第76話 ドラゴン召喚

 新しく獲得したスキル。

 それは『召喚』だった。


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覚醒レベル:4

覚醒ユニークスキル:召喚(過去に倒したことのある者を召喚し、使役することができる)

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 詳細についても書かれている。

 召喚できるのはモンスターに限らない。倒していれば人間でもなんでもかまわない。

 召喚と書かれているが、実際はコピーを生み出す。

 コピー体は命令に従わせることができる。

 そして一定の時間が経つと消える。


 いやもう、詳しい説明を読んでいる暇なんてない。

 私はモンスターに囲まれているのだ。


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  人類領域侵攻計画:

ダンジョンは地球外の高次元生命体が作り出したものです。〝A〟も同じく地球外からもたらされた悪意を持つ情報体です。

〝A〟は人類を滅ぼし、人類に取って代わろうとしています。人類と〝A〟の争いが始まります。

さらなる詳細に関しては覚醒LV5が必要です。防衛率0%

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 人類領域侵攻計画?

 そんなことにかまっている余裕はまったくない。


 即座に召喚を起動。


 ありったけのでかい声を張り上げる。


「出てこいーー!! フレイムドラゴン・ロードーーーー!!!!」


 周囲のモンスターたちは、まるで時間が止まったかのように固まる。


 視界が真っ赤に染まる。

 眼の前に出現するのは赤い皮膚を持った巨大なドラゴン。


 狭い空間のなかで天井までその巨体が埋めてしまう。


 強さだけだったら、フレイムドラゴンはここにいるどのモンスターよりも脆弱だろう。


 だが、モンスターを倒すことが目的ではない。

 目的は別にある。 


「ぶち壊せえええええ! すべてを壊せ! フレイムドラゴン!!」


 ドラゴンは体を持ち上げ、首を上げる。


 まるで大きな地震が起こったかのようだ。

 ダンジョンが激しく震える。


 天井が、壁が、扉が、柱が、崩れていく。

 崩壊していく。


 〝A〟がハッキングにより作り上げた階層主。この〝階層主その3〟は所詮まがいものだ。


 220階層はその表層がモンスターハウスを生み出すためのものでしかなかった。フレイムドラゴンにより破壊される。それが壊れていくにつれ、周りのモンスターたちもまるでゲームのポリゴンがバラバラになっていくかのように、三角や四角の形になって光の欠片と散っていく。


 階層の崩壊は止まらない。天井が、がらがらと音を立てて崩れていく。


 ドラゴンが咆哮する。


 ぐるるるるううううぅぅぅ……


 大きく口を開けてブレスを吐く。


 ゴオオオオオォォゥゥ――――


 レンガは真っ赤に熱せられて溶け、床は隆起してぼこぼこに持ち上がっていく。


 いつのまにか、目の前には緑の扉が出現していた。


 上層へあがるゲート。

 待ち望んでいた出口。


 見える景色は瓦礫ばかりだ。

 そこへみんなが降りてきた。


 鎮座する赤い巨体に驚きつつも、大歓声に包まれる。


 ようやく地上へと帰ることができる。

 誰かが扉を開け、すでに何人かが上層階へと上がっていた。


 めちゃくちゃな状態になった220階層。

 瓦礫の山に、たくさんの人。


 呑気に撮影をしているのはユカリスさんだ。


「筑紫春菜がやったのじゃあ。ついに地上への扉を出現させたのじゃあ!」


 活躍した5機のドローンもあたりを飛び回っている。


 ミリアは喚くように騒ぐ男どもを魅了し、整列させたあと、扉の中へと順番に送り込む。軍隊の行進を思わせる同調した歩きで扉へ入っていく。


 1000人以上はいたハンターたちもどんどんと数を減らしていく。


 お兄ちゃんともりもりさんはどこへいったのだろう?


 二人の姿を探す。


 私のことはバレてしまっているので、兜のバイザーは上にあげていた。


「どこへ行った?」


 瓦礫の陰。倒れた柱の向こう。


「え!?」


 私は思わず見えない位置に隠れてしまう。

 そこから兜だけを出し、そっと二人を盗み見る。


「お、お兄ちゃんと……、もりもりさんが……」


 私はごくりと唾を飲み込む。


「なんで、接吻キスしてるんだああああああ!!!!!! !? !?」


 いや、はっきりと見えたわけではない。

 顔と顔が重なっていただけだ。

 ほら、目にゴミが入ったからとか、頬にちょっと埃がついていたとか、きっとそういうことで、私の壮大な勘違いということもある。


 もう一度、瓦礫の陰から顔を出してみる。


 してる?

 どっちだ?


 ギンギンに見開いていたであろう私の目は、後ろからユカリスさんに塞がれてしまう。


「あ、あれ? 真っ暗に……」


「地上へ帰るぞ。筑紫春菜」


 ユカリスさんの目隠しがとられると、そこにいたはずのお兄ちゃんともりもりさんはいなくなっていた。


「あ、あれ? 二人は?」


「まあ、いいじゃないか。子供は見ちゃ駄目なのじゃ」


「なんでユカちん、泣いてるの?」


 ユカリスさんはぽろぽろと涙をこぼしている。


「ユカちんは冬夜隊長のファンだったのじゃあ。決して恋愛感情ではないのじゃ。ファン心理というやつなのじゃあ。お兄ちゃんのような存在だったのじゃあ……」


 そしていつもの笑顔に戻り、


「筑紫春菜も、兄離れせんといかんぞ」


 私の背中をぽんと叩く。


 フレイムドラゴンは一定時間が経過したため消えようとしていた。

 ミリアはドラゴンを見上げ、


「ミリアも、これくらい大きくなるかなあ? 大人になったら、なれるかなあ?」

 と言っていた。


 ハンターたちは全員が扉をくぐり、残るは5人となっていた。


 ユカリスさんとミリアが扉をくぐり、上層階へ向かった。


 もりもりさんと、お兄ちゃんと、私の3人が残っていた。


「おつかれ。春菜」


 銀の装備に身を包んだお兄ちゃん。いつもの優しい顔のお兄ちゃんだ。


「春菜さん。おつかれさま」


 もりもりさんは優しく慈愛に満ちた表情。全身を黄金の装備に身を包み、柔らかく微笑む。


「お兄ちゃん……。もりもりさん……。ありがとうございました」


 私は深く頭を下げる。


 本当はギガント重装鎧を外して、制服姿でお礼を言いたかった。だけど、この装備は呪いで外せない。


「じゃあ、帰ろうかな」


 軽い私の言葉が階層内に響く。


 一方で、重い重装鎧。

 ずしん、と音を立てて私は足を踏み出す。


 すごく重くて大きな鎧。


 これは外せない。

 そう、呪いで外せないのだ……

 ダンジョンの中では……

 このことが新たな悲劇を生むことに……。


 なるかもしれないし、ならないかもしれない。


 ミミックを亜空間に吸い込んだ偽装扉。

 亜空間に吸い込む強力な力でも扉を通ることができない、それくらい私の姿は巨体だ。扉の枠を通れない大きさなのだ。


 上層階へと登ることのできる扉はまったく同じサイズだった。

 そのことに私はまだ気がついていない。

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