お兄ちゃんの装備で、ダンジョン配信!

高瀬ユキカズ

フレイムドラゴン討伐編

第1話 初めての配信 レベル1なのに最下層へ落ちました

「とうとう、こんなところまで落ちてしまいました……。現在は地下212階層です……」


 今どきは女子中学生によるダンジョン配信も珍しくはない。

 しかし、私にとっては今日が初めてだ。


 配信画面に映るのは私の姿。

 神王しんおう装備を身に着けている。


 全身が黄金色に包まれ、私の顔は兜の装飾に埋もれてしまってよく見えない。


【神王の兜】【神王の鎧】【神王の小手】【神王のブーツ】【神王の盾】【神王のネックレス】【神王の長剣】


 フルセットボーナスで各ステータスは+100となる。


 ここは誰も到達したことのない未踏の地。ダンジョンの地下深く……。


「ここから地上に戻らなくてはなりません。上へあがる道を探そうと思います」


 薄暗くて先が見通せない。今いる場所は洞窟状になっており、鋭く尖った岩が地面からも天井からも生えている。


 その向こうではぐつぐつと煮え立つような音がしていた。マグマが噴出しているのだ。


 マグマは赤く発光しており、画面に映る私の背景が薄暗い赤色をしているのはそのためだ。


 画面にはコメントが流れる。


■ぽんた:フェイクなんだよな……これ……

■アクゾー:まあ、ワールドクラスプレイヤーが到達しているのが165階層だしな

■ぽんた:212層が本当なら、人類未踏エリアが一気に更新ってか


 私へのコメントというより、2人で会話をしていた。


「フェイクじゃないんです。ここは本当に212階層なんです」


 なんとか信じてもらおうと訴えかける。


 ダンジョンにはハンターを下の階層へと落としてしまう罠が存在している。そこに私は入ってしまった。


「落ちてしまったんです。シューターに……」


 シューターは下層への罠でもあるのだが、上級ハンターたちは下へ降りるためのショートカットとしても使う。


 そんなシューターには実は安全装置が設定してある。


■ぽんた:なかなか、リアルな悲壮感だな

■アクゾー:ほんとにシューターに落ちてないよな?

■ぽんた:ほら、セーフティーが設定されているから

■アクゾー:でも、お前。こないだ初心者ハンターをからかって下の階層へ落としてたじゃん

■ぽんた:ちゃんと助けに行ったじゃねえかよ

■アクゾー:涙目だったぞ。かわいそうに

■ぽんた:いやあ。それは、俺っちのチャンネル登録者数のためだし。ついに1万突破したし

■アクゾー:神王装備がコスプレならシューターへは入れないしなあ

■ぽんた:本物……かね?

■アクゾー:どうだろ?

■ぽんた:レベル1なんだぜ? こいつ?


「本物なんですよお……。この神王装備も……」


 ダンジョンデバイスにはステータス開示設定がある。


 視聴者は私の基本ステータスを見ることができる。

 私は間違いなくレベル1だった。


 ただし、アイテムや装備は開示されないので、神王装備が本物だとは信じてもらえていないようだ。


 今はAIも発達して簡単にフェイク映像を作ることができる。


 フェイクだと疑われているし、コスプレだと思われている。まあ私のレベルなら仕方のないことだろう。


 チャンネル登録者数:0

 閲覧者数:5


「とりあえず、配信を続けますね。なんとかみなさんの助けを得て、地上へ帰りたいと思います。ごらんください。ここが人類未踏の地、212階層です。どうか、この恐ろしい場所から脱出するために協力をお願いします」


 私は背後の景色に向けて、手を広げた。


■ぽんた:5人しか見てねえけどな


 そう、それが問題だった。

 この配信を見ている視聴者がとても少ない。


「本当はもっと上の層でちゃんと配信を始めるつもりだったんですが、モンスターに追いかけられて、逃げてたら、落ちて落ちて、落ちまくって……」


■ぽんた:いやあ、いくらなんでも落ちすぎだろぉ


 シューターに落ちたのは、ぽんたさんたちが一方的に悪いわけではない。


 神王装備がコスプレだとからかわれたことと、私が調子に乗って本物であることを証明しようとしたことが原因だった。


 そのあとはモンスターに追いかけられて、私がコメントを読む間もなく次々とシューターに落ちてしまったというわけだ。


 私の無知さや無謀な行動も大きく関係していた。ろくに戦い方も知らないものだから、逃げまくっていたことも理由にある。


 とにかく来てしまった以上、ここから帰らなくてはならない。


「ここはすごいところです。非常に怖いです。先程ちょっとのぞいたんですが、この奥にとってもおっきなモンスターがいたんです。すっごく、おっきかったんです」

 

 私はダンジョンデバイスのカメラを洞窟の奥へと向ける。 


「10mくらいはあったんじゃないでしょうか」

 

■ぽんた:現時点での最高身長モンスターはサイクロプス。身長は約3.5m

■アクゾー:そもそも、そんな空間が存在しない

■ぽんた:つまり、10mは盛りすぎ。ダンジョンに入らない

■アクゾー:やっぱフェイクか?


「本当に大きかったんですよ。信じてください」


■ぽんた:そもそもさ、神王装備って1個で12億円が相場なのよ

■アクゾー:フルセットだと84億な


「84億!?」


 私は目を見開いて驚く。


■ぽんた:どう考えてもコスプレとしか思えんだろ


 信じてもらえないのも当然だった。私が着ているのはとんでもない装備だった。

 この装備は、実はお兄ちゃんのものだ。私が勝手に持ち出していた。


 84億だと知っていたら、持ち出さなかっただろう。それを着て、こんな絶対に帰れそうもない深層へと落ちてきてしまった。


 その時、コメント欄に動きがあった。

 新しい視聴者さんがコメントを書き込んでくれたのだ。


   ◆ ◆ ◆


 ダンジョンが出現してから25年。世界は大きく変化した。


 私が通う中学校でもダンジョンハンターの話で持ちきりだ。

 

 命をかけてモンスターを倒し、人類未踏の深層へと挑む。

 そんな配信を見るだけでも、私たちの心は踊る。いまではダンジョン配信を見ていない中学生なんていないくらいだった。


 ハンターは強さに応じてランキングがつけられ、世界ランク100位まではワールドランクプレイヤーと呼ばれていた。


 そんなワールドクラスの兄を持つのが私、筑紫春菜つくしはるなだ。


 私はまだ中学2年生、14歳。


 これまではダンジョンにも潜ったことがないし、もちろんダンジョン配信もしたことがなかった。


 それなのに、今こうして自撮り棒の先にデバイスを装着して配信を行っている。


 私が今いるのは東京都、奥多摩に出現したダンジョンの地下212階層。


 私の背後では地獄のような風景が広がっていた。熱いマグマから立ち上る蒸気があがっている。


 こんなはずではなかった。

 ほんの出来心というか、ちょっとお兄ちゃんを困らせたかっただけだった。




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