第8羽
ゲーム内ではそれなりに脈絡のあるセリフだ。このセリフだけ叫んでパトリックの恋愛フラグをポッキリ折ることができるだろうか。
一抹の不安を抱えつつ――。
「心からの言葉じゃないから嫌いにならないでね、ぴーちゃん……!」
「……ぴ?」
こっそりと先にぴーちゃんにあやまっておきつつ――私は親の顔よりも見たセリフを一字一句、
「私も神鳥、大好きですぅ! だって、すっごく大きいから焼き鳥もからあげもたくさん作れそうじゃないですかぁ!」
ちなみに他の選択肢は〝ふわっふわの羽に顔を埋めると幸せな気持ちになれます!〟と〝大きな羽を広げて空を飛ぶ姿が優雅でうっとりしちゃうんです!〟だ。私の本心はと聞かれたら迷うことなくこっちだ。ていうか、この二つの選択肢で迷いに迷って選びきれないっていうか両方だ! って叫ぶパターンだ。
だがしかし、今は心を無にして選びたくない選択肢を選び、言いたくないセリフを言うしかない。
「ぴ、ぴぴ……!?」
ぴーちゃんの怯えた目に私の心は今にも死んでしまいそうだけど、それでも今は選びたくない選択肢を選び、言いたくないセリフを言うしかない。
これもすべて前世で叶えられなかったいつでもトリといっしょ生活を叶えるため。ぴーちゃんのシマエナガ的フォルムを守るため。どの攻略対象キャラとも関わり合わず、どの攻略対象キャラとのエンディングも迎えないため。パトリックの恋愛フラグをポッキリ折るため。
折れろ! 折れてくれ、ポッキリと――!
祈るような気持ちで手首をつかんで離さないパトリックを凝視していた私は――。
「……え、からあげに焼き鳥?」
「よし、キタ! ポッキリ!!!」
パトリックの表情がスン……となったのと、私の手首から手を離すのを見てガッツポーズをした。
すかさず叫ぶ。
「ぴーちゃん、行こう!」
「ぴ? ぴぃー……っ」
私が背中にしがみつくのを感じて巨大ぴーちゃんはバサリ、バサリと羽を上下させた。
かと思うと――。
「ぴーーー!」
一気に加速。まるっとしたフォルムからは考えられないほどのスピードでアイーレ商会がある隣の隣の町へとすっ飛んでいく。
私はといえば振り落とされないようにぴーちゃんの背中というのか、えり首というのかにしがみつき、羽毛のふわっふわさ加減と何ものにも代えがたいトリ臭を大満喫。
「ふわぁぁぁー……やっぱりトリ、サイコー! ぴーちゃん、サイコー!」
うっとりと叫んだ。
「ぴ?」
「もちろん、さっきのセリフはうそだよー。本心から選び選択肢は〝ふわっふわの羽に顔を埋めると幸せな気持ちになれます!〟か〝大きな羽を広げて空を飛ぶ姿が優雅でうっとりしちゃうんです!〟。むしろ〝ふわっふわの羽に顔を埋めると幸せな気持ちになれます!〟と〝大きな羽を広げて空を飛ぶ姿が優雅でうっとりしちゃうんです!〟、両方だよー!」
「ぴーーーっ」
上機嫌で鳴くぴーちゃんの背中というのか、えり首というのかに顔を押し付けて私は盛大に絶叫した。
「ハァー! もーーー! やっぱりトリ、サイコー! ぴーちゃん、サイコー!」
「ぴー♪」
また、落ち着ける場所を求めて基本、野宿な旅に出ないといけないのはつらいけど、それでも、トリなぴーちゃんとの生活を守るためならばいくらでも我慢できる。
ふわっふわさ加減とトリ臭を全身で感じながら私は心から叫んだ。
「とりあえず、トリのままでいて……っていうか、一生トリのままでいて! 攻略対象なイケメンなんてお断り! 人型イケメンとか絶対にお断りだよーーー!」
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