著　綾野ことこ

絵　森本ちなつ

　京アニの小説賞の受賞作です。アニメ化されています。

　早気に悩まされ、一度は弓道から距離を置いた湊と、風舞高校の弓道部のお話です。

　早気とは他のスポーツでいうところのイップスで、ざっくり言うと思うように弓を引けなくなる状態の事です。現実の弓引きにも、早気に悩まされている人は数多いそうです。

　主人公の湊は中学で大会中に早気になり、それ以来ずっと苦しみ続けてきました。

　そんな時、森の中の神社の弓道場で、早気を克服した過去を持つ「マサさん」と出会います。

　弓道の描写がとても綺麗な小説です。緻密なだけではなく、表現が美しいです。

　人と人との出会いを弓と矢の出会いに例え、さらに弓と矢が鳴らす「弦音」に例えたのがとても素敵でした。

　弦音とは弓が矢を放つ際に鳴る音の事で、この作品の大きなテーマになっています。弓を引く人により、弦音の音は変わるそうです。

　小説では音自体は聞こえませんが、弓を引く描写が登場人物ごとに違います。読んでいて、この人はこうなんだと想像できて楽しかったですし、どの描写も綺麗で感動しました。

　作中に「射即人生」という言葉が出てきますが、この言葉に説得力を持たせる小説でした。

　静かな良さのある読後感でした！

　弓道の説明が多いので、経験者の方がイメージしやすいとは思いますが、未経験者の私も楽しめました。

　アニメとは印象が違う場面も多いので、アニメを見た事がある人でも、気になったらぜひ読んでみてください！

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