第49話 今後の計画
もりもりさんのところへ送られてきたメールで、だいたいお兄ちゃんの考えはわかった。
無謀に220階層のボスに特攻するのではなく、気長に救助を待てということらしい。
しかしエンシェント・ヴァンパイアにより、盾は斬られ、鎧の一部がもぎとられてしまった。救助を待つのであれば、より上の階層が望ましい。けれど、私たちはここまで降りてきてしまっていた。
たぶん私一人では勝てないだろうが、今はもりもりさんもいるし、ダンジョンデバイスもアップグレードされた。なんとなく流れが来ている気がするのだ。
それと、これは非常に重要なことなのだが、早くダンジョンを出ないとならない理由ができた。
たぶん、来る。
お兄ちゃんが。
私としてはお兄ちゃんに迎えに来てほしいという気持ちが無いわけではないのだけれど、お兄ちゃんまで巻き込んでしまいたくない。
お兄ちゃんが来たからと言って、攻略が楽になるということはないだろう。ワールドランクが2位でも、覚醒レベルがあがっている私やもりもりさんのほうが今のこの状況には対応ができる。
もりもりさんはお兄ちゃんのメールへの返信が終わったようだ。こちらへと顔を向けた。
「私が持ってきた食料で、半年くらいは生活することができます。けれど、地上からの救助は帰り道を確保しながらやってくるわけですから、年単位で時間が掛かるでしょう。救助を待ちつつ、攻略も同時に考えないといけませんね」
「お兄ちゃんが同じように来てしまう可能性はありそうですか?」
私はもりもりさんの顔をじっと見つめる。
「あるでしょうね……。冬夜さんなら」
もりもりさんは少し遠くを見つめている。私はもりもりさんに聞く。
「でも、準備をしてからだよね。例えば、もりもりさんが帰還石を用意してからここへ来たように」
「そうですね。つまり、すぐに来るわけではないでしょう」
「すると、私たちがやることは?」
しばらく2人で話し合った。
もりもりさんと一緒に、今後の作戦を考えていく。
私ともりもりさんは、ともに自力での脱出を決意している。
それには私がフレイムドラゴンに挑んだように、十分な準備と対策が必要だ。
218階層と219階層を探索し、220階層のボスの特性を知る。
もりもりさんに問いかける。
「一番気になるのは、220階層が単層かどうかです。もし、フレイムドラゴンの時のように4層構造のダンジョンだった場合……」
「春菜さん。逆に単層のほうが厄介かもしれません。そして、ダンジョンデバイスのAIによる予測によると、単層の可能性が高いとのことです」
「私がフレイムドラゴンに勝てたのは、洞窟の奥に逃げ込んで地理をうまく活用できたからでした。でも、単層の場合はそれができないですね」
私たちの身長と変わらない大きさのモンスターが階層主だった場合、それは非常に厄介なことのようだ。
じっくりと時間をかけて調査をするような時間を与えてくれない。
勝つためには事前に敵を知り、観察する必要がある。
事前に情報を得る……。
はあ……。
私はつい、ため息をつきながら頭に手をやった。
新しく獲得したスキル。ダンジョンシミュレーター。これを使えば可能なのだ。
このスキルは可能性のある未来を事前に体験できるシステムなのだろう。
すでに使っている。帰還石を使った場合にどうなるのか。
記憶は残らないのだけれど、心の何処かに刻まれる。その行動が正しいのか間違っているのか。
おそらくモンスターと戦った場合は、勝つことができるのか、できないのか。
そのくらい大雑把でしかないが、事前に試すことができるということだ。
けれど、使ってはいけない禁忌のスキルだとどこかで感じている。
それでも、また使わなくてはならないかもしれない。
禁忌のスキルだと感じる理由。
それは覚醒レベルが4や5に上がった段階のことだ。
想像でしかないのだけれど、記憶が残るのではないかと思っている。
つまり、それは未来を知ることができるということだ。
希望ばかりではない。そこには絶望しかない可能性がある。
たとえば、ダンジョンシミュレーターで220階層へ降り、階層主と遭遇する。
階層主の情報が丸裸だ。ダンジョンデバイスもアップグレードされており、階層主はより詳細に解析されるだろう。
私たちは十分な情報を得て、より確実な方法で階層主を倒すことができる。ただし、それは勝てる見込みがある時だ。
絶望とは。
未来を知ってもなお、方法がない場合だ。
どうやっても階層主を倒すことができないと知ってしまうことだ。
どの未来を選んでも、絶望しか残らない。
私の覚醒レベルが4になれば、おそらくダンジョンシミュレーターの能力も上がる。
それを使えば、220階層へ降り、階層主と
攻略の鍵は、私かもりもりさんの覚醒レベルを4にまで上げること。けれど、それが正しい選択なのか。
どうやっても倒せないと知ることになるのだから。帰ることは不可能だという現実を突きつけられる。
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