第2話 呼び出しと告白
「———公爵令嬢に告白、か……。いやいやいやいやおかしいだろ、死ぬ気か俺!?」
俺、アルト・バーサクは、入学式が終わって生徒会長室に向かう道中、自分で言って自分でツッコむ。
———副生徒会長の公爵令嬢に告白。
字の羅列だけ見ても、とんでもないことが分かる。
まず間違いなく狂気の沙汰だ。
しかも加えて、俺はとんでもなく借金のある子爵家の子息である。
……まぁどう転んでも詰むからやらざるを得ないけど。
「あ、スレ民に信じてもらうために動画でも撮るか」
俺は、どう言うわけか自分以外には見えない転生特典で貰ったスマホを取り出して動画の撮影を始める。
……何でこんなゴミを転生特典にしたんだよ俺……これが魔法の才能とか最強の肉体とかならこんな苦労もしなくて済んだのにさ。
何故こうなったのかを簡単に言えば……娯楽の誘惑に勝てなかったとしか言いようがない。
俺のスマホにはAm◯zonプ◯イムやネ◯フリ、Yo◯Tubeに漫画アプリが入っている。
だから娯楽には困らないが……うん、そのせいで人生が詰みそう。
「てか何でスレは立てれるのに乙女ゲーのことは全く出てこないんだよ……」
Go◯gleも入っているのだが……先程この世界のことに関して調べてみた結果、検索には1つもヒットしなかった。
逆にそれ以外は調べられるので、神が細工した様にしか思えない。
よ、余計なことしやがって……。
「はぁ……覚悟決めるか……」
俺は大きくため息を吐き、鉛の様に重い足を動かして生徒会長室へと向かった。
「———アルト・バーサク。何で呼ばれたか分かるっているな?」
「え、えっと……」
覚悟を決めて生徒会長室へ入ったつもりだったが……目の前にいる金髪碧眼の超絶イケメンを前に、俺は思わず吃ってしまう。
ごめん、陰キャは陽キャと話すとデフォで吃るんだ。
しかも、生徒会長の金髪碧眼超絶イケメンはこの国の王子で、名前はアルベルト・イグニスという火の精霊王を代々受け継いできた最強の血が流れている。
謂わば陽キャの中の陽キャである。
そんなアルベルトの左右にいる人も、公爵家の令嬢と子息という俺みたいな弱小貴族にとって雲の上の様な方々だ。
そんな方々の片割れである銀髪碧眼の公爵令嬢———レティシア・フリージングに告白する俺は、世紀の大馬鹿野郎だ。間違いない。
俺が不正を行わなかったらこんなことにならんかったんかな?
あー、マジでスマホじゃなくて精霊に愛される素質を転生特典で貰えばよかった……。
何て考えていると、アルベルトが鋭く俺を睨みながら催促する。
「おい、早く答えろ」
「は、はいっ! にゅ、入学試験でのことですよね……?」
「そうだ。貴様には、神聖な入学試験で不正を行ったと言う証言がある」
つまり誰かがチクったってことだよな。
出てこいぶっ殺してやる。
俺は内心チクった者に八つ当たりする。
もうそうしないと精神を保てなかった。
「それで……その事実は誠か?」
「…………」
俺はアルベルトだけでなく、レティシアと青髪眼鏡の公爵子息———セノンドール・エアリアルにも圧を掛けられており、オーバーキルで泣きそうになりながら考える。
……ここで言うしかないよな……?
一応ずっとスマホを胸ポケットに入れてるから撮れてるだろうし……ちゃんと言った証拠になるよな。
もしもの時はもうスレ民に頼ろう。
俺はギュッと拳を握り、なけなしの勇気を振り絞って言い放った。
「お、俺は———フリージング公爵令嬢様に会いたいがために爆発する草で爆弾を作り、魔法試験で使いました!! 本当に申し訳ありませんでした!!」
俺は、羞恥や絶望感、言えた達成感などの色々な感情がごちゃ混ぜになった状態で頭を下げる。
よし、このバグった勢いのまま、告白まで持ち込むぞ……!!
「昔一度だけフリージング公爵令嬢様にお会いしたことがあり……その時、フリージング公爵令嬢様の美貌と、弛まぬ努力の成果とも言える所作の美しさに———俺は一目惚れしてしまったのです! 今回の件は全てフリージング公爵令嬢様に会い、想いを告げるためでした。この件の罰は何なりとお与えください!!」
俺はレティシアへ目を逸らさず一息に言った後、大きく息を吸い込んで荒い息を吐く。
い、言ってやったぞ……これでスレ民との約束は果たせただろ……。
あぁ、これからマジでどうしよう……。
空気が死んでるよぉ……皆んなが固まってるよぉ……。
俺は完全に凍結した生徒会長室の中で1人内心涙を流しながら嘆く。
普通に人生終わったので、今では堂々と彼らの顔が見れる。
アルベルトは目を見開いたまま固まっており、セノンドールは眼鏡をクイッとした状態のまま静止している。
そして告白を受けた顔立ちがクール系の超絶美少女であるレティシアは———何故か少し口角を上げていた。
あ、あれ……?
もしかしてワンチャン行け———。
「アルト・バーサク。お前の言い分は十分に分かったわ。学園の放課後、私の屋敷に来なさい。そこで処分を言い渡すわ。———それでいいですか、アルベルト王子殿下?」
———ないよねそりゃあ。
俺は凍て付くような瞳を此方に向けて遠回しの死刑宣告をしたレティシアに、何故か物凄く納得している自分がいる。
アルベルトもレティシアの言葉に異論はないようで、咳払いの後で頷いた。
「あ、あぁ、それでいい。この男は貴様が目当てらしいからな。貴様に処分の権限を与える」
「……ありがとうございます殿下。———そう言うことだから……12時30分。時間厳守で来なさい」
「は、はい……」
レティシアの絶対零度の瞳を前に、ゆっくり頭を下げる。
俺に拒否権などあるわけもない。
人生終了、お先真っ暗、地獄直行。
対戦ありがとうございました。
俺は生徒会長室から追い出されると、録画を停止し……絶望に心を支配されながらスレを開いた。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます!!
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