第5話 モンスターを倒します
「では、今からモンスターの討伐を始めます」
宣言するとコメント欄がざわついた。
私の計画はこうだ。
ここは狭い洞窟だ。そして、その奥までモンスターが詰まっている。
まず、私は石を拾う。そしてそれを神王スキルを使って投げる。
石はモンスターを貫通し、洞窟の奥まで到達するだろう。
つまり一撃でもって複数のモンスターを撃退、私は一挙に大量経験値を得る。
一気にレベルアップ。経験値うはうは大作成。
そう、そのために直線でまっすぐのびるこの道を来たのだ。
「つまり! この場所までやつらを誘導したのですよ!」
私はすぐに行動に移すことにした。素早くかがんで石を拾い、くるっと振り返る。目に入るのは大量のモンスターたち。
あまりに多くのモンスターが洞窟の奥に詰まっていて怯みそうになるが、心を奮い立たせて腕を振りかぶる。
「くらえ! 神王スキル!」
頭上に上げた腕を一気に振り下ろす。私の手から放たれた石は、空気との摩擦で真っ赤に燃えながらモンスターの一団へとまっすぐ向かう。そして、先頭にいたモンスターにぶち当たり……。
かきーん、という音とともに弾かれ、石は細かく砕け散った。そのうちのいくつかが私の方へと飛んできて……。
1個がわたしのおでこに、ぽこーんと当たった。神王の兜のおかけで私にはダメージがない。
ダメージはないけれど、石が当たった勢いで顔は天井を向いてしまう。
見事なまでにレベル1の非力さを露呈していた。
しばらくコメント欄は動かず。
目の前のモンスターも動かず。
静寂の時が流れた。
■ただの石なら、そうなるよな
■ここで神王の長剣を投げてたら
■1発逆転もあったのに。残念
コメント欄が動き出すと同時だった。目の前で動きあぐねていたモンスターたちが一斉に動き出した。私に向かってきたのだ。
「ひ、ひえええええっ」
私は奇妙な叫び声を上げながら逃げ出した。ダンジョンデバイスだけは絶対に落とすわけにはいかない。
「どうしましょう、どうしましょう」
他に攻撃手段がないし、それでも私にはこれしかないから、石を拾っては後方へと投げつつ逃げていた。
幸いというか、なんというか、私が投げた石は見事なまでに砂粒上になり視界を覆う。
モンスターの足が少し鈍くなり、わずかだけれど私との距離が開いた。
「す、砂埃大作戦。とりあえず成功しているようですー」
逃げながらも実況をやめないのは、なんとか視聴者からこの状況を脱するヒントを貰いたいからだ。
私を追ってくるモンスターで速いのは、羽をつけている比較的小型のモンスターだ。体重の軽さと移動能力の高さからだろう。
コウモリタイプと昆虫タイプがいる。
なんとかこいつらの飛行を阻害することはできないだろうか。
あんな薄っぺらい羽くらい、私の
私の
もしかして……?
私は足元の石を拾い、後方へと投げつける。わざと地面や天井にもぶち当てた。あたりは砂埃に包まれる。視界が一気に悪くなった。
■なにしてんだ?
■早く逃げろって
■ダメージゼロだろ?
デバイス解析によると、敵に与えたダメージはほぼゼロ。完全にゼロではないけれど、これでは倒せない。
「しかし、私はこれに賭けるしかなくて!」
少し大きめの石を拾い、力を込める。
「頼む。これで、なんとか……」
私は叫びながら石を投げつける。石は空気の摩擦でまたもや赤い火を放つ。炎に包まれ、真っ赤に燃えた弾丸のように砂煙に入っていった。
羽が生えたモンスターたちが、細かくなった砂の中にいる。その中へと吸い込まれるように入った真っ赤な石。すぐに轟音とともに風圧がやってきた。
ぼっごおおおおーーーーん!
爆発音とともに、私は後方へとふっとばされる。
ダンジョンデバイスからは通知音。次々と流れる。
経験値を獲得。
経験値を獲得。
経験値を獲得。
経験値を獲得。
経験値を獲得。
私が投げた石により、爆発が起こっていた。
コメント欄はかなりざわついていた。
■
■そんなにうまくいくもの?
■ただの石じゃ無理。
■可燃性の粒子が粉塵になっている中に火種が発生すると爆発が起こる……って解説したほうがいい?
私の粉塵爆発について詳しく語る人もいた。
■最初に投げた時に燃えたからね。可燃性の鉱物が混ざってると判断したのだろう。
■粉塵爆発でモンスターを倒すって……異世界小説じゃないんだから……
■俺もカクヨムで読んだことある たしか小麦粉で爆発させてた
■本物のダンジョンで粉塵爆発やる奴、はじめて見たよ
■狙ってできるんだ、これ
爆発は思った以上に、衝撃が強かった。なんとか立ち上がる。
「わ、私の、ダメージは?」
私は自分の体を確認する。あまりに強い衝撃のため、気を失いそうになった。ところがほとんどダメージは受けていなかった。おそらくは神王装備のおかげだろう。
それを確認するやいなや、私は走って逃げ出す。
追ってきたモンスターの数に比べ、経験値獲得の通知回数が少なすぎた。
たぶん手前にいた羽の生えたモンスターを少し倒せただけなのだ。
かなりの打ち漏らしがいることは間違いなかった。
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