リボーン·チルドレンズ『ミステリアスな住宅街』

読天文之

第1話コハルと町の怪奇現象

「行ってきまーす。」

ぼく·安堂俊介あんどうしゅんすけは、学校へ向かって走っていた。入学式からすでに二週間、初めての中学生は大変なことばかりだ…。

「よぉ、安堂!」

「あっ、おはよう。」

ぼくにあいさつをしたのは、野田蓮司のだれんじ。クラスは別だけど小学生の頃からの幼なじみだ。

ぼくと野田くんは羽矢田町に住んでいる。小さなころから住んでいて、すてきな町なんだ。

「今日の朝テスなんだと思う?」

「漢字の書き取りじゃないかな?」

「本当に信じられないよな、いきなり漢字の書き取りなんてよ…。そもそも朝からテストなんて、小学生のころからすれば信じられないぜ。」

クラスごとの恒例·朝のテスト、略して朝テス。漢字か数学の問題を5問出題するミニテストで、このテストのできも成績に大きく関わるらしい。

「全くイヤになるよな、なんでこんなにテストしたがるんだろう?」

「アハハ…、ホントになんでだろうね?」

二人で中学校への通学路を歩いていると、突然角にあるカーブミラーに異変が起きた。突然口がでて、歯を見せながらニヤりと笑った。

「うわぁっ!!」

「どうしたんだよ安堂?」

「今、カーブミラーがニヤりと笑ったんだ…!」

「カーブミラーが……?」

野田くんはカーブミラーを見たが、口は無くふだんのカーブミラーに戻っていた。

「とくに変なとこは無いぜ?」

「えっ?あれ?変だな…?」

「そういや最近、やたらと多くないか?この町の怪現象。」

野田くんの言う通り、ぼくの住んでいる町では不思議な現象が最近やたらと多い。ぼくが見た『笑うカーブミラー』もさることながら、他には『垂さがる鉄棒』や『オオカミがいるトイレ』など、不気味なことばかりだ。それでぼくたち町の子どもたちの間では、すっかり話題になっている。

「そうだね、なんでこうなっているんだろう…?」

「それこそよくわかんねぇよな。」

そしてぼくたちは学校に到着した、教室に入るとメガネをかけた男子·八島卓やじますぐるが話しかけてきた。

「なぁ、この町で新たな怪現象が起きたって話しを知ってるか?」

「怪現象?それならとっくに安堂がそれを見たぜ、笑うカーブミラーを。」

「あぁ、それならおれも一週間前の下校で見たぜ。」

「八島くんも見たんだ。」

「あぁ、大通りの床屋を曲がった先に左右二つのカーブミラーがあって、その左側のカーブミラーが笑ったんだ。」

「へぇー…あっ、それで新しい怪現象って何?」

「あぁ、それはだ。」

「なんか今までのと比べると、大して怖くないな…。」

「そう、この少女はどちらかといえばヒーローに似ているんだ。おれが笑うカーブミラーを見た時、その少女はどこからともなく現れて、持っていた大鎌でカーブミラーを真っ二つにしたんだ。」

「大鎌を持っているの……!?」

「うん、しかもその子がとてもかわいくて、大丈夫って優しく言うんだ。これはもうヒーローで間違いないよ!」

八島くんはすっかりナゾの少女に心がうかれていた。

そしてチャイムが鳴って、朝の会が始まった。






そして数時間後、ぼくは一人で下校していた。野田くんはテニス部があるので今日は一緒に帰れなかった。

ふと歩いていると、道を歩いているおじいさんを見つけた。そしておじいさんはぼくを見つけると、おーいと呼びかけた。

「どうしましたか?」

「実は家に帰れなくて困っている、すまないが道案内をしてくれんか?」

「いいですよ、家はどっちですか?」

「2丁目にあるんじゃが……」

「あっ、ぼくの家と同じだ。一緒に行きませんか?」

「おぉ、助かるよ。」

それからぼくとおじいさんは2丁目の方向へ歩いていった、そして信号を渡っていると突然おじいさんの姿が見えなくなった。

「えっ、あれ!?」

横断歩道の真ん中で取り残されたぼく、すると車のクラクションが聞こえてきた。右側を見ると赤い車が猛スピードでぼくの方へ向かってくる!

ヤバい、ぶつかる!!もう終わった……その時、ぼくの体がものすごい速さで動き出し、横断歩道を抜けた。

赤い車の運転手が「バカヤロー!」と怒鳴りながら走り去る、そしてぼくの近くには少女がいた。

髪は短い茶髪で頭の上をヘアゴムでとめている、白いフリルのついたピンクのライン模様のシャツに黒い短パン、そして服にはうずまきのワッペン、身長はぼくより少し低い、おそらく小学校高学年くらいか?

「あぶなかったわね、あのままだったら車にひかれていたわ。」

「ありがとう、助かったよ…。」

「いいえ、お礼はまだ早いわ…。」

少女の顔が厳しくなった、その視線の先にはあのおじいさんがいた。おじいさんはぼくを見てチッと舌打ちをした。

「あんたが『死のおじいさん』ね…。家に帰れないふりをして、親切な人を誘い交通事故に遭わせる…。本当に最低よ」

そしておじいさんは突然、鬼のような顔になって叫びながらぼくと少女におそいかかった。

「うわぁ!!?」

「だいじょうぶ、あたしにまかせて!」

そして少女は大鎌を出した、大鎌はとても大きく持っている少女の倍くらいの大きさだ。

「えいっ!!」

少女は大鎌を軽々と振り上げ、そしておじいさんに向けて振り下ろした。おじいさんは頭の上から真っ二つに斬られてしまい、ギャーーと叫ぶと体が灰になって消えてしまった。

「ふぅ、これで一安心ね。」

「あの、今のは一体……?」

「あぁ、この大鎌はあたしの武器なの。それじゃあね」

その場を去ろうとする少女に、ぼくは言った。

「あの、助けてくれて本当にありがとう!あなたの名前は…?」

少女は答えた。

「あたしは……”コハル“よ。」

そしてコハルという少女は、一瞬にしてその場から去っていった…。





翌日、学校の教室にてぼくは野田くんと八島くんに昨日の出来事を話した。

「マジか、お前“謎の少女”を目撃するなんて…」

「今でもおどろいているよ、あんな少女が大鎌で敵を真っ二つにするなんて…。彼女は間違いなくとても強いよ。」

「それで、その少女は『コハル』って名乗ったんだよな。そこから先は?」

「そこから先って?」

「ほら、どこに住んでいるとか学校はどこかだよ!」

「ごめん、聞く前にいなくなっていた…。」

「そうか、でも本当に何者なんだろう?」

「ぼくの知り合いも、昨日の安堂くんみたいに謎の少女に助けられた人がいるけど、その時はカノと名乗っていたそうだよ。」

「えっ、コハルじゃないの?」

「だから謎の少女は複数人いるんじゃないかって言われているんだ。」

「謎の少女たちは、一体何が目的なんだろう…?」

ぼくたちは首をひねって考えたけど、答えは出てこない…。

「安堂、名前の他に謎の少女について特徴は?」

「えっと、髪は短くてシャツと短いズボンをはいていたよ。」

「身長は?」

「何cmかは言えないけど、ぼくと比べて少し低いくらいかな。小学生五年生か六年生くらい」

「なるほど…あっ、小学五年生って言ったらお前の弟がいるじゃん!」

野田くんの言う通り、ぼくには小学校五年生の弟·章男あきおがいる。ぼくと違って勉強が得意で、クラスでは学級委員長をしているほどの優秀だ。

「えっ、章男に聞いてみろって?」

「あぁ、ひょっとしたら章男のクラスの女の子かもしれないぜ。」

その日、帰宅したぼくは部屋で勉強していた章男に声をかけた。

「ちょっとお願いがあるけどいい?」

「なんだよ兄さん、今から勉強って時に…。」

不満気な顔で弟は話を聞いてくれた。

「実はおれ、前にコハルって女の子に助けてもらったんだ。危うく車にひかれそうになったところを、彼女が呼び止めてくれなかったらぼくは死ぬところだったんだ。」

「マヌケだな…、それでぼくにどうしろと?」

「章男の小学校の五年クラスにコハルがいないか、探してほしいんだ。」

「わかったよ、探してみる。そのかわり、後でソーダ買ってね。」

「あぁ、いいとも。」

こういう所はしたたかなんだよな…章男は。

そして二日後、章男はぼくに結果を報告した。

「結論から言うと、ぼくの学校の五年全クラスにコハルって名前の少女はいなかった。」

「そっか、手間かけさせてごめん。これソーダ」

ぼくが章男にソーダを渡すと、章男がこんなことを言った。

「だけどコハルって少女、なんかクラスのウワサになっていたよ。」

「えっ、章男の学校でもか?」

「うん、クラスで聞いてみた時に南原なんばらくんから聞いたんだけど、南原くんのお父さんが仕事帰りに歩いていたら、突然黒い手が現れて体を捕まれて、どこかへ引きずり込まれそうになったんだ。するとコハルがかけつけて、助けてくれたんだって。他のクラスでもコハルに助けられたって話を聞いたよ。」

コハルはどうやら不思議な出来事に巻き込まれると、助けにやってくるようだ。

「そうなんだ、ぼくの他にもいたんだね。」

「それはそうと、塾へ行かないと。行ってくるね」

「あぁ、章男!帰りお母さんが迎えに行くから、塾で待っていてと言っていたぜ。」

ぼくは章男に言ったが、章男はすでに家を出ていた。







それから夜になって午後八時を過ぎた頃、家の電話が鳴った。ぼくが受話器を取るとお母さんからだった。

「俊介、章男はまだ帰ってきてない?」

「家にはまだ帰ってないよ。」

「……実は章男、一人で塾を出て帰っていったのよ。迎えに来たのに、どこにいるのかしら…?」

お母さんはとても心配しているようだ、だけど今まで章男は一人で家と塾を行き帰りしていたはずた。

「母さん、今日はどうして章男を迎えに行こうとしたの?」

「実はね、近所で失踪事件が相次いでいるのよ…。それで章男を夜道一人で歩かせられないから迎えに行こうとしたのよ…。俊介は大丈夫?」

「ぼくは大丈夫だよ。」

「よかった…。あたしが帰ってくるまで、外に出たらダメよ。私はもう少し章男を探してみる」

そしてお母さんは通話を切った、ぼくは章男のことが心配になった。

それから章男の帰りを待ったが、三十分·四十分·五十分と過ぎても章男は帰ってこない…。ぼくは胸騒ぎがした。

「章男はいつも同じ時間に帰ってくるから、寄り道はしない。だとしたらやっぱり……!」

章男は何か事件に巻き込まれている……!

そう思った時には、ぼくの体は家の外に出ていた。暗い住宅街を叫びながら走しる。

「章男ーっ、章男ーっ!」

「俊介ーっ!俊介ーっ!」

するとどこからか章男の声が聞こえた、声のする方へ走っている時、ぼくはある違和感を覚えた。

「あれ…?確か章男はぼくのこと名前で呼んだことないぞ…?」

立ち止まっていると、さらに章男の声がこちらに近づいてくる。そしてぼくの目の前に現れたのは…!

『シュンスケ·シュンスケ·シュンスケ…!』

「うわぁーーっ!!」

そこには章男の声を真似る、アライグマに似た真っ黒な動物だった。牙を向き舌からヨダレがしたたる、完全にぼくを食べる気だ。

「助けてーっ!」

『グワァーーーッ!』

絶体絶命なその時、アライグマの動きが止まった。そしてアライグマの後ろには、大鎌を持ったコハルがいた。

「さすがに強いわね……。あっ、あなたは安堂くんじゃない!」

するとアライグマは突然、スーッと体が消えていった。コハルは不機嫌に舌打ちした。

「チッ、また逃げられた…。」

「コハルちゃん、さっきのは一体…?」

「関わらないほうがいいわ、家に帰って。」

「そうはいかないよ、章男くんがまだ帰ってきてないんだ!ねぇ、章男くん見かけなかった?」

するとコハルの顔が厳しくなった、そしてコハルは一足の靴を出した。

「少し前に、アイツが現れた場所に落ちていたの。アイツは人間しか食べないの、こうなりたくなかったら早く家に帰りなさい。」

しかしぼくはコハルが見せてくれた靴を見て、涙があふれた。そう、この靴は章男の靴なのだ。

「ど、どうしたの!?」

「章男は…、章男はもう死んでしまったの?」

「そうよ…、その章男くんってあなたの知り合い?」

「弟です…。一人で塾を出て家に帰ろうとしたきり、行方不明になっていたんです…。」

「……助けられなくてごめんなさい。」

コハルは悲しげな表情になった、するとコハルの右手が光だし、コハルは右手に向かって話しだした。

「なに、すぐ近くにいる!?わかった、すぐに向かうわ。」

「あのっ!お願いがあるのですが……。」

「何?まさか、ついていきたいなんて言わないよね?」

コハルが念を押して聞くと、ぼくは小さくうなずいた。

「だめよ!!あんたも章男くんみたいに食われるわ!」

「だけど…!」

「気持ちはわかるけど『やみ創造そうぞう』には恐るべき力があるの。今夜はこれ以上、犠牲者を出したくない…。だから帰って!」

コハルは最後に思いっきり叫ぶと、目の前から去っていった。ぼくは辛く悲しい面持ちだった…、だけどぼくにはどうしようもなく、大粒の涙をこぼしながら家へ走り出した。







翌日、ぼくは目が覚めた。

「俊介、早く起きてきなさい〜」

母さんに呼ばれ、ぼくはリビングへ向かった。テーブルにはすでに父さんがいて、朝食を食べていた。

「父さん、今日は飲みに行くのよね?」

「あぁ、同僚が急に結婚してな、それで寿退社になったんだ。そのお祝いに宴会をするんだ。」

「そう、それはよかったじゃない。退職する人、あなたの後輩だっけ?」

「あぁ、入社して五年くらいだな。」

いつもと変わらない朝、そしてぼくは学校へ向かう。

「よぉ、俊介!元気か!」

野田くんがぼくの肩を叩きながらあいさつをした、これもいつも通り。そして学校で授業をして、部活動をして、家へ帰る。

いつも通りの時間が過ぎていく中、ぼくの目の前にコハルと一人の少年が現れた。

「あっ、コハルちゃん!昨日は助けてくれてありが…」

「兄さん、会いたかったよ!」

突然、少年がぼくにだきついた。なんのことかわからず、ぼくの体はよろめいた。

「えっ、何?だれなの、この子?」

「えっ、ホントに忘れたの?ぼくだよ、章男だよ!」

「章男…、きみは章男というんだね。ぼくは、俊介。よろしくね…」

「そんな…、やはり本当にぼくのことを…」

「それで、今日はどうしたの?」

「今日はあなたに力を貸してほしいの。」

「力を貸す…?」

「この町で起きている謎の現象…、それにはやみ創造そうぞうが大きく関わっているの。あなたはあたしたちに手を貸してほしいのよ。」

やみ創造そうぞう…って何?」

「それは後々説明するとして、はいこれ。」

コハルがポケットから取り出したのは、うずまきのワッペンだ。

「これは…?」

「あたしたちの仲間の証、それを服につけて。」

ぼくはコハルの言う通りにした、するとぼくの脳内にコハルと少年の情報が入ってきた。

「うっ……、えっ!章男くん…生きてたの?」

「やっと思い出してくれた…。」

「ふふっ、ようこそ。私たち『リボーン·チルドレン』の世界へ…」

コハルは可愛い笑顔で、ぼくに手を差し伸べた。





















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