第65話 ごめん、もりもりさん
「ちょっと待ってください、これ……。すごすぎません?」
大鎌を振り回し、まるで光の速さで飛び回りながら敵をなぎ倒す。
もりもりさんは軽快にダンジョンを進んでいく。
神王装備の持つスキルと大鎌の組み合わせがうまくハマっていた。
「もりもりさん、すごいです!!」
私はその姿をデバイスで撮影していた。
もりもりさんは視聴者に顔を見られたくないらしく、神王の兜をガードが顔の下半分を覆うように拡張させている。
兜からはもりもりさんの目だけが見えている状態だ。
「春菜さん、こんなにすごい装備を使っていたんですね……」
「私のレベルだと、神王装備のすごさを生かしきれていなかったのですね」
「あと、この大鎌。これもすごい武器です」
キメラからドロップした【サタンの大鎌】。
これがレアドロップの武器だったらしい。
219階層のモンスターにも余裕で攻撃が通る。
豪快な動きで次々とモンスターを倒すもりもりさんの姿がライブ配信されている。視聴者も彼女の見事な動きに関心が高かった。
■もりもりさんの体捌きがすごい
■一流のハンター
■上位クラスでもこれだけの身体能力はあまり見ない
■やっぱり、もりもりさんはワールドランカー?
■いままでのハルナっちの戦闘がお子様のお遊びに見えてくる
■とんでもねー。219階層にはモンスターの死体が転がりまくっている
■あいかわらず防具のドロップはないけれどな
私は神王の盾の後ろに隠れながら配信を行っている。少しくらいはサポートができないものかと様子をうかがっていたが、私の出る幕はなさそうだった。
◆ ◆ ◆
ついにその時がやってきた。背後にダンジョンハンターの集団が現れた。
お兄ちゃんを先頭に、ミリア、その後ろには男性ハンターと女性ハンターが大勢いる。
私でも知っている有名配信者もいた。
変わり者で有名な
他にも有名人がいて、配信を行っているらしきハンターもいた。
もりもりさんはまだ気がついていない。
それくらい戦闘に夢中になってしまっていた。
私はもりもりさんへと近づく集団に道を開ける。
すぐ横を大勢が通り抜けていく。
もりもりさんは大鎌を楽しそうに振り回す。あまりの切れ味に、お兄ちゃんたちは危なくて近寄れないようだった。
不意に、もりもりさんの動きが止まった。
お兄ちゃんの姿が目に入ったようだ。まわりにいる大勢の姿を目にして、きょとんとしている。
お兄ちゃんはずかずかと歩きながら、もりもりさんへ迫った。
「春菜あああ! どう考えたって、218階層で待っていると思うだろ! なんで219階層へ降りてんだ!」
「へ?」
もりもりさんが何かを言う間もなく、お兄ちゃんのゲンコツが飛ぶ。
黄金の兜の上から、強い衝撃。
ゴンッと激しく頭を殴られ、もりもりさんは顔を下に落とす。
「痛ッ!」
もりもりさんは痛そうに頭頂部を押さえた。
「ん? お前、背が伸びたのか?」
お兄ちゃんはもりもりさんのことを私だと勘違いしていたようだ。
「と、……、冬夜さん……。私です……」
涙目になって、もりもりさんはお兄ちゃんを見上げる。
兜のガードが顔を隠しているので、目だけが見えている。
「あ、あれ? 春菜じゃない……。お前、ミ、ミラ……。……!? え!? あれ!?」
もりもりさんは今にも泣いてしまいそうだ。
ミリアがとことこと近づき、もりもりさんの頭をなでている。
いっしょにやってきた集団は何が起こっているのかわからない様子で遠巻きに見ていた。
私は集団の中にまぎれこんで撮影をしていた。お兄ちゃんの視界から隠れようと、他のハンターの後ろに下がる。
お兄ちゃんが妹に食らわすためのゲンコツ。初めての鉄槌はもりもりさんがとばっちりで食らってしまったようだ。
まあ、これで二人が良い仲に発展するなんて可能性は排除されたが、ちょっと申し訳ないことになってしまった。
もりもりさんとお兄ちゃんを近づけないようにとは思ったけれど、私もこんなことになるとは思わなかったよ。
ごめん、もりもりさん。
しかし、世の中は何が起こるかわからない。ここから発展する恋愛だってあるかもしれない。
私の脳内で妄想劇場が始まる。
兄『すまん、君だとは思わなかったんだ。まさか、神王装備を着ていたのがもりもりだったなんて』
もりもり『ひどいです、冬夜さん。私はこんなにも、あなたのことを想っているのに。たんこぶができちゃいました』
兄『悪かった。責任をとらなければならないな。しかし、俺には婚約者がいる……。もりもり、お前は綺麗で、尽くしてもくれるが、俺達は出会うのが遅かった』
もりもり『ゲンコツ、とても痛かったです。傷物にされてしまいました。もうお嫁にいけません。責任を取ってください。私は二番でもいいんです』
兄『そうだな。婚約者には秘密にしておけばいいか。もりもりは綺麗だしな(スタイルもいいし)。よし、責任を取ろう』
もりもり『冬夜さん……』
兄『もりもり……』
そして、二人はキスを……
……
だめだよ、こんなの。
お兄ちゃん最低だし、二股じゃん。
ないない。
私は頭を振って否定する。
ありえませんね、二人が恋仲に発展するのは。
私は心のなかで謝りながら、さらに集団の後方へと身を隠すように下がっていった。
「春菜あああ! 春菜はどこだあああ!!」
お兄ちゃんがわめきながら、私を探している。
遠くに見えるのは涙目のもりもりさんと、それを慰めるように「いい子いい子」しているミリア。
神王装備はもりもりさんから返してもらってね、お兄ちゃん。
今持っている剣と盾はあとで返そう。とりあえず自分のダンジョンデバイスにアイテムとして格納した。(隠した)
ほとぼりが覚めるまで、身を隠していようと思ったところに、有名配信者である
「にゃはははは。筑紫春菜、発見。かくほおおおーー」
ユカリスさんはダンジョンデバイスを7個も体に装着している。目立つのは頭の上にあるデバイスだ。ヘルメットのような兜の頭頂部にはちょんまげを連想させる飾りが取り付けられ、その先端にデバイスがある。
他のデバイスは両肩、両腕、両脚に取り付けられており、計7個で撮影。しかもこれだけでなく、超小型ドローンがユカリスさんの周囲を飛び交っている。
直径10センチほどの円形ドローンはどういう原理で飛んでいるのか、とてもスローな動きのプロペラで浮遊していた。ユカリスさんのまわりを5個のドローンがまとわりつくように飛ぶ。これらが全部、撮影用だ。
さまざまな角度から、普段は見られないような戦闘シーンを送り届けるのが『ユカリスちゃんねる』の特徴だ。
私はユカリスさんの手を取り、強く握った。
「いつも見てます! ファンです! チャンネル登録もしてます!」
握った手をぶんぶんと上下に振る私に、ユカリスさんの体は揺さぶられ、目を回したかのようにふらふらになった。
「うわああ。筑紫春菜あー。酔うーーーうぅぅぅ。目が回るぅぅぅ」
私よりもふた周りも小柄なユカリスさん。戦士でも魔法系でもない、多種多様なアイテムを駆使して戦うタイプ。
ちぐはぐな装飾で統一感がない装備は、どこか子供じみてもいるがそれが人気の理由でもあった。
年齢は非公開で、小学生ではないかという噂もあったが、さすがにそれはないだろう。
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