彼に憑いてる
@ku-ro-usagi
短編
仕事でよくうちの会社に出入りしている
私と同じ位の年の人かと思ってたらもう少し上だった
Xさん
私を見て可愛いと思ってくれた物好きな人で
話してると楽しいし
何度か食事したりしてね
お付き合いすることにしたんだ
しばらくして
デート中に私の友人に会ったんだよ
本当にバッタリね
それで
せっかくだからって紹介がてら一緒にお茶したんだけど
夜にその友人から電話が掛かってきた
『あのさ、あの人ヤバいよ』
って通話押すなりいきなり言われた
『肩とか頭に目玉飛び出てたりする猫とか内臓出てる犬とか鳥とか乗せてる』
って
友人は色々視える人なんだけど
周りから白い目で見られるのが嫌で
視えても滅多なことではそんなことは口にしないから
私も疑いたくはなかったけど
彼氏のことも信じたいし
でも友達の言うことを信じると
動物虐待?
だよね
でも
彼氏の部屋にも行ったけどそんな形跡は1つもなかったし
彼自身凄く優しくはある
結構ビビりでホラーとかも苦手
ううん?
友人には
『ああいうのは小動物から始まって段々エスカレートしていくから気を付けな』
と忠告された
友人の言葉を気にしつつもしばらくは要観察って事で
次のデートはあらかじめ決めていた
湖畔デートしたんだ
湖の周りは雑木林に囲まれてて
舗装された遊歩道があるのも見えて
木漏れ日が射し込み何だか雰囲気もいい感じ
でも車から降りると
彼氏はなぜかおもむろにトランクから軍手とゴム手袋を取り出すとベルトに挟んで
片手で使える大きさのスコップを
同じくトランクから取り出したリュックに挿したんだ
「え?何するの?」
って聞いたら
「あぁごめん、多分見付かるし見付かったら話すからいい?」
多分見付かるし?
(何が?)
と思いつつ遊歩道を散策していると
「あそこ、見える?」
雑木林のかなり奥を指差された
私はあまり目が良くなくて目を細めてみても薄ぼんやりした雑木林が視界に広がるだけ
「何も」
とかぶりを振って
彼には何が見えているのだと訝しんだら
「ごめんね、ちょっとベンチで待ってて」
と遊歩道にあるベンチを指差して彼は行ってしまった
気になるじゃない
昼間だし他に散策している人いるしで
何かあったら大声出せば大丈夫だろう
それでも
だいぶ遊歩道から離れて雑木林の中で屈む彼の元へ近づいたら
彼は持っていたスコップで硬い地面に穴を掘ってた
それですぐ近くの木の根本に
狸の死体
「僕ね、目がいいせいかこういう小動物の死体を凄く見つけてしまうんだ
通勤中も見付けちゃうとどうしても放って置けなくて
エゴとか自己満とか言われたらそれまでなんだけどね」
とにかく死んでいる生き物がそのまま吹きっさらしに晒されているのが見ていて辛いのだと言う
外で土があれば掘って埋めるし
通勤中に轢かれている姿を見掛けた時は
周りに埋める所がなければ
常に鞄に常備してある使い捨て手袋をして
厚手のビニール袋に出来る限り回収して
通勤用の自転車のカゴに乗せては
焼却炉がある仕事場だから
そこで焼いてる間に手を合わせていると教えてくれた
「……その、やっぱり気持ち悪いし、気味も悪いかな」
と少し諦め気味の顔に
あぁ
なるほど
これが理由で一度や二度は軽くフラれてるなと察した
私は
「あなたに、死んだ時の姿の鳥や猫がくっついてるみたい」
と友人が話していた事を伝えると
「そっかぁ、みんな成仏できてないのかなぁ?」
柔らかな木漏れ日の中で
彼はただ困ったように笑った
これはどうなんだろう
友人を信じないわけではないけれど
私は彼の真意も本音も見抜けないし
でも人間的には好きだったから
そのまま彼とのお付き合いを続けた
彼は本当によく動物の死体を見付けることが多かった
でも
手ぶらでのデート中はさすがに手を合わせるだけだった
その辺の弁えてる感も嫌いじゃなかった
湖畔のあれはイレギュラーとしてね
言葉は悪いけど
あれは私を試す意味もあったんだと思う
そんなある日の夜
彼の部屋から2人でコンビニへ行って部屋に帰る途中
横断歩道で信号待ちをしていたら
向こうから妙に飛ばしてくる車がいるなぁと思ってたらね
居眠りかスマホでも弄っているのか
あっという間に車道から外れてこっちに向かってきたんだ
小さい車だけど轢かれたらただでは済まない
分かっているのに
このままじゃ轢かれるって解ってるのに足がすくんで動けなかった
彼も同じ様に固まっちゃってた
そしたらね
その瞬間
はっきり見えたんだ
彼の胸を目一杯押して
向かってくる車から何とか避けさせようとする
もうボロボロでズタズタの動物たちが
あの一見綺麗に見えた狸もお腹は空っぽで
でも必死に彼のパンツの裾を口で咥えて後ろに引っ張ってた
彼はそれで見事にバランスを崩して数歩足を引き
「あっ?」
手を繋いでいた私もつられてよろけ
「あっ」
「うわっ!」
尻餅をついた彼の爪先を車のタイヤが掠めた
車は先の信号機にぶつかり、凄い音を立てて停まった
周りの家やマンションの消えていた灯りが点いたり窓を開けてこちらを見て声を上げている
誰かが通報している声も聞こえてきた
「びっくり、した……」
「うん……ホント」
びっくりした
色んな意味で
私は改めて彼に視線を向けてみたけど
肩や背中、足許にも、もう何も見えなかった
けれど
彼と手を握っていた私も
あの動物たちに間接的に助けられたのだ
まだ間一髪からの衝撃から抜けられず
尻餅を付いたまま
今更震えがぶるりと這い上がって来た
私は大きく息を吐いてから
彼の背後にいるものたちに対して
「ありがとう」
と礼を言うと
彼はきょとんとした顔をして
「どういたしまして?」
と、彼等の言葉を代弁してくれた気がした
数日後に会った友人にその話をすると
友人はしばらく1人の世界に入り
「うーん、まだまだ勉強不足だった」
と彼を動物虐待の犯罪者扱いしたことを謝ってくれた
でもなぜ彼らは生前の愛らしい姿のままではないのだろう
友人もそれは分からないとあっさり匙を投げた
でも
彼との付き合いが深まるにつれ
少しだけ解ってきた
彼は好きなのだ
死んだ生き物が
好きだから
並々ならぬ興味があるから目に留まるし見付けられる
カラーバス効果だっけ?
興味の対象が目に留まりやすくなる現象
それなんだと思う
だってさ
彼
車に轢かれた猫を見付けた時に
一見
痛ましそうな顔をしているけど
目はキラキラしてるんだもん
少年が山でカブトムシ見付けた時みたいな
必死で痛ましそうな顔してるだけなのね
こいつ
相当に拗らせてるド変態だわ
ただ
やっぱり自分で手を下す系ではないみたい
あくまでも死に場所を選べずに終わった寿命や
もしくは車で轢かれるなど
不意打ちで葬られた命に興奮する変態らしい
動物虐待のニュースには普段穏やかな彼も凄く怒ってるし
まぁだから
まだ一緒にいるんだけどね
そんな彼は
最近
どうしてか
彼は私のお腹辺りを愛おしそうに撫でるんだ
特に裸で横になってる時にね
身体の中でも
一番柔らかくて温かくてきっと美味しいところ
解るよ
多分ね
私が熊にでも食べられているところを想像してるんだろう
恍惚とした表情しちゃってさ
残念なド変態野郎だわ
うん
もし
秋に登山にでも誘われたらその場でフッてやろうと思う
でもまぁ
それまでは
まだ一緒にいてあげる
彼に憑いてる @ku-ro-usagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます