卒業式で

錦木

卒業式で

 同級生のミユから通知がきた。

 どうやら、部活の先輩の卒業式に贈る記念品を選ぶ係に任命されたらしい。

『ねえ、明日ヒマでしょ?ていうかいつもヒマでしょ。先輩の卒業祝い買いに行くからついてきてよ』

 失礼なやつだ。

 まあたしかにこれといった用事はないが。

 面倒くさいと返信しようかと思ったが、あんたにも関係ない話じゃないんだからねと後で噛みつかれそうだ。

 ミユとは同じ茶道部で、しかし誰とでも仲良くなれるミユと違って自分は先輩とほとんど接点はない。

 部室にきても挨拶をする程度であとは黙々と活動に参加して帰っていくというのが通常営業だ。

 けれどまあ、さすがに未来へ羽ばたく先輩たちに向けてなにもしないというのも失礼な気がして返信を打つ。

『トリあえず』

 誤変換。

『とりあえず、付き合ってやるよ』



 次の日、ショッピングモールにて。


「おそーい」


 到着すると不機嫌そうなミユにそう言われた。


「まだ三分しか経ってないんだが」

「それでも遅刻は遅刻でしょ。行くよ」


 長い髪をなびかせながらミユは歩いていく。

 悲しいかな、ドがつく田舎である地元はこんなショッピングモールにでもこないと人に贈るようなものは買えない。

 ものじゃなくて気持ちだろうって?

 それは建前である。

 どうせもらえるなら立派でそれなりにえするもののほうがいいだろう。


「未来へ羽ばたくとかけて鳥モチーフのものにしようかと思うんだよね」


 なんと、発想が同じだった。

 人は鳥じゃないし無難に羽ばたくというのもどうかと思うがそれはそれ。


「うーん、なかなかないなあ」



 鳥会えず。

 とにかく、いろいろな場所を回ったが鳥モチーフのものには出会えなかった。


「なかなかないもんだね」


 そう言って代わりに買ったものを掲げてミユは言う。


「喜んでもらえるといいんだけど」



 きたる卒業式。

 うっすら涙目になっている人もいたが、自分はそうではなかった。

 ただまぶしい気持ちで、先輩を見ていた。

 卒業式で泣かない自分は冷たい人間だろうか。

 でも、それこそ未来へと飛び立とうとする先輩には涙を見せずに普段通りに見送るべきではないかと思う。



 式が終わったあと、後輩一同集まって先輩方に卒業の贈り物を渡した。

 流水紋様のハンカチ。

 それが、自分とミユが選んだものだった。

 先輩たちにも好評だった。


「こんな名言もあるしね」


 そう言った。

 いわく立つ鳥跡を濁さず。

 お後がよろしいようで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

卒業式で 錦木 @book2017

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ