「……レティシア……それは……ほ、本当なのか……?」


 あかん、スレ民の推測当たってる。

 アルベルトの声が恐ろしく震えていらっしゃるじゃん。

 

 アルベルトは顔こそ先程までと何ら変わりはないが……声は、もう泣きそうなのかって程に震えている。

 これには俺もセノンドールも驚いてアルベルトの方に目を向ける。

 そしてレティシアは、アルベルトの異様さに不思議そうに首を傾げながら……完全にトドメを刺した。


「勿論です。王子殿下に嘘は付きません」

「……っ」


 一体どの口が言っているんだと声を大にして言いたいが……アルベルトは完全にショックを受けたよう様子で、机に肘を付いて指を組んだ手の甲で口元を隠して押し黙った。

 また、セノンドールも眉を一瞬ピクッと震わせて表情を固くする。

 

 ……あ、本当にこれはダメなやつだ。

 昔からマジでレティシアのことが好きなパターンだ。


 俺は、自分がまさか超絶大嫌いなNTRの寝とる方になっていたのを知り……こっちが泣きたいくらいには気まずい。

 別に悪気があってしたわけではないが、物凄く罪悪感がハンパなく……正直今直ぐ逃げ出したい。


 ただ、彼女に聞いてダメなら、次に白羽の矢が立つのは———勿論俺であった。


 アルベルトは、まるで嘘だと言ってくれと懇願しているような目で俺を見て言う。

 

「……レティシアはああ言っているが……お前はどうなんだ……?」


 ……こんな可哀想な程落ち込んだ彼に、俺は何て馬鹿なことを言うんだろう。

 でも、これも全て俺の人生のためなので引くわけにはいかない。


 俺はボーッとしている時の虚無の目を意識して視界をぼやけさせ、更には身体をほんの少しだけ震わせながら言った。



「———本気で愛しているんです」

 


 瞬間———アルベルト達は三者択一の反応を見せた。


 アルベルトは驚愕の表情を浮かべていた。

 まるで『彼女が好きな王子の俺の前で堂々とそれを言うか?』とでも言いたげに。


 対してレティシアは……まさかこうも堂々を言われると思っていなかったのか、若干照れているようだ。

 視線を辺りに彷徨わせ、俺と目が合えば少し頬を赤くしてサッと目を逸らす。


 そしてセノンドールは……異様な俺の雰囲気に少し気味悪がっていた。

 だが、彼は他の2人とは違って直ぐに元の表情に戻り、レティシアを見て言う。


「レティシア……貴女は少しの間だけ退席して頂けませんか?」

「……何故かしら? 別に私がここにいても何も問題ないと思うのだけれど?」

「……レティシア、席を外してくれ。俺はアルト・バーサクと話がしたい」

「……王子殿下が言うのでしたら……私は退席いたします……」


 レティシアは苦虫を噛み潰したような表情で踵を返すが……部屋を出る瞬間、2人に見えないように俺の方を見て心配そうな表情を見せる。

 ただ俺は何を言われようと『本気で愛しているんです』としか言わないbotなので、問題ないと力強く頷いた。


「それでは……失礼します」


 レティシアがそう言って頭を下げながら部屋を出て行くと……セノンドールが諭すように言ってくる。


「アルト・バーサク……貴方とレティシア嬢との間には相当な身分の差があるんですよ」

「本気で愛しているんです」


 彼の言葉に、俺は先程と全く同じ抑揚と雰囲気で同じ言葉を繰り返す。

 しかし今度は先程より気味悪がる様子はなく、間髪入れずに質問が飛んできた。


「そうですか。ところで……貴方は精霊と契約すら出来ていませんよね? 対してレティシアは上級の精霊と契約した神童です。精霊の契約の有無や等級は将来に深く関わりますが……このままだと貴方はレティシアの足を引っ張ることになりますよ?」

「本気で愛しているんです」

「……っ、貴方は……っ」


 俺が内心恐ろしさに震えながら再び同じ言葉を繰り返すと、セノンドールが苛立った様子で声を荒げる。


「……っ、はっきり言わないとわからないようなのではっきり言いますが! 貴方がレティシアと婚約するのは彼女のデメリットにしかなりません! なので今直ぐ貴方がレティシアとの婚約を辞退しなさい」


 めちゃくちゃ脅すやん。

 どれだけレティシアが好きなんだよ。


 ただ———悪いが俺の返事は変わらない。


「本気で愛しているんです」

「貴様巫山戯ているのですか!? その不気味な目をやめなさい!」

「本気で愛しているんです」

「アァァァッッ!! 私の言葉に同じ言葉を繰り返すな!!」

「本気で愛しているんです」

「い、いい加減にしろ貴様———ッッ!!」


 遂に痺れを切らしたらしいセノンドールが俺に殴り掛かってきた。

 まさかの急展開に驚いて動けない俺は、自然と顔面に迫る拳を受ける準備を始める。


 しかし———その拳が俺に届くことはなかった。


「———やめろ、セノンドール」

「……っ、王子殿下!? ですが……!」


 何かを言おうとするセノンドールを手で制したアルベルトが、敵意さえ篭った鋭い眼光で俺を睨みながら言った。


「ここで殴ったり脅しても意味がない。どうせレティシアが俺達がしたのだと勘付く」

「それは……そうですが、こんな精霊との契約すらできない巫山戯た者をレティシアに嫁がせるわけには……」


 セノンドール……お前とんでもなく俺を敵視するじゃん。

 いやまぁ自分のやってることを客観的に見たらしょうがないんだけどさ。

 

 仮に俺の好きな幼馴染が俺みたいな頭のおかしい問題児と婚約するとか言い出したとしたら……速攻でソイツを半殺しにして諦めさせる自信がある。


 …………あ、あれ?

 おかしいぞ……何故か凄く嫌な予感がするな?

 まるで俺の命が危ないような……。


 俺がそんなことを思った矢先———。



「———裏で出来ないなら、表でこの巫山戯た奴を叩きのめせばいい。そうだな……3人で精霊を使用しての乱打戦なんていうのはどうだ? 丁度お前との長年の戦いにも終止符を打たないといけないしな」



 …………は????


 アルベルトが絶対的に俺が不利な、正しくとんでもないことを言い出した。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!


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