38 終電一本前だった。(閲覧注意)
終電一本前だった。
なんとかなるはずだ。そう信じて私は駅のトイレに駆け込んだ。
腹が痛い。
今日飲んだ店はいつもと違う店で、主に海鮮を酒のあてにしたのだが、どう考えてもそれだ。おそらく牡蠣。今まで牡蠣にあたったことがないのだが、この強烈な便意と激しい腹痛はそれと思われた。いや、こんなに早く来るものなのか……昼に食べた何か……なんかタマネギのマリネが臭いおかしかったからな……そんなことはどうでもいいのだ。早くトイレに! 括約筋が限界に達しつつある!
出したいというのは身体が毒を排出しようと指示しているわけだ。どこでもいい。毒を出して生命維持を図りたいと身体が強烈に主張し続けている。しかしそれは現代社会ではトイレでしか許されない。
男子トイレに駆け込む。
ゲゲーっと誰かが吐いている声が聞こえる。
しかし個室は2つ。もう1つを開ける。そして絶望する。
トイレは詰まっていて汚物が今にも溢れだそうとしていた。
やばい! やばい! 死ぬ!
原始的な強烈な排泄欲求を理性で留め、私は男子トイレを後にする。そう、多目的トイレがまだある。
しかし刹那の間で、車椅子の方が入って扉を閉めるところだった。
うおおお。酔っ払いが吐いているわけじゃなし、車椅子の方が多目的トイレをつかうのは至極まっとうだ。どうする? こんなことならコンビニのトイレを借りればよかった。外に行くか? コンビニまで100メートルくらいあるぞ!
私は迷った挙げ句、男子トイレの入り口を振り返り、人の気配を感じた。
どうやら酔っ払いが出たらしい。
私は最後の力を振り絞って男子トイレに戻る。
洗面台では若い男が口元を洗っていた。スーツもなんか新しい。新人か? 飲まされたのだろうか。実に苦しそうだ。気の毒に。いや、オレも気の毒だよ!
オレはもう限界に達した。出そう。少しでも気を許したら大洪水になる。
開いている個室に駆け込む。幸い詰まっていない。だが、便座は吐瀉物で汚れている。構う物か。オレはスラックスとトランクスを一度に下げて、便座に座り込んだ。
そしてコンマ数秒後、身体は開放された喜びに、打ち震えた。
――――
腕時計を見る。
駅に駆け込んだのは終電1本前の時間だったはずだ。
しかし便意が収まるまで、10分以上を要した。ああ。海鮮なんか食うんじゃなかった。いや、あれ、レバー食ったっけ? そんな気もしている。思い出せない。アルコールには強い方だと思うんだけどな。
私は汚れたお尻をトイレットペーパーで拭き取る。洗面台で口元を洗っていた若者は終電に間に合っただろうか。
もう急ぐ必要は無い。
オレはトランクスを上げ、スラックスを上げ、ベルトを締める。
うん。終電の時間は……水を流した頃だったかな。
私は個室から、男子トイレから出る。
階段を下ってくる人々の列を見て、私は自動改札の方に目を向ける。
その上にある電光掲示を見て、終電が去ったことを改めて認識する。
なに、大したことはない。2時間ばかり歩くだけだ。
私は自動改札を抜けて、実に清々しい心持ちで、家路を辿り始めたのだった。
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