十五月頃あけます

春泥

プロローグ

 円頓寺えんどうじ商店街は、名古屋で最も古い商店街で、その歴史は慶長17年(1612)頃にまで遡る。現在、この商店街では七夕祭りや様々なイベントを開催して、地域の活性化に貢献している。


「円頓寺 本のさんぽみち」は、2018年以降、年一回開催されている。参加者が本を持ち寄って販売するフリーマーケット形式のイベントで、北陸、三重、京都、東京など様々なエリアから書店や出版社がイチオシの本を持って集い、アーケードの下で小さな本屋を展開する。


 * 


 この物語の語り手は、円頓寺商店街の近所で育ち、何度もそのアーケード前を通過しながら、ずっと無関心でいた。大学生になったばかりの夏休みのある日までは。


 書店があるのではないかと期待して、商店街に足を踏み入れた大学生。古書店を発見するが、閉ざされたシャッターには不可解な貼り紙が:


『十五月頃あけます』


 困惑する大学生の前で、シャッターが開く。なかから現れたのは――

 

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