お題で短編小説・第二回「不釣り合い」
https://kakuyomu.jp/works/16818093079365449289
上記のオムニバスシリーズの1章になります。
【ラブライブに憧れて】
振り付け担当:榊原くんの場合
ボクが幼なじみの
「
いつも2人で会う近所のレトロな喫茶店で、ボクの隣に座った真子ちゃんは半泣きでボクに抱きついた。4人席に2人なのに、真子ちゃんはボクの隣に座るのが当たり前なので、2週間ぶりであっても全く変わらない。
「ダメだったってのは、例のスクールアイドル同好会のこと?」
確か9人集まってアニメ通りだと、しかも作詞作曲、衣装を作れる生徒が集まって、本当にこれは実現できそうだとつい先日喜んでいたのに。
「うん。私なりに振り付けを考えたんだけど、やっぱり違うの! 飛丸くんのがいいの!」
「ダンスはボクが見るけど――」
「ありがとう肉丸くん! もちろん期待してた!」
「ボクは飛丸!」
正直ボクは、真子ちゃんは最初からこれを狙ってスクールアイドル同好会を立ち上げたのではないかと疑っていた。女子高に男のボクが出入りするのには大義名分が必要だ。真子ちゃんが清心女子高に進学したのは理事長の孫として、公立校に行くなんて選択肢がなかったという家庭の事情による。3年次に上がったときからイヤだイヤだと何百回言われたことか――いや、ボクはボクで、真子ちゃんのことが好きだから、困るわけではないのだけど。学校が違っても休みの日に会えばいいよ、とその都度答え、それじゃ足りないと答えるのが常だった。
スクールアイドル同好会を立ち上げようと発案したのは別の子だと聞いている。しかし強力に推進されたのは理事長の孫娘である真子ちゃんの力に寄るところが大きいのだと考えられる。
「飛丸くんのダンスセンスがあれば、きっとラブライブでも上位に行ける!」
「いや、そんな架空の大会のことを言われても困る……まだ全中大会優勝の方が現実味がある」
実はボクと真子ちゃんは中学でダンス部の全国大会まで行った実績があるのだ。実に楽しい3年間だった。
「そんなの分かってる。だけど全力を尽くしたいの!」
確かに、アイドル並みにもともと可愛い真子ちゃんがさらに可愛く踊るところを見たくないと言ったら嘘になる。しかし余所の男に見られるのも気にいらない。
栗色の髪は地毛で、顔のパーツもとびきり形良く揃っているし、目は大きく、頭は小さい。たぶん、ボクの半分くらいしか無いのではないだろうかと思うくらいだ。まあボクが大きい頭なのもあるのだが。
全力を尽くしたい。ダンス部のときにもよく言っていた言葉だ。ボクはダンスになんて全く興味がなかったけど、真子ちゃんに誘われて入り、頑張った。頑張ったけど、胴長短足で頭の大きいボクは誰からも嗤われる存在だった。だから、自分で躍ることは諦めて、その分、振り付けの猛勉強をした。それこそプロのダンスからアイドルの振り付けまでオールラウンドに、真子ちゃんが1番可愛らしく踊れるように頑張って勉強した。その甲斐あって大会で優勝したし、今でもボクの振り付けが1番真子ちゃんを輝かせられると胸を張って言える。
そんなわけで6月の中頃の放課後、ボクは清心女子高に招かれ、スクールアイドル同好会の活動場所になっている視聴覚室で真子ちゃんを含む女の子達9人に囲まれたのであった。
「紹介するね! 私の大好きな
教壇に立たされ、真子ちゃんが並んでボクを紹介してくれた。
「言いにくいけど真子、その心配はないと思うよ」
恐らくセンターの子、肩までかかる髪に清楚な顔つきの女の子が恐る恐る言った。
「正解!」
ボクはその子に向けてサムアップをした。
「どう見ても本成寺さんには不釣り合いだけど……本人がいいっていうのなら、いいのよね……」
前髪が長く、胸がとても大きい女の子が周りを見て同意を求める。
「うん。そういうもんだ」
ボーイッシュな女の子が何度も頷いていた。
「みんなには飛丸くんの格好よさが分からないんだよ! ダンスはそのほんの一部だけど、飛丸くんのすごさをみんなに教えてあげる!」
そして真子ちゃんはスマホから、スクールアイドル同好会のみんなで作った記念すべき第1曲目を流し始める。けっこうきつめの吊り目の黒髪ロングの女の子が反応したから、恐らく彼女の作曲だと思われた。
ボクは何度も同好会のダンスを映像で見せられていたから、各人のパートを完全コピー、なんなら、それ以上にうまく踊れるのだが、今回は真子ちゃんのパートを踊ってみる。
4分23秒。
スマホから流れた楽曲の時間だ。
その時間が経った後、女の子達は唖然としていた。
「真子ちゃんと同じ振り付けのはずなのに、真子ちゃんのほうがずっと可愛いのに! どうしてこんなへちゃむくれの肉まんの方がかわいいの!!!」
金髪ギャルが嘆いた。振り付けは真子ちゃんだから、何の担当なんだろう。
「確かに、かわいい。私がデザインした服がなくても、見えた、服が」
そういうおかっぱ頭の大人しいそうな女の子は興味深そうにボクに近づいてきた。
「魔法?」
「アイドルの魔法の1つは、ダンスにある!」
ボクは彼女に断言する。
「わたしの歌詞にも、ぴったりはまった……」
メガネの文学少女然とした黒髪の子がゆっくりと頷いた。
「あたし、この人に教えて欲しいです!」
1番小さな女の子がそう言い切り、ボクをまっすぐ見た。
「決まり! あたしも同意見。真子、凄い助っ人だ。助っ人作戦、確かに必要だな」
この子がリーダーか。すぐに分かった。強い語気にリーダーシップが見える。もし才能が見えるのだとすれば、ものすごいオーラに違いない。
「でしょでしょ?! でもね、飛丸くんは私のだから~~」
「いや誰もとらないから」
金髪ギャルが強い語調で言う。
「この中で唯一の彼氏持ちの真子ちゃんの彼が、こんな男の子がタイプだったなんて――中身、大切よね。分かる」
メガネの子が何度も頷く。リーダーの子が続けて言う。
「よく理解したよ。あたしたちは全力を尽くした。だけど、歌って、躍って、MCやって、それを全部こなした上で新曲を作って衣装と小道具と演出と――その他もろもろをやりつつ、クオリティーを上げるのは不可能だ。だから、真子の作戦を承認する。みんな、異存はないな?」
清楚系の子が頷く。
「うん。助っ人に心当たりは、ある」
「――わたしも」
前髪を隠した巨乳の子が言う。
「一緒に服を作った人がいる。主にデザインだけど」
「ワタシにも一緒に劇を作った人がいる。演出してくれる」
ボーイッシュな子が続けて言った。
「また、彼に会いたいんだ!」
他の子達にもそれなりに伝手がある様子だった。彼女たちだけではスクールアイドルの実現化なんて無理でも、助っ人がいればそれなりにカタチになるに違いない。問題はその助っ人の力量でもあるのだが。
「――真子ちゃん。こういうことなの?」
「うん。私も飛丸くんとできる限り一緒にいたいし、いいでしょう?」
「はあ――そのうち、また一発芸もやるのかなあ」
「神風の術! ね!」
真子ちゃんが笑顔で言うが、他の8人は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるだけだった。それはそうだ。昭和のギャグなど誰が知ろうか。
その日からボクは、まずは振り付けの見直しから始めた。真子ちゃんが作った振り付けを変えなくても、角度や姿勢を見直すことでぐんと良くなることは動画を見ただけで分かったからだ。1度完成した振り付けを再構成するだけなので、メンバーの負担も小さくて済んだ。
真子ちゃんに聞くと、まずは文化祭でのお披露目が最初のステージだという。そのステージを成功させなければスクールアイドル同好会プロジェクトはそこでおしまいだと祖父の理事長から言われているらしい。
ボクは彼女たちの努力を無にしたくないと思う。自分自身はどうでもいい。ただ、それだけだった。だから週3回、清心女子高に通うようになった。
次に来た助っ人は動画屋だった。ステージを撮ることで、各人が見直せるようになったのは大きなプラスだったし、また、可愛らしく撮って貰えるのでメンバーの士気は爆上がりした。
その次に音楽担当、作詞担当、プロジェクションマッピング担当と続き、衣装屋まで連れてきた。他にも4人、それぞれ仕事ができる男子達が来た。これはスゴいことだ。それぞれの女の子が惹かれる訳も分かった。だが、ボクはそのことを彼らに言うわけにはいかなかった。彼女たちが、自分たちの思いを彼らに伝える――そのことがステージを成功させる膨大なエネルギーになっていることを知っていたからだ。なにより、無粋でもあるとボクは考えた。
彼らと次第に仲良くなり、中でも1番よく話をしたのは、いや、しなければならなかったのはプロジェクションマッピング担当の高梨くんだった。彼はセンチ単位、できればミリ単位でプロジェクションマッピングを投影したいと意気込んでおり、振り付けとメンバーのダンスの精緻さを求めていた。しかしそのプロジェクションマッピングがあることで、アニメのPVのような幻想的なシーンを可能としたこともまた事実であり、こだわるところでもあった。
順調に準備が進んでいき、清心女子高の帰りにみんなでファミレスに寄ることも珍しくなくなっていた。その中で、恋心を隠そうともしない男子が1人いた。みな、物思うところはあったようだった。
何度かファミレス会議が続き、あと2週間で本番という頃、高梨くんに言われた。
「飛丸くんはいいよなあ。彼女のために頑張ってるんだもんねえ」
「真子ちゃんは彼女じゃないよ」
えーっ! と8人から声があがった。
「本成寺さん、あんなに好き好きビームが溢れ出てるのに!」
「なにかことあるごとにハグされてるのに!」
「ほっぺにキスされてたよね!?」
「神風の術とかすごいタイミングばっちりだったぞ!」
「確かに――一見するとお似合いとは見えないけど」
服飾担当の東くんがボクを見て言った。そう。その通りだ。ボク自身がそう思ってるのだから仕方がない。
「そうだよ。不釣り合いだ。真子ちゃんはボクみたいなちんちくりんのひしゃげ肉まんが好きになっていい相手じゃないんだよ」
「バカらし」
1人でクールを決め込んでいた音楽担当の東堂くんが言った。
「何がバカだよ?」
もう友達だとボクに言ってくれている高梨くんが代弁をしてくれた。ボクは東堂くんのようなスマートなイケメンに何か言えるような人間ではないのだ。
「バカだからバカだって言ったんだ。本成寺が好きなのは別にガワじゃないってだけのことだろ。お前と過ごした長い時間、お前自身、お前の才能、全部ひっくるめて、好きなだけだ。お前が誰もが分かる客観的事実を認めたくないだけだろうが」
「それは――そうだったらいいと思うけど――」
ボクは俯く。
「そもそもムッツリのダンナこそ、
東くんが東堂くんを茶化す。
「誰がムッツリだ。それに俺は、新宮に呼ばれて、それが、俺が力になれることだったから、来てるだけで――」
「素直じゃないのは東堂くんだって同じじゃないか」
東堂くんはボクの言葉を聞いて、にやりと笑った。
「結果オーライ。飛丸も認めたわけだ」
あ! とボクは口を手で押さえた。
東堂くんにしてやられてしまった。
結構いい時間になってしまったので、助っ人会は解散となり、ファミレスを出る。
ファミレスを出て、しばらくは東堂くんと帰り道が一緒だ。いつもならあまり話をしない彼と一緒にいる夜の道を歩くのが気まずいのだが、今日ばかりは違う。
「ねえ。東堂くん、ボク、文化祭のステージが終わったら、真子ちゃんにきちんと気持ちを伝えたいと思うんだ」
「おお。いいねえ! 頑張れよ」
「ありがとう。元気づけてくれて」
「なに。俺なんかよりお前の方がよっぽどスクールアイドル同好会に懸けてるよ。そんなお前が報われなくていいはずなんてねえ!」
そして東堂くんは拳をボクに突き出した。ボクも拳を握り、こつんと合わせた。
「約束だぞ」
「うん!」
もう文化祭は2週間後に迫っている。
振り付けは最終段階に入っている。プロジェクションマッピングと合わせて、演出を成功させるだけだ。ただその精度が問題なのだが。
文化祭当日は午前午後と2回のステージがある。そのステージの上で真子ちゃんはスクールアイドルとして大いに輝いているはずだ。
ボクは言おうと思う。
不釣り合いだなんて臆さない。
真子ちゃんが、ずっと、ずっと、この世界で1番、大好きだってことを。
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