Mariana Aquarium

多希乃 咲

第1話 あいしてくれてありがとう。

2020年の12月24日 7年目の結婚記念日の1ヶ月前


「7年目の婚約記念日だね、結子。」

「そうですね、礼二さん。早いものね。」

「優斗はお母さんの所に連れてったのか⁇久しぶりに会いたかったな。」

「最近会えてませんでしたものね。」

「そうだな。」

「来月の誕生日には絶対帰って来てね。優斗待ってる。」

「分かった。」

「顔色が悪いですよ。お水でも。」

「あぁ、ありがとう。結子、愛してるよ。」

「私もです。」


2021年 1月23日 結婚記念日前日。

そして、優斗の誕生日前日。

その日、久しぶりに食事を家族全員で行った。


「お母さん、ハンバーグ美味しい‼︎豆腐じゃないハンバーグって久しぶりだね‼︎」

「そうね〜、優斗。礼二さんも食べてくださいね。」

「あぁ、ありがとう、結子。」

「その前に高血圧防止の薬は飲んだ⁇」

「忘れてた。薬をくれ。」

「はいどうぞ、薬です。」

「ありがとう」


薬を飲み終えた後、ハンバーグを食べた。

その後に、礼二さんは言った。

「美味しかった。さいこうの人生だな。」


その後、数時間後に礼二さん…は…。


お父さん、なんで寝てるの⁇

お父さん、なんで白いの⁇

お父さん、なんで叫んでるの⁇

お父さん、なんで砂になったの⁇

お父さん、なんで石になったの⁇


優斗、少し、黙って。耳障りなのよ。


正直、受け入れられなかった。今日は結婚記念日のはずでしょ⁇

今日は優斗の誕生日なのよ⁇

笑って6歳の誕生日を祝ってあげたかったのに。

また1年、1年と思い出を作るって言ってたよね。

それも、今日で終わりなんて…嫌だよ。


礼二さんは7年目の結婚記念日に他界した。

感情が表に出そうで出なくて。出なさそうで出て。

ミントのような、コーヒーのような感情だった。


「結子さん、大丈夫ですか⁇、顔色悪いですよ」

「青空君、大丈夫よ。ありがとう。」

「夫の遺品整理はどうするんですか⁇」

「私たちはあの家を出るから、青空君に挙げる。」

「ありがとうございます。新調しようとしてたので、助かります。」

「いいのよ…。好きに使って。」


その後、家の備品を取りに戻った。

青空君、手際が良くて助かる。いい後輩を持ったな。


「結子さん、これだけは持っていってください。」


私が書いていた日記帳と彼が吸っていたタバコ。


「ありがとう、タバコはお墓にでも飾っとこうかな。」

「そうしてあげて下さい。喜びますよ。きっと。」

「そうね、後で寄って渡してくる。」


礼二さんが他界して1年後、久しぶりに墓へ行った。


「優斗‼︎お父さんの所行くよ‼︎急いで準備して‼︎」

「お母さん、早いよ‼︎」

「帰りにケーキ予約してるんだから行くよ‼︎早くしな‼︎」


礼二さんの好きだったタバコを買って、お墓へと行った。


その帰りにケーキを取りに行き、優斗と食べた。

食べてる時に優斗が変なことを言った。


「お母さん、その手帳、何⁇」

「お父さんにやったことや行ったこと、思ったことを書いてたんだ。

今は、もう、何も書いてないけどね。」

「なら、その話、聞きたいな〜。」

「いいよ〜。長くなるけど、寝ないで聞くんだぞ‼︎」

「うん‼︎分かった‼︎」

「けど、この話をする前に1つ言っとかないとなんだけど。」

「何⁇」

「礼二さん、あいしてくれてありがとう。」


これは、2011年の春から始まった手帳。

結婚するまで、してからの10年間の話である。


この話をする前に、最後の1ページを紹介してからにしよう。


私は水族館は好きだが、途中で疲れる。居心地が悪いからだ。

それならマリアナ海溝のような場所がいい。

両方を取ろうとしてはいけない。どちらもあるから良いものだ。

どちらも取ろうとしたら、付けがまわってくるからね。

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