夏の怪談話! 朗読会やりたいので持ってる方は是非!主催者:荒音 ジャックさま

【夏の怪談話! 朗読会やりたいので持ってる方は是非!主催者:荒音 ジャックさま】


 怪談話を聞きたがる人は一定数いらっしゃいますよね。でも私は怪談話って好きではない方なのです。何故なら幽霊より人間の方がずっと怖いと思うからです。刃物を持った男を取り押さえたこともありますし、閉鎖病棟で薬物依存の殺人犯と2人きりになったこともあります。こんなことを書くと分かる人には職業が分かってしまうかと思いますが、人間の方が恐ろしいことは容易に想像していただけるかと思います。


 なにしろ幽霊に実害を与えられた人を、私は聞いたことがないからです。


 実際、私は幽霊を見たことがありますが、なにもされませんでした。というか、とてもかわいらしい女の子でしたし。なんだったんでしょうね、彼女。幽霊でなければ、未来の彼女か、それとも未来の娘が若い父親に会いに来たタイムトラベラーのかと期待したのですが、残念ながら今もまだそれは分からないままです。幽霊なんて怖くないのです。


 しかしですね。


『人間を通して現れた怪異』ってやつは、本当に背筋が凍るものがあります。


 友人から聞いた話です。友人がそのまた知り合いから聞いたとかいうよくある怪談話でもありません。そいつが実際に体験した話です。もし作り話なら、私の完敗だと思っていますが、まあ、聞いてください。2つあります。


 1つは彼が家業の新聞配達の手伝いをしていた時の話だそうです。


 お話の舞台は千葉県市川市の原木インター近く、東西線の高架がすぐ近くで真間川にほど近いマンションで、時間帯は未明――未だ明けざるとはよく言ったものですね――のこと。


 彼がそのマンションに新聞配達を済ませて、マンションのエントランスから出た時、夜中だというのに頭上から大きな声がしたんだそうです。彼はもちろん驚いてどこから声がしたか探すと、非常階段のかなり上の方で取っ組み合いをしている人たちを見つけたとのこと。最初はケンカかと思い、柵の辺りでもみ合っているので、さすがにマズいと思い、彼は非常階段を上がって、仲裁に入ろうとしたそうです。


 しかし2人は取っ組み合いをしているのではなく、そのうちの1人が非常階段から飛び降りようとしているのを、もう1人が必死に止めていたのです。彼も手伝って、どうにか柵から引き離し、警察を呼んで、警官が来るのを待ったそうです。当然大騒ぎなのでマンションの住人も起き出してきたので、まだ必死に飛び降りようとし続けている男を取り押さえ続ける人手が確保されたそうです。


 なにしろ正気の人間ではないので、力がものすごくて、取り押さえ続けるだけでもすごく力を使ったらしいです。


 最初に止めていた人も夜中に奇声を聞いて、居室から出てきて、非常階段の踊り場にいる男を見つけ、飛び降りそうになっていたので取り押さえたことを聞き、なるほどと悟ったようです。


 彼が取り押さえている最中、ずっと飛び降りようとする男は叫んでいたそうなのです。


「呼んでる……オレを呼んでるんだ!! ほら、下で、手を振ってるんだ……!!」


 と。男が非常階段の下――つまり彼が目指した終点のことを言っていることは明らかでした。


 いつだったか聞いた内容を忘れましたが、その非常階段から飛び降りた事件が2度あったそうです。新聞配達をしている彼はもちろんその話を事実として知っていました。


 その2人目は、最初の1人に呼ばれたのかもしれませんね。そして3人目も呼んでいたのかもしれません。


 友人は非常階段の下に思わず目を向け、そこに、手を振っている人間を見た気がしたそうです。




 もう1つお話をしましょう。


 彼が就職してしばらく経ってからのことだそうです。


 彼が就職したのは首都高警備隊でした(正式名称を首都高パトロール株式会社だそうです。今、調べて初めて知りました)。


 関東の方なら1度は見たことがあるのではないでしょうか。あの黄色い車に乗った人たちです。落下物をとりに行ったり、事故や故障車の対応に当たったりとかなり忙しそうなお仕事です。


 TVの夏の怪談特番でご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、首都高にはよく幽霊が出ます。幽霊というか、未確認の人影ですね。実際に監視カメラに映っている奴です。車両に乗って警らをしていると、無線で、人影があるので急行するよう指令がよく来るそうです。でも、たいていはその人影は見つからないのだそうです。まあ、生身の人間がいたらいたでそれも大変なのだそうですが、彼にとってはまたかよ、みたいなものらしいです。


 そんなわけで、2つめのお話は首都高の怪異です。正確には首都高の下ですが。


 ディズニーランドにほど近い首都高の高架下に、首都高警備隊の基地があるのだそうです。高速道路なので24時間開いております。なので警備隊もシフト制で、基地に寝泊まりする場合もあるらしいです。今は知りません。これ、結構前の話なので。


 その基地は警備隊の中でも評判がよくなく、そこで宿直となった彼は、何度も奇異な音を聞いたそうです。カギの束を持ち上げるじゃらじゃらする音。そしてそれを落とす音。それが幾度となく繰り返されるらしいです。誰かがイタズラしているのかと犯人を探しに行くのですが、見つかりません。諦めて寝るそうです。


 そんな怪しげな基地にある夜、事故車両が入ってきました。高速道路内に置いておくと交通の支障になるので、基地に一旦持ってきてしまうらしいのです。


 その事故車両は結構派手に壊れていて、前のガラスが全部割れてしまっていたそうで、運転していた人が無事ではなかったことくらいはすぐに分かったそうです。まあそんなのは彼にとっては日常茶飯事。基地内に事故車両があろうとなかろうと宿直なので寝ておかないとなりません。


 寝ていると機械警備が発砲したそうです。敷地内に設けられているセンサーが、誰かが侵入したことを彼に知らせたのです。


 彼は慌てて、こんな夜中にどいつが来たんだと起き出して外に出たそうです。


 首都高の高架下なので、ホームレスが寝場所を求めて入り込むこともあるとか。彼も最初はそんな類いだと思ったようです。


 しかし彼が機械警備を発砲させた人物を見つけたのは、置いてあった事故車両の前でした。なにか盗ろうとしているに違いないと彼は身構え、そっと近寄っていったそうです。そして何をしているんだろうかと侵入してきた男を観察すると、奇異なことに気付きました。


 男は割れた前面ガラスからじっと中の様子を窺いつつ、手を動かしていたのです。それは割れていて存在しない前面ガラスを拭いているような動作だったそうです。


 存在しないガラスを拭く意味――まるでパントマイムのような振る舞いですが、真夜中の事故車両でそれをする意味――そんなものはあるはずがありません。


 男は心神喪失状態で取り押さえるまでもなかったそうで、駆けつけた警備会社の人間が確保し、続いてきた警察官に引き渡したそうです。


 その男には、事故前のガラスが見えていたのでしょうか。事故を起こしたその車と何か縁があったのでしょうか。わかりません。事故車両にある『何か』に呼ばれ、窓ガラスを拭くように指示されたのかもしれませんね。


 繰り返しますが、幽霊はそんなに怖くありません。


 恐ろしいのは人間です。


 しかし人間に取り憑いた『怪異』はもっと恐ろしいです。


 『怪異』は今も、どこかで、誰かに取り憑いて、何かをしているのではないか。


 私はこの話を思い出すたびに、ゾッとするのです。

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