第29話 悠「いや、あと少しで3桁と70前半とはくらべるだげ失礼ば?」
私は友人たちと同じクラスになることができ、満開の桜と同じように、抜けるような青空みたく気分も晴れ晴れ……
「……あの、村雲さん?」
「……」
進級して見慣れない顔の方もいまして、名前順で並べられた席にて隣同士になった村雲さんから、それはもう穴が開くんじゃないかってくらい見られています。
……初対面、のはずです。可愛らしい子だと思います――きっと、一度でも話しかけられれば記憶してしまうほどの、印象に残る整った顔。
背筋はピンとならい、初ちゃんみたいなクールさも携えて、愛ちゃんみたいに規則正しく、悠ちゃんのようにあどけなさもあるような。
「私、面白い顔をしてますか?」
何度か話しかけていますが、村雲さんは一向にこちらに会話しようとしません……先生が新たな関係を抱くクラスメート同士の親睦を提案し、まずは隣席同士での語り合いを提案しましたが、その、こちらから球は放っても返球の意図はまるでなく。
もちろん「面白い顔しているよ、毛の生えてないゴリラみたい~」とか言われたら涙目になる自信がありますが、村雲さんは本当にずっとこちらを見るばかりで一言たりとも口を開きません。
「ええと、私に興味がなければ……そうですね、かわいい妹の話をしま……あ、興味ないですね、すみません」
きっとどうあがいても私が一方的に口を開くばかりなのだ――と、考えていたところに
「まずは、謝りたく存じます」
「……え? ああいえ、私がトークしたい族の住人でなかったのが悪いのです。初ちゃんや愛ちゃんや悠ちゃんくらい……あ、私の友達くらいすごすご族ならきっと話も盛り上がったと思いますし」
「取り返しのつかないことをしました」
そこまで思い詰めなくとも!? 私はそこまでではないですが、隣の席の生徒といきなり小粋なトークにハードルの高さを感じるのは不自然ではありません。
事実、初ちゃんはファンが推しに愛を語るような熱烈さで迫られています……あの、すみません、こっちに「助けて」の意思表示をされても、ちょっと無理があります申し訳ありません。
「取り返しがつかないかは……まあその、これから次第ではいかがでしょう? 謝罪はひとまず受け入れまして」
「ありがとうございます」
こちらが一つ村雲さんのお願いを叶えたら、きっと彼女も私のお願いを聞いてくれるはず……つまりは、謝罪を受け入れたので謝るのを一旦やめてね、と。
「いま、一つ謝罪を受け入れてくださいましたが、私にはまだ謝罪しなければいけないことがあるのです」
「そ、そんなご大層な人物じゃなかったつもりなんですけど……」
どちらかと言えば謝罪されるよりする方が多い人生だったと思いますし、ごめんなさいよりもありがとうの方が聞きたいかなと思うのですが、だからといって謝るなよと言うのも変です。
「私はあなたが苦手です」
「……そ、それはその、トーク相手として申し訳なく思います」
「いえ、人間として嫌っているのではなく――私とあなたはとても似ている。同族嫌悪と言えば良いでしょうか」
どうしよう……何を言っているのか全く分からない……好き嫌いならそれも人間だし、で涙目でうつむいて終わっちゃいますが。
似ていると仰るのを否定しても角が立ちそうですし、かといって「私もです~」は論外極まる。
「どのあたりが……でしょうか。いえ、その疑っているわけじゃないんですが、そういうことは自分ではよく分からないので……」
話題の種としては開花させたくないけど、互いに「で、ですよねー」でトーク終了では3巻の終盤でいきなり連載が終わる漫画レベルで腑に落ちなさを覚えてしまいます。
鏡を見ているみたいに生き写しならば「そうかも」と思うんですが、私と村雲さんはギャルさんが「アタシとこのアイドル似てる」レベルの似具合です――感情を気取られないように「だよね~」と聞き上手を演じるレベルです。
「例えば……お風呂に入ったときに一番最初に洗う場所が同じです」
「すみません、それはどこの誰が白状した情報なのかちょっとお尋ねしてもよろしいですか?」
実は幼い頃に顔を合わせていて一緒にお風呂も入ったと主張するなら、忘れていてすみませんと頭を垂れれば良いんですが。
私の幼なじみと言えば初ちゃんくらいでしたし……はっ、あのとき仲良くしてくれた……あ、ごめんなさい、そんな相手いませんでした、初ちゃんのお味噌でした、本当にごめんなさい。
「左の胸を持ち上げて下部を丁寧に洗い、次に右の胸、蒸れがないかどうか綿密に確認をして次に脇」
「やめましょう!? もう情報源は言及しませんから!」
周囲から「すべらんなぁ」と続きを求める声が多数上がっていましたが、村雲さんは「何で止めるのだろう」と言わんばかりに首をひねりつつ、
「お刺身を買うときにつまが多いものを買うと、ご飯を口に入れるより大根を食べるケースが多いです」
「何でそんなピンポイントで私のことを知っているんですか!?」
「いいえ、これは私のことです。ほら、よく似ていたでしょう? 私たちはとてもよく似ているのです」
似ていると言うよりも私と同じ行動をあえてしているレベルでしたが、同族嫌悪といえば同族嫌悪なのかもしれません。
「ですからあえて仲良くなる必要はありません」
「……でも」
「それとも、和式のおトイレを使うときに胸の位置を気にして枠から」
「屈みにくいんです! すみませんでした!」
「いえ、私もそうなので」
おそらく私以外の……会話が聞こえてしまったあらゆる生徒から「え!?」みたいな表情をされていますが、村雲さんは全くどこ吹く風、私もあなたと同じくらい胸が煩わしいですが何か、と言わんばかりに悠々としています。
でも不思議と、今の会話で仲良くなれたと私は勝手に考えているんですが……あ、ダメですか?
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