外れスキルの冒険者(旧タイトル 外れスキルで成り上がり)

@banananeko

森に捨てられる



眠たくなるような、ポカポカとした柔らかい日差しが、ポッカリと空いた穴から、薄暗い洞窟を暖かく照らしている。


そして、その洞窟内の人一人分もある大きな岩にちょこんと座っているのは、小さな赤ん坊。



俺である。



どうして普通の大学生だったのに、正真正銘の異世界にいるのか。

どうしてこんなところにいて、赤ん坊なのか。


自分に起こったことながら、まったく意味不明だけど、もう一度振り返ってみることは大切だ。たぶん。


俺の平凡だった人生を、粉々にした出来事が起こったのは、今から約数時間前に遡る。



✕ ✕ ✕ ✕ ✕



少し薄暗い店内に、軽快なジャズの音が響く。


カウンターに吊るされたガラスのジョッキ類、見えるだけでも、多く様々な種類の酒。むんと立ち込める酒の匂い。


部活の先輩の馴染みだという、少し洒落た雰囲気の酒場にて、新部員歓迎会という名の飲み会が開かれていた。



その飲み会の中心となっているテーブルでは、部活の1、2、3年生が、明るい笑い声が響かせている。


俺、ごく普通の大学4年生が座っているのは、そのテーブルの端の方の席だ。


今、俺はその席で酒を酌み交わしながら部活の同輩たちと話をしているところだ。


すると、不意にトイレに行きたくなったので、同輩に声をかけて店の奥の方へ向かう。


「トイレに行ってくる。」


「おう。」


声を掛けると足早に、曲がり角の奥のトイレへ向かった。





トイレを済ませ、席に戻ろうと歩きだすと、四、五人の後輩たちが、一つのテーブルに集まって、談笑していた。


新部員歓迎会だから、彼らが主役のはずで、普通ならあそこにいる後輩のように、先輩たちにもみくちゃにされるはず。

いや、あれはさすがにやりすぎだけど。



ポッカリと穴が空いたように後輩たちの周りだけ誰もいない。

でも、後輩たち自身も周囲もそれに気づいてない。実際俺も席が近かったので、目に入っていたはずだが、何故かここから見渡してみるまで気づけなかった。


不思議に思って、後輩たちのところに近づいていく。



後輩たちの近くまで来て、声をかけようとしたそのとき、ぴかりと後輩たちの足元がきらめき、魔法陣としか呼べないものが浮かび上がった。



「(なんなんだこれ!?)」


「(きゃああああー!!)」


「(誰かー!!)」


後輩たちは何かを言っているようで、口をパクパクと動かすけれど、何も聞こえず、周囲も異変に気づかない。


「は?」


思わず、どすのきいた声が出た。

呆然としながら、俺の足元にもきらめく魔法陣を凝視する。


魔法陣がひときわ強く輝いたとき、視界が暗転した。



✕✕✕


真っ暗で何も見えない。しかし、目を開けようとしても開けられない。


「おぎゃあああ!」


「あらあら、元気なこと」


赤ん坊の声と、優しげな女性の声がする。


なんでさっきまで、酒屋にいたのにこんなところいるんだろう。なんだか体が小さく不自由になっているような気もするし。


優しく温かい手に撫でられる。ん?撫でられる?


「ノア、足をバタバタさせてどうしたの?」


なにか、これ以上考えてはいけない気がして、足をバタバタさせ、考えたことを振り払おうとすると、そんなことを言われる。


ん?足をバタバタさせたら、女性がそのことを聞いてくる?


もしかして俺、ノアと言う名前の赤ん坊になっ「おぎゃああああああ!!!(そんなわけない!!!)」


口から声が出ず変わりに、赤ん坊の鳴き声がでた。

そう思ったのを最後に、俺は衝撃のあまり人生で初めて気絶した。


○✕✕


〜ノアが気絶した後



「おやおや元気なことじゃ。それでは鑑定をしようかの。」


ガチャとドアの開く音がすると、白いローブを纏った、穏やかそうな老人がいった。


「はい、お願いいたします神父様。」


優しげな声の女性改め、ノアの母親は、老人に返事をした。


それを聞くと、老人は頷くような気配がし、手をノアの頭にかざした。


鑑定ステータスオープン


#<名前>ノア・クラーク

<HP> 1/1

<MP> 1/1

<筋力> 1/1

<体力> 1/1

<瞬発力>1/1


:レベル1

:スキル "魔香"

:効果 "魔獣を引き寄せる" #


老人がそうつぶやくと、目の前に透明なウインドウが現れた。


「こ、これは。」


それを見た老人は驚き悲しんだ。


「どうだったのですか?」


女性は不安げに聞いた。よっぽど、老人の顔色が悪かったようだ。


「この子は、神に恵まれなかったようじゃ。スキルは"魔香"じゃ。」


そういった老人は落ち着くように、ふうと息を吐いた。


「そんな…。この子は、この子はどうなるのです?」


それを聞いた女性は、目を見開いた。

それから、すすり泣きながら、悲しげに聞いた。


老人は目をつぶった。


「私達のところに預けるのじゃ。」


その問いには答えずに、老人はそうとだけ言った。

女性はそれを聞くと、近くの棚から、ミルク

や干し肉を取り出し、袋に入れた。


「神父様お願いいたします!自己満足かもしれないですが、これをこの子に。」


そう言うと、老人に袋を手渡した。


「わかっておる。儂も弱いものしか張れんが、聖域をはっておこう。」


老人はそう答えると、肩から下げた。


女性は目を伏せ、


「ごめんね。」


そうつぶやき、ぎゅっと一回、寝息を立て

穏やかに眠っている、ノアを抱きしめると、老人の手にわたした。


「失礼。」


老人は挨拶だけすると、扉を開けて外に出た。


「魔の森のそばまでいってくれんかの。」


「魔の森までか、わかった。」


老人は、近くに止まっていた馬車の御者にそう頼むと、馬車の中に入った。


田舎の風景の中を、しばらく進んでいくと、魔の森が見えてきた。魔の森はその名の通り、魔獣と呼ばれる生物が闊歩する森だ。


「ついたぞ。」


馬車の御者が言ったとたん、ガタンと馬車が揺れ、止まった。

ぐらんと老人の体が傾く。正直に言ってあまり乗り心地は良くない。


「ありがたい。」


そう老人はいうと、ノアを持って歩き出した。


しばらく歩くと、これまで、暖かかった空気が、涼しくジメジメとしてきた。


「ここからが魔の森じゃ。」


老人はそうノアに話しかけると、さっきよりも足早に歩き出した。

まだかろうじて、残っている人が通ったあとのようなものを、たどっていくと、岩の隙間に空いている洞窟とも言えないような、小さな穴があった。


聖域サンクチュアリ


老人がつぶやくと、手から光が溢れて、小さな洞窟を満たした。


老人は小さな洞窟に、ノアを袋と一緒に入れると、来た道を戻っていった。


◯✕✕


#◯✕✕の範囲は、起こった出来事の補足なので、主人公は知りません。


少し変更しました

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