第2話 逃げたい

二 逃げたい


 夕飯を作るのが面倒になって駅前まで夕食を食べに出た卓が、食事を済ませてマンションに戻ると、ドアの前に昨日の女の子が座って膝をかかえるようにしてうずくまっている。

 寝ている感じだ。

「えっ?」と驚く卓。女の子の肩をそっと叩く。

「あ、おかえりっ」と顔をあげる女の子。

 化粧してるので、朝よりもぐっと大人っぽく見える。ギャルっぽいけどかなりの美人だ。

「どうした? 忘れ物か?」

「違うけど‥‥‥」

「まあ、そんなとこに座ってないで中に入れば‥‥‥」

「うん」

「ほらっ」と女の子の手を引いて起こし、部屋に入れる。

 リビングのソファに座った女の子に冷たいアールグレーを出す卓。

「ちょっとお願いがあってさあ‥‥‥」

「え、俺に?」

「うん。実はちょっとヤバい状況になっちゃって、できればまた泊めてくれないかな、って。あ、もちろんセックスOKだよ」

「あ、いや、それはいいけど、訳聞かせてくれるかな」

「うん、アタシ、今まで男と暮らしてたんだけど、そいつがとんでもないやつで、ろくに働かないし、すぐ人に手をあげるし、だからこの前逃げてネカフェで暮らしてたんだ。そしたらさっきそいつがネカフェに来て、見つかっちゃって、戻れなくなっちゃったの‥‥‥」

「じゃあホームレス、ってことか?」

「まあ、そんな感じかな」

「荷物は?」

「貴重品とかは全部持ってるし、あとは着替えとかだけだからまあいいや」

 酷い状況なのに明るく答える女の子。

「で、おじさん一人暮らしでしょ。だから少しの間、置いてくれないかなって思って。アタシ、いるときはご飯作るし、毎日セックスしていいから。だから少しの間でいいから。他にいくとこないの。お願い、助けて!」と手を合わせる女の子。

 見ると腕に痣のようなのものができている。

 腕を掴む卓。

「これどうした?」

「さっきネカフェで押し問答になって叩かれたの」

「大丈夫か?」

「うん、しばらくすれば跡も消えるよ」と気楽そうに言う女の子。

「わかった、いいよ、落ち着くまでいれば。でも泊めるかわりにセックスとかしなくていいから」

「なんで、昨日はいっぱいしたじゃない」

「それはそうだけど‥‥‥でも弱みにつけこんでそういうことするのは嫌なんだ」

「ふ〜ん、なんか真面目っていうか、変なの。別に深く考えなくていいよ。アタシおじさんとのセックス気持ちよかったからまたしたいな、っていうだけだし」

「そうだ、歳は何歳?」

「え、アタシ? 二十二」

「嘘だ、朝化粧してない時はどうみてもJKっぽかったけど」

「へへへ、バレたか。本当は十八」

「やっぱり未成年じゃないか! 高校は?」

「中退した」

「家はないのか‥‥‥?」

「お母さんが死んでからは家なし。男のとこに世話になったりしてきたの」

「父親は?」

「まだアタシが小さい時に女作って逃げた」

「そうか‥‥‥」と黙ってしまう卓。

 まだこんな歳なのに色々苦労してきたのを思うと複雑な心境だった。

「そうだ、名前聞いてなかったね。アタシは白川麗奈、よろしくね」

「お嬢様っぽい名前だな」

「レナって呼んで。あ、仕事は偽名で違うけどね」

「俺は水嶋卓って言うんだ」

「へ〜、おじさんなんかかっこいい名前じゃない!」

「そうか? ところで夕飯食べたのか?」

「まだ食べてなかったっけ」

「俺、表で食べてきちゃったけど、何か作ろうか」

「いいの? うれしいな」

「簡単なパスタでいいか?」

「うん、なんでも。好き嫌いないほうだし」

「わかった。作ってるから、その間にシャワー浴びてきたらどうだ。昨日の夜も入ってないだろ」

「うん、そうする」と行って立ち上がるレナ。

「いたっ!」とよろける。見ると脚にもスリ傷みたいなのがある。

「その脚‥‥‥」

「さっき転んじゃった。あ、でも大丈夫だよ、っつ‥‥‥」

「まあ無理するな」

「うん」

「着替え、俺のスウェット上下出しとくから」

「ありがと」

 レナを風呂に案内して、タオルとかを教える卓。

 服を脱いで風呂に入るレナ。

 卓はその間にベーコン&ナスのトマトソースパスタとシーザーサラダを作る。


「あ〜、さっぱりした。お風呂お先に〜。わ〜、美味しそう!」

「どうぞ」

「うん、いただきま〜す」

 美味しそうにパスタを食べ始めるレナ。

 ギャルっぽいのに食べ方にはガサツさはなく、育ちがいいことを感じさせるのが、妙にギャップっぽい。


「ご馳走さまでした。すっごく美味しかったよ。トマトソースおじさんが作ったの?」

「たまに作り置きしてるんだ」

「すごいね」

「片付けるから置いといてくれればいいよ」

「ダメ、ご馳走になったから洗い物くらいはさせてよ」

「‥‥‥わかった」

「俺、部屋でちょっと仕事してるから、何かあったら呼んで。ソファで適当にくつろいで。あと、冷蔵庫のもの飲んでいいから。ビールも入ってるし、って未成年か‥‥‥。まあいいや」

「は〜い」

「今日は仕事はもう終わりか」

「うん、午後のひとりだけ」

「そうか‥‥‥」

「でも昨晩のおじさんのほうが全然気持ちよかったよ!」

「ははは‥‥‥」と苦笑いする卓。


 部屋に戻って仕事の続きをする卓。

 しばらくして仕事を終えて部屋を出るとリビングのソファで横になってレナが寝ていた。

「しょうがないな‥‥‥」

 レナを担いで寝室のベッドに連れていき、ベッドに寝かせると、レナが目を覚ます。

「あ、ごめん、寝ちゃった」

「疲れてるだろ、ここで休みな」

「うん、ありがと。おじさんも来て」

「え」

「だっておじさんのベッドでしょ」

「セックスしたいな、おじさんと」

「いや、それは‥‥‥」

「あ〜、アタシが体売ってるからって汚いとか思っちゃってるの?」

「いや、そうじゃないけど‥‥‥」

「こんなビッチとはしたくない?」

「いやそんなことはないけど」

「じゃあ、しようよ。アタシおじさんとしたいの。それに肌のぬくもりを感じると安心するんだ」

「おじさん、ここに寝て」

「わかったよ」と言われる通りに横になる卓。

「ほら、ここは正直だよ。こんなに硬くなってきてるし」

 そういうとレナは瑛人のパンツを脱がせて、瑛人のペニスを舐めて口に咥える。

「まだシャワー浴びてないから‥‥‥」

「いいよ。おじさんの匂いがしておいしい。フェラされるの好き?」

「あ、ああ、すごく気持ちいいよ」

「アタシ、フェラには自信があるんだ」

 そう言って丹念に卓のペニスをしゃぶるレナ。

 片手で睾丸をもみほぐしながら、片手でペニスの根元をさすって、たっぷり唾液を出してペニスに絡めながら舌を使って丹念に舐め回すレナのテクに、すぐに気持ちよくなる卓。

「ああ、いい、もう、出そうだ」

「うぼっ、ぬぼっ!」と激しく口を上下させてペニスをしごきながら「出して、口に」と口の動きを早めるレナ。

「ああ、出る、出る‥‥‥」といいながら卓はレナの口にどくどくとザーメンを注ぎ込む。

「んぐっ、むぐっ!」

 喉を鳴らしながら出されたザーメンを飲み干していくレナ。

 最後もペニスの中に残ったザーメンを絞り出すようにして舐め掃除してにっこり微笑む。

「いっぱい出たね。ご馳走さま」

「まだ出来る? 硬いままだけど‥‥‥アタシもおじさんので気持ちよくなりたい。おじさんの入れていっぱいおまんこほじって‥‥‥」

 懇願するように言うレナ。

 たまらなく可愛くてセクシーで、思わずレナに覆い被さっていく卓だった。



 またしてもレナとセックスしてしまった‥‥‥。

 セックスのあとそのまま寝てしまったレナの横で横になりながら、昨日からの突然の出来事に想いを馳せる卓。

 きっとすごくいい子なのにセックスに関する貞操観がないのは、今時の子はみんなこんな感じなんだろうか。

 横で寝ているレナの寝顔はすごく可愛くてあどけなさも残っているのに、家もなく、男に暴力振るわれたり、ネカフェで生活してたり、体を売っていきていたり、どうしてこんなことになっているのか、卓には全くわからなかったが、もう会えなくなってしまった幼い自分の娘が、大きくなってどうなっていくのかを考えると複雑な心境だった。

 突然、レナが卓に抱きついてきた。体が震えている。

「大丈夫か?」と声をかける卓。

「怖い夢みたの。しばらく抱きしめててくれる?」

「いいよ、大丈夫だから」と抱きしめて頭を撫でてやっているとまたレナは眠りに落ちていった。



 こうしてレナとの奇妙な共同生活が始まった。

 レナは元々母子家庭で、父親が女を作って逃げたあとは母親と二人暮らしだったが、高校二年になる時に母親が死んで、色々あって高校を中退したらしい。

 遠い親戚がいたが、引き取られるのを断って知り合いの男のところに転がり込んで体を提供するかわりに住ませてもらったりしていたらしく、体を売るようになったのもその頃からだと言う。

「アタシって顔はけっこうイケてるし、身体にはすっごい自信があるんだ。だから自分の武器を使ってお金を稼ぐのが一番いいでしょ。セックス大好きだし」

 あっけらかんに体を売り始めた理由を話すレナ。

 当然法に触れることだから、そんなにうまい話ばかりではないらしくて、やくざに情婦にされそうになったり、騙されて金を取られたり、ゴムを外して中出しされたこともあったり、仲間を呼んで何人かで輪姦されたこともあったりしたみたいだ。

 そんなひどい目にあってきたレナだが、最近は客を選んでいることもあって、トラブルはほとんどないらしい。

 警察に泣きつけない仕事だから、自分で自分の身を守らないとね、と明るく話すレナがどれだけの苦労をしてきたのかと思うと胸が痛くなる。

 本当は客なんか取らせたくはないが、そこまで干渉すべきではない、という気持ちもあって、それは言わないようにしている卓。


 レナは日によって違うが、一人か二人の客を取ってる日が多く、客がつかない日もあったりする。

卓のところに来てからは、なるべく昼間に客をとって、夜は家にいて夕飯を作るようにしてくれてるようで、そういうところが妙に律儀だったりする。

 でも毎晩、卓にセックスを求めてくるので一度聞いたことがあった。


「なあ、泊まらせてもらってるからってセックスしなくたっていいんだよ」

「ううん、違うよ。別にお礼で体を提供しているんじゃないから」

「じゃあなんで毎晩セックスしたがるんだ?」

「アタシ、何にもできないし、役にたたないけど、セックスして体を使ってもらってると、自分が必要とされてるって感じがすごくして、なんか生きてていいんだよ、って言われてるみたいで‥‥‥。それにセックスは気持ちよくって好きだし」

「でも昼間客とセックスしてるだろ、それじゃ足りないのか?」

「違うんだな〜、それは仕事だからさ〜。嫌な相手だっているし、気持ちよくなかったり、逆に気持ち悪いこともあったりするでしょ。でもおじさんとセックスするのは仕事じゃないから、気持ちいいだけじゃなくってすごく心も満たされるの。アタシ、一日の最後の寝る前におじさんとセックスすると、いい一日で終われたな、って幸せな気分になるんだ」

 少女のような可愛い笑顔で言うレナに、卓は年甲斐もなく胸がきゅんとしてしまったのだった。

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