第7羽
パトリック・デュ・デヴィッドは攻略対象キャラの中で一番最後に登場するキャラだ。
そんでもって唯一、トリタマのメイン舞台である学園以外で出会う攻略対象キャラ。
本当はこの国の第二王子だけど母親が妃付きのメイドだったということで城での立場は相当に悪い。そんなパトリックの心の支えが幼い頃に乳母に何度も読み聞かせてもらった神鳥と、神鳥に仕える聖女の物語だった。
成人したパトリックは居心地の悪い城から逃げるように神父になり、王都から遠く離れた田舎町の教会兼孤児院に落ち着いた。
しかし、王都から遠く離れて心穏やかに暮らすパトリックの目の前に心かき乱す存在が現れる。
神殿から出された課題でこの町を訪れていた聖女のタマゴ――トリタマ・メインヒロインのパトリシア・ハリスちゃんだ。
国境近くの森に現れるという魔物を倒すためにぴーちゃんや他の攻略対象キャラといっしょにこの町を訪れたパトリシアちゃん。
偶然、孤児院の子供たちと仲良くなって。
偶然、バザーが近々、あるのにチラシが間に合わない、誰も来てくれないかもしれないという話を聞いて。
子供たちを悲しそうな顔のままにしておくなんてこともできず――。
「……って、トリタマのシナリオ通りに行動しちゃってるじゃん、今の私ーーー!」
「神鳥の聖女様! 私の運命!!」
「ぴー! ぴぎゃーーー!」
青ざめる私の手首をつかんで離さない神父様ことパトリックにぴーちゃんが全力で威嚇する。
どこかで見たことがあるような気がする顔だなー、じゃない。何をのんきなこと言ってたんだ、過去の私。攻略対象キャラだ。神父様は攻略対象キャラのイケメンだ。見たことがあるに決まってる。
いや、でも、うっかり忘れてしまうのも仕方がないのだ。
どうか言い訳をさせてほしい。
パトリックは他の攻略対象キャラよりもずいぶんと遅れて登場する。んでもって、神鳥と、神鳥に仕える聖女様の物語に心酔して神父になったような人物だ。
キャラ的にか、それともゲーム進行の都合か。とにかく、このパトリック。親密度のあがり具合が異常なのだ。爆速なのだ。他のキャラを攻略しようとしているときでも爆速で追いつき、追い越し、狙っている攻略対象キャラとメインヒロインなパトリシアちゃんのあいだに割って入ってくるのだ。
パトリックを攻略しているとき以外は邪魔なこと、この上ないキャラなのだ。
だから、多くの乙女たちはとある選択肢でパトリックの恋愛フラグをポッキリと折り、早々にシナリオからご退場いただくのである。最後に登場して最初にというか唯一、退場していただくのである。
私も多くの乙女と同じように恋愛フラグを速攻で折ってきた。トリ好き、ぴーちゃん好きとしてはあまり選びたくない選択肢だけど薄目で画面を見て心を無にして恋愛フラグをポッキリ折ってきた。
そんなわけでパトリックの印象がめっちゃ薄かった結果――。
「絶望の権化、攻略対象キャラと肉薄してしまったーーー!」
――てなことになってしまったのである。
「神鳥の聖女様! 私も! 私もいっしょにチラシを配りに行きます! 聖女様のお手伝いをさせてください! 下僕にしてくださいーーー!」
「うわぁぁぁあああーーー! ゲームでは親密度という数字が爆速であがるだけだったけど、面と向かって親密度の爆速上昇具合見せつけられるとめっちゃ怖いぃぃぃいいいーーー!」
「ぴぎゃっ! ぴぎゃーーー!!!」
手首をつかんで離さないパトリックにいつもはかわいいかわいい声で鳴くぴーちゃんが金切り声をあげる。
本当はぴーちゃんの目の前であんなセリフ、言いたくない。
でも、前世で叶えられなかったいつでもトリといっしょ生活を叶えるため。ぴーちゃんのシマエナガ的フォルムを守るため。どの攻略対象キャラとも関わり合わず、どの攻略対象キャラとのエンディングも迎えないため。
「パトリックの恋愛フラグをポッキリ折るため――!」
「……恋愛フラグ?」
きょとんと首をかしげるパトリックの目を見て、私は多くの乙女が選択し、私もまた何度となく選択してきた選択肢という名のセリフを叫んだのだった。
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