ネタバレあり「成瀬は天下を取りにいく」

著 宮島未奈


 連作短編集です。読みやすく、キャラもよく、普段小説を読まない人にも勧められる本です。


 タイトルや書店のポップなどから、成瀬という主人公が変わっている面白い子なのだろうと思って読み始めました。

 第一話の「ありがとう西武大津店」をちょっと読んだ途端、島崎も相当面白い子なのでは? と思いました。


「ありがとう西武大津店」は成瀬と島崎が閉店までのカウントダウンをテレビ中継する西武大津店に毎日行って中継に映るというお話。

 途中で成瀬に事情ができて行けなくなり、島崎一人で行く事になるというピンチが訪れる展開が、一捻りあって面白かったです。

 この話が、今後の全ての話の起点になります。


「膳所から来ました」を読んで、島崎も相当面白い子なのでは? という予想が大当たりだったと思いました。

 成瀬と一緒に漫才をしてM-1に出ようとするのですが、島崎が成瀬を大好きなのがとても伝わってきます。


「階段は走らない」は成瀬が直接出てくる話ではないのですが、ここで出てきた人物は後々成瀬と絡む事になります。


「線がつながる」は高校で成瀬と同じクラスになる大貫が主人公。大貫はいわゆる地味な子で、クラスの人間関係を観察していじめられないように生きてきました。

 クラスの人間関係を「線」と称して、複雑な線を観察し続ける。


 大貫は東大のオープンキャンパスで成瀬と出会います。

 大貫は成瀬のおかげで気持ちが少し明るくなったのではないでしょうか。


「レッツゴーミシガン」の主人公は広島の男子高校生の西浦です。かるたの試合をきっかけに成瀬と出会った西浦は友人の協力で、成瀬に声をかける。

 成瀬と西浦(と友人)で一緒に琵琶湖の遊覧船「ミシガン」に乗ることになります。


 成瀬が変だと思う友人と違い、西浦は成瀬の魅力に惹かれます。

 成瀬の魅力が分かるってだけで、読者としては西浦の好感度がすごく上がりました笑。

 西浦の恋心と琵琶湖の綺麗な風景がリンクするような素敵なお話でした。


 ラストのお話の「ときめき江州音頭」は今までの話が全てリンクした集大成です。

 ラストにして、初めての成瀬視点の話で、成瀬がどんな子なのかようやく分かりました。成瀬が島崎のことが大好きないい子だと分かって読んでいて嬉しかったです。成瀬をますます好きになった話でした。


 今まで島崎を振り回していたと思って、成瀬は反省して落ち込みます。ですが島崎は楽しかったと言います。大学進学で離れても、二人はずっと友達です。


 ラストの皆が笑顔になっているシーンがとてもよかったです。

「死ぬ前に見る走馬灯にもこの景色が採用されるのではないかと思った」という文が、「嬉しい」とか「楽しい」とか言わずとも、成瀬の気持ちをあますところなく表現していて素敵だと思いました。


 個人的に、成瀬が西浦の広島みやげのしゃもじを使っているシーンが好きです。西浦が報われている気がします。


 成瀬も周りの人も魅力的で、面白い小説でした。おすすめです。

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