修羅場りそうで修羅場らない、ちょっと修羅場な話

どくいも

多分、ひどいことになると思います


――そして、彼女は星となった。

――瞬き、輝く、一等星にだ。


私の幼馴染、【宮永ヒカリ】は気さくな性格の娘であった。

ちょっとしたことで、連絡を入れ、お菓子の形一つで盛り上がれる。

遊びに誘えば、秒で返信が返ってきて、逆に向こうから誘ってくる事もあった。

そんな彼女と小学校からの付き合いであり、高校でも二人一緒。

お互いの家にしょっちゅう遊びに行く仲であった為、彼女を近しい存在であると思っていた。


――そんな我々の関係性が、是正されるきっかけは、高校2年の夏の時。


当時、私達の学年では、動画をアップすることが流行していた。

歌ってみた動画や踊ってみた動画などが主流であり、その再生回数で一喜一憂していたのだ。


だからこそ、当然自分達のそれに挑戦する流れになった。

ヒカリは歌と踊りを担当し、自分はそれ以外担当した。


そして、幸運なことにハルは歌と踊りの才能があり、自分のサポートはそれを邪魔しなかった(と、思う)。


お陰で動画はウン万再生数を稼ぎ出し、クラスの中でも話題の中心になれた。

なんなら、テレビでも紹介される程となった。

予想以上の成果に、互いに互いを褒め合い、大いに笑った。

二人なら何でもできる気がし、どんな夢でも叶えられる気がした。

未だ色褪せない青春の一ページといえるだろう。


――しかし、それは間違いだった。


それに気が付いたのは、彼女がプロデビューをするといった時であった。

当時イケイケだった私達だったが、プロともなれば話は変わってくる。

口では応援するよ、自分達ならきっとできるとは言ったものの、内心とても不安

であり、自分が全力でサポートしても、うまく行くかどうかわからないというのが本音であった。


――しかし、それは杞憂だった。


彼女の声は、プロの世界でも十分通用した。

踊りはすべてを魅了した。

観客の前でも微塵も委縮せず、環境に合わせて声質を変えるのもすぐにマスターした。

なによりも、世間からの声に負けるどころか、彼女の言葉一つで世間を制御していた。


――そう、彼女は無敵だったのだ。


初めは彼女の歌や踊りを指導していていた。

しかし、彼女はそれを一発で会得し、そもそも自分の指摘が正しかったかどうかも怪しい。

彼女のマネージャーのまねごとをしたこともあった。

しかし、彼女にそんなものは必要なかったし、今ならば私のような素人ではなく、プロの人がついている。

彼女に精神面でアドバイスしたこともあった。

そう、これこそまさしく不要であり、彼女の金剛性の精神は世間の風程度では微塵も揺らがなかった。


――だからこそ、それは自然の摂理だったのであろう。


ほぼ毎日どちらかの部屋に集まっていた日常は、隔日になり、週ごとに。

大学入学を契機に彼女はプロ、自分は大学と離ればなれになった。

毎日呼吸のような頻度で取り合っていた連絡は、一日おきに、何かあったときに。

最近では、MVの見本を見せてくれる時だけ一報入れる程度だ。


……少しだけ、寂しいと思った。

彼女とは、長年一緒であり、自分のにいるのが当たり前だと思っていた。

物理的にも心理的にも遠くに行ってしまったことを嘆いた時があった。


――しかし、それでいいのだ。


自分は気が付かなかっただろうが、彼女は元からすごい人だったのだ。

よくよく考えてば、彼女は昔からどんなことでもそつなくこなしていた。

いくつかの隙も、私の合わせてわざと作っていたのかもしれない。


画面に映る彼女を見つつ、私はふと思い出すのだ。

彼女と笑い、あるいはしゃべり、共に過ごした日々を。

必然であると思っていたし、それがあるべき姿だと思っていた。


――しかし、それこそが偶然だったのだ。

――彼女という名の一番星が、偶然立ち寄った仮住まいに過ぎなかったのだ。


画面の向こうの彼女が、今度海外のコンサートツアーをやるらしい。

そういえば、そのことについて連絡を受けていないなと思いつつ、そのことを気が付いた自分を思わず苦笑する。

自分は自分の、彼女は彼女の人生があるのだ。

私たちの人生は、すでに分かれてしまったのだ。

ならば、後はうまく行くように彼女の活躍を祈るのが、彼女に一時とはいえ、惹かれていた小石の役目だろう。





「ね~ぇ、クゥちゃ~ん??

 ぼーっとしてないで、ご飯ちょうだ~~いよ~~!!」


「……はいはい、わかったからわかったから。

 服を引っ張るのやめなさい」


などと考えていると、後ろから声がしたので考えるのを中断。

茶碗に玄米をよそい、揚げ物に火を通して、彼女と自分の分のご飯を準備した。


「わ~~い!!唐揚げだ!唐揚げ!

 ボクのお願い聞いてくれたんだ~!ありがとう!

 それじゃぁ、冷めないうちにいただきま~~す♪♪」


さて、目の前で自分の作った唐揚げを食べているのは、【成瀬ヤミ】。

生粋の陰キャであり、生活力0の生粋の厄介娘である。


「……先に言っておくが、唐揚げは一人3つまでだからな?

 それ以上はダメだ」


「え~~!!そんな~~!!

 ボクのリクエストなのに~~!!こんなにサクサクでおいしいのに!

 ねぇ、お願い、なんとかならない??」


「……デザートが一つグレードダウンしてもいいのなら、もう一、二個いいぞ」


彼女との出会いは、大学に入ってしばらくたったころ。

部屋移動することも知らずに、誰もいない講義部屋でパニックになっている所、あまりにも見ていられずに、声をかけてしまったのが始まりであった。


「ふむ、ということは今日のおやつはケーキじゃなくて、フルーツという事か……

 うん!全然かまわないね!それじゃぁ、唐揚げいただきま~~す!!!」


それ以降、勝手に粘着されてしまい、大学でも引っ付き虫に。

なんなら、休日まで浸食し、家にまで押しかけてくるほどだ。

もちろん、断らない私も悪いのだが、当時はヒカリが自分の手元から離れ、精神的に寂しかったのだろう。

それで彼女のわがままを聞いていたら、どんどん懐かれ、夕食まで一緒に食べるように。


「ほい、デザートのオレンジな」


「はーい♪」


そして、今ではアパートで隣の部屋同士という名のほぼ同居生活をしている。

なんだか、知らない人が見たら私たちの関係を付き合っているように見えるかもしれない。

しかし、それは違う。


「……今日は生配信の日だからな。

 前回の食べすぎ寝落ちの反省をいかして、三切までだ」


「え~~!!」


そう、彼女は現役の個人Vtuber【ルナ・ダークネス】であり、私はそのサポートのためにいるからだ。

なお、こうなった経緯は生活費をガチャで溶かしてしまったのが始まり、このままでは死んでしまう嘆いていた。

放置して死なれるのもめんどくさいのと単純な自分の限界を知るため、高校の頃の経験から【Vtuber】になることを薦めた。

自分のプロデュースでどこまで伸びるかと、実験し続け、世話をし続けた結果が今の状態である。


「もうそんなことしないよ~!

 ボクだって、もう一年以上配信やってるんだぞ?

 そんな新人みたいなミスもうしないよ!」


「……そうやっていって、先日配信で問題発言して、登録者5000人くらい溶かしたのはどこのドイツだっけ?」


「うぐあああぁぁぁぁあ!!」


「おまえは、そんなんだから歌の才能はあるのに、登録者数が10万超えないんだ。

 Vtuber一本で生活したいなら、もう少し自己管理しろ」


「……無理、絶対無理。

 全部やって……」


その結果が、登録者十万前後という何とも言えない結果になった。

個人でしかも歌と雑談メインでここまで行くのは、すごいといえる。

だが、歌の才能がある彼女ともにやって、この程度までしか伸ばせないのが自分の限界なのだろう。


「……おまえさぁ、金は既にあるんだから、プロのマネージャー雇おう?

 いつまでも俺に任せてないで、ボイトレも本場のほうがいいらしいぞ?

 ほれ、新宿にあるこことか、女の先生だし、評判イイらしいぞ」


「やだ!!!

 くぅちゃん以外の他人は信じられない!

 部屋から出るの怖い!!引きこもる!」


「……いや、ここ俺の部屋だからな?」


「ほら!ボクはこれでいいって、いつまでもくぅちゃんにお願いし続けなさいって、リスナーのみんなも同意してくれてるもん!!」


「ツイートするまえに、一報入れろって言ったよね?」


一応いいわけではないが、こいつは歌の才能はあるのに配信が伸びないのは、頻繁に炎上しているからだ。

それこそ、アイドルやVtuberは男の影が御法度であるのに、こいつはいくら自分がサポート専門とは言え、そのことを平然と暴露したのだ。

しかも、SNSを任せれば、失言の雨あられ。

一度真剣に携帯を取り上げるかどうか悩んだほどだ。


「ふぃ~、くったくった!ごちそうさま!

 よし!それじゃぁ、配信頑張るぞい!」


正直、彼女の世話は少々めんどくさいし、彼女の将来のためにも残りはプロに任せた方がいいのだろう。

しかし、私が辞めるそぶりをいせるとすぐ駄々をこね、配信も炎上する。

まぁ、個人的には、彼女は根が悪人でない上に、一緒にいて苦ではない。

だから、大学を卒業するくらいまでは付き合ってやるか、というのが本音である。


「じゃぁ、お疲れ様で~~す!バイヤミ~~!!

 ……ふぅ、疲れた~~。

 あ、ところで、さっきクゥちゃんがぼーっとしていたけど、あれ、なんだったの?

 テレビのアイドル情報だったけど……は!もしや三次元に興味がおありで!?」


そんな風に自分の半生について、思い返しているとヤミに話しかけられた。

配信終わりの蒸タオルとお手製はちみつレモンキャンディを渡しながら、答えることにした。


「いや、別に。

 ただ、知り合いがテレビに映ってたんだ」


「へ~~、そうなんだ。

 で、だれ?バックダンサー?観客?

 それとも、超時空歌手アイドル『宮永ライト』その人とかw?」


「そうだが」


「……え?」


「だから、宮永ヒカリ……ああ、芸名は宮永ライトか、その人について思い出していた」


「えええええぇぇぇぇえええええ!!!」


大声を上げるヤミに、静かにしなさいと注意をしながら今しがた震えたスマホを見る。

すると、そこにはちょうどヒカリからラインが来ており、そこにはいつも通りヒカリが踊っている映像が流れてきた。


『おひさ!!元気にしてた??

 さっそくだけど、これをよろ~~。

 [××××] 』


『(かっこいい!のスタンプ)』


『おう!サンキュー♪

 で、点数は?』


『点数は……97点!!

 踊りの緩急が曲にマッチした、素晴らしい出来栄えです!

 ただし、2分32秒の当たりで、少し足先の気がぶれたかな?という印象を受けました( ー`дー´)キリッ』


『うむむ!やはり先生は辛口だ……!!

 じゃぁ、スタッフに行って修正してくるぜ!

 ちゃお!またね!!』


相変わらず、ラインだと気さくだ。

そんな様子に、どこか苦笑しながらスマホを閉じる。

それを後ろから覗いていたのか、ヤミが再び大声を上げた。


「あ、え、ひえええぇぇぇぇ!?

 ほ、本当に宮永ライトちゃんじゃん!!

 いまの、世間で出回ってないスタッフオンリー言う奴じゃん!?

 ……クゥちゃんの妄想じゃなかったんだ!!」


ぶっとばすぞてめぇ。


「え?も、もしかして、くぅちゃんってライトちゃんのマネージャーとか?

 だ、だから、私の魅力にもなびかないし、こんなにプロデュースに詳しいとか!?」


「そんなわけないだろ、いいとこ知り合いだよ。

 今のラインだって、昔からの付き合いからの義務みたいなもんだ」


「……本当?」


「嘘ついてどうするんだよ、ほれ、ラインだってきっちり1か月に一回。

 内容も義務的な物ばかりだろ?」


「あ~、なんだぁ!びっくりしたぁ。

 ……ふぅ、危ない危ない、危うく早とちりでツイートするところだった」


「どうせ信じてもらえんし、嘘を広めたって理由でまた炎上するだけだぞ」


お風呂に入りたがらないヤミを無理やり風呂に入れつつ、考える。

そういえば、今のヒカリも、こうして誰かと縁を結んでいるのだろうかと。

一応、ヒカリにはプロを目指すものとして、男の影を感じさせないように伝え、彼女もそれを了承してくれた。

だが、今の彼女は画面の向こうの人であり、同時に男の一人や二人作ってもおかしくはない。

そのことを少し寂しいと思うと同時に、自分にはそんな資格などないことを思い出し、苦笑した。


「う~~……いや、ないない!だって、あの国民的、いや世界的スター宮永ライトだよ!?

 で、でも、万が一があったら……いや、まだ時期が……」


「ん?どうした?何か言いたいのか」


しかし、髪をドライヤーで乾かされながら、ヤミはうんうんと悩んでいる。

そして、髪を乾かし終わった後、意を決したようにこちらの顔をまっすぐ向いた。



「くぅちゃん、色々言いたいことはあるけど……。

 結婚を前提に、付き合ってください!!」


「え、やだ」


「ええ~~!!」


いや、何を驚く要素があるのだ。

確かに彼女は根は悪人ではないし、かわいい所もある。

が、家事も料理も洗濯もできないし、家には引きこもり。

仕事はまだいいとしても、こちらが言わなければ、一週間以上風呂に入らないのは人としてどうかと思う。


「うう、きびしい、くぅちゃん、厳しい……」


「いや、これ位普通だからな?」


「いいじゃんいいじゃん!結婚位さ~~!!

 別に今すぐ一緒に死んでとか、そういうお願いじゃないし!

 ちょっと、紙にサインするだけだから!!」


「アホか!人生積むわ!

 あ、こら、勝手にツイートするんじゃありません!

 また炎上するだろ!」


その後、激しくごねるヤミに根負けして、妥協案を出すことにした


「とりあえず、婚約者(仮)で今は我慢するよ!

 でも、3年後お互いに相手がいなかったら……わかってるよね!?」


「はいはい」


「あ!いないのに、彼女ができたとかいうのも禁止!

 今の生活リズムを無理に変えるのも禁止だからね!」


「はいはい、わかったわかった。

 それでいいから」


「ふ~!これで一安心だ!

 やっと安眠できるよ~」


そのセリフを吐くと、そのまま倒れる様に寝るヤミ。

一方的に約束をして、そのまま寝るとは何とも卑怯な女である。

まぁいいかとそんな彼女をベットまで運んでいき、寝かしつける。

自分もそろそろ寝ようかとおもったそのときに、再び自分のスマホが鳴ったのに気が付いた。


「めずらしいな、ヒカリから、2連続か」


見るとヒカリがスケジュールの関係で、来週の火曜に半日ほど実家に戻るから、その時に合えないか?というものだ。

その日はちょうど、配信も大学もスケジュール的に空いていた。

一瞬、今のヒカリは世界的スターなのに迷惑にならないかと思ったが、その位対策しているだろう。

半年超えて、一年半ぶりの再開だ、お互い積もる話もあるだろう。

返事はもちろんイエスと返しておいた。


「……あ、そういえば」


ベットの中で、ヤミがすやすやと寝ている。

口から涎を垂らし、ときどきいびきをかいている。

そんな色気という言葉をどぶに捨ててきた彼女の寝顔をパシャリと写真にとる。

それを、身元がばれない様に加工して、送ってみた。


『↓これはなんでしょう~~?

 〈ヤミの寝顔の加工写真〉』


『(通報のスタンプ)』

『(逮捕のスタンプ)』

『(死刑のスタンプ)』


『やwwめwwwろwwww』


『真面目な話、この娘はだぁれ?

 というか、大学の後輩?空から落ちてきたあら受け止めてきた感じ?』


『おしい!正解は……

 俺の婚約者でした!』


『(な、なんだって~~!!のスタンプ)』


『で、真面目な話、誰?

 私の写真を加工したのかと思ったけど、そうじゃないっぽいし。

 空也が女装した姿でもないと思うんだけど』


『いや、だから、マジで婚約者だから』


『冗談はよして

 誰?』


『……なんか、通話が変だぞ?

 大丈夫か?怪我でもしたか?』


『……ごめん、頭冷やしてくる。

 それじゃぁ、来週の火曜に、空也の実家でね。

 ばいちゃ』


体調が悪いのか、変な様子で途切れるメッセージに一抹の不安を感じる。

だが、すぐにヒカリに限って、そんなことはないだろうと思いな直し忘れることにした。


「お~い、来週の火曜にちょっといなくなるからな~~」


「……やー、私も一緒に行く」


「お前なぁ……」


スケジュールを伝えたところ、ごねるヤミを前に少し考える。

そういえば、コイツとは仮にも婚約者になったのだ。

それゆえに、ネタとは言え、いざとなったら、結婚をし、両親とあいさつをしなければならないだろう。

だが、本番直前で両親に挨拶などコイツが成功するはずもないし、なんなら、数年前からならしておく必要がある。

ならば婚約者紹介とはいわないが、友人位の間柄で紹介しておいた方がいいのではないか?


「……わかったよ、それじゃぁ一緒に行くか」


「ん~♪」


ヤミがこちらの服の端をぎゅっと握る。

相変わらず、独立しているヒカリと違い、目が離せないやつだ。


かくして、私とヒカリとヤミ。

中編Vtuberと頂点アイドルの会合が始まるのであった。


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