第9話 夢見たい

九 夢見たい


 旅行から帰った土曜日の夕飯後のひととき。

 レナと理沙はハイボールを作ってリビングで飲んでいる。卓は入浴中。

「私も子供作る時まではピル飲もうかな。おじさんにはいつでも中に熱いの注いでもらいたいし」

「いいんじゃない。副作用とか問題なくって体に合えば」

「レナはいつからピル飲んでるの?」

「アタシは昔から、お客とりだした時に知り合ったお医者さんに頼んでピル処方してもらって、それからずっと服用してる。副作用も大丈夫だったから」

「理沙はピル服用したことないの?」

「うん、絶対にゴムつけてくれないとさせなかったから‥‥‥」

「そうなんだ、ちゃんとみんな付けてくれたの? 出されちゃったりしたことはないの」

「私、中に出されたの、おじさんにこの前してもらった時以外は一度だけなの」

「そうなんだ。その一度って?」

「最初に義理の父親にレイプされた時‥‥‥」

「えっ、ごめん、変なこと聞いちゃったね」

「ううん、もう昔のことだから大丈夫」

「それで家を飛び出ちゃったけど、でもそのあと生理がこなくって‥‥‥」

「えっ‥‥‥」

「‥‥‥うん、妊娠しちゃったの」

「そんな‥‥‥」

「家出するときに父親がへそくりしているお金全部持ち出しちゃって、とりあえずお金は五十万くらいあったから、知り合いのつてをたどって堕胎手術してくれる医者見つけて堕ろしたの。怪しい医者だったけど」

「そんな酷い目にあってたんだね。許せない親父のヤツ!」

「だからそれからは、パトロンになりそうな金持ち見つけても必ずゴムしてもらうようにしてたの」

「たまに『中に出させろ』とかいう親父がいると、もう怖くて二度と会わないようにしてた」


「でも、この前おじさんとした時は、中に出してもらいたい、って思ったの。あの時の忌まわしい記憶を上書きしてもらいたいって‥‥‥。だからうれしかったの、いっぱいおじさんに中に出してもらえて」

「うん、ホントよかったね、理沙」

 理沙の話をきいて涙ぐんでるレナ。

「ありがとう。今はすごくおじさんにいっぱい出してもらいたくってたまらないんだけど、でも少しだけ怖いの」

「えっ?」

「私、一度堕胎しちゃってるから、もしかしたらもう赤ちゃんできないかもしれない、おじさんの子供産めれなかったらどうしようって‥‥‥」

「そんなの気にしないでいいのに」


「そうだよ、理沙」と卓の声がした。

 風呂から出てきていつの間にか二人の後ろに立っていた卓が屈んで後ろから理沙を抱きしめる。

「子供ができなくたって俺は理沙を一生愛していくから。それに二人のどっちに子供ができても、俺たち三人の子供だから」

「おじさん‥‥‥」と見あげる理沙の目には涙がたまってる。

「辛い思いをしてきた分、一緒に幸せになろうな、理沙もレナも」

「うん、愛してる、おじさん!」



 日曜日、新宿

 世界的に有名なジュエリーブランドのショップにやってきた三人。

 店に入るとスタッフや店内にいたお客がみんなレナや理沙を見る。

「誰あの二人? 芸能人? アイドルとかモデルじゃない‥‥‥」

 場を明るくするほどのオーラがある美人の二人の登場に、ざわつく店内ではそんな声がきかれる。

「いらっしゃいませ」

 少し年配のマネージャーらしき人が三人のところにやってくる。

「どういったものをお探しでしょうか?」

「結婚指輪ってあります?」とレナ。

「はい、こちらにどうぞ」

 案内される三人、ショーケースのところで中のスタッフが出てきて挨拶する。

 マネージャーは理沙に声をかける。

「お客様は何を探しですか?」

「えっ、私も一緒、結婚指輪です」

「あ、そうですか」ではこちらにどうぞ。

 そう言ってレナの隣に案内する。

 二人それぞれにスタッフがついて指輪の紹介を始めるが、結構みんな高い。

「あの、結婚指輪で一番安いのってどれですか?」と聞くレナ。

「そうですね、でしたらこちらのシルバーリングあたりになります」

 スタッフは二種類のリングをケースから出して上に置く。

 理沙に接客しているスタッフが、レナに提案されたリングのほうを見ている理沙に声をかける。

「お客様はどのような‥‥‥」

「あ、私も一緒なので」

「あ、そうですか、ではそちらでご一緒のご案内でよろしいでしょうか?」

「はい」

「ねえ、理沙はどっちがいい?」と二つのリングを理沙に見せるレナ。

「う〜ん、私はこっちかな」

「そ〜お? こっちのほうがよくない? あ、おじさんはどっちがいい?」と後ろの卓に振り返ってきくレナ。

「そうだな〜。どっちも悪くないけど、シンプルなこれでいいんじゃない?」

 理沙がいいと言ったほうを指差す卓。

「ほら、こっちでしょ、おじさん私と一緒のセンスだね」

 レナのほうを見て自慢げに言う理沙。

「わかったよ〜、じゃあこれでいいから。値段も割とお手頃かな」

「なあ、もうちょっと高いのでもいいぞ‥‥‥」

「いいの、三つも買うんだから安いほうがいいじゃん」とレナ。

「私もこれで十分!」と嬉しそうな理沙。

「それではサイズお測りしますね」

「はい、じゃあ、三人のサイズ測ってください」と理沙。

「えっ? もうおひとりの新郎様は?」

「新郎は一人で、新婦が二人だから三本でいいの」とレナ。

「はっ‥?」

「あれ、なんか変?」

「あ、いや、そういったお求め方、当店では初めてでして‥‥‥」

 驚いて焦るスタッフ。

「ダメ?」

「いえ、ダメとかではないですよ」

「じゃあ、三本でお願いします」

「あ、はい」と順に三人の指のサイズを測っていくスタッフ。

「裏に結婚式の日付とか、新郎様ご新婦様のイニシャルを入れたりできますが、いかがしますか?」

「いいね、入れたいです」とレナ。

「式の日付はいつでしょうか」

「おとといでいいんじゃない」と理沙

「そうだね」とレナも同意する。

「イニシャルはいかがしましょう。A to Bとかお相手の方のイニシャルを先にしてご本人様のイニシャルをあとにするのが一般的ですが」

「じゃあ、それでお願いします。アタシは、T to Rだ」

「えっと、私はT to R、あ、同じじゃん、レナと」

「あ、ホントだ!」

「おじさんのはどうなるのかな。Rが二人だから RR to Tって感じ?」

「いいんじゃない」と卓。

「R to T、R to Tって二つ並べのは?」とレナ

「でも長くなりすぎじゃない、R二つとTでいいんじゃない」

「どっちが普通です?」

 スタッフに聞くレナ。

「え、いや、こういうのははじめてですので、ちょっとわかりかねます、すみません」

「そっか、じゃあRR to Tでお願いします。おじさん、それでいい?」

「いいんじゃないか」

 卓が支払いを済ませている間に色々と見て回る二人。

「おまたせ、終わったよ」

「じゃあ、行こう、ご飯食べようよ」

「そうだね、お腹空いてきた」

 三人で仲良く出ていく姿を見て、お店のスタッフたちあっけにとられていた。


 さらにネットで探してフォトウェディングを予約するレナ。

「苦労したんだからね。三人で、って言っても対応できない、とか設定がない、とかいうところが多くて電話しまくったんだから」

「まあ、そうだろうね。普通三人ってないだろうし‥‥‥」

「一月に予約れといたからね〜」

「わ〜い! ウェディングドレス、超楽しみ〜」

「アタシも〜。そんなの着れるなんて思ってもなかったよ〜」

 結婚を夢見ている少女のように無邪気にはしゃぐレナと理沙。

 思わず胸が熱くなってしまう卓だった。

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