青の藻屑

死神王

感情ジェットコースター

「なんかさ、色々とめんどくさくなって、別れたいんだよね。」

 高校の昼下がりの昼食で、ぽつりと沙也加は語った。私はあっとして箸の動きを止めてしまった。

「なんか彼氏がさ、重いんだよね、言動が。昨日とか通話とかする時に『一生一緒にいようね』とか、『ずっと大好きだよ』とか、言い続けてきてさ。私としては、そりゃあ一緒にいるのはいいけど、そこまで壮大にされると、冷めてしまうというか。」

「確かに、それは重いね。そこまで考えないもんね。普通。なんか、温度感が違うよね。うん。」

 そう私は頷いた。うん、重いね。確かに。とまぁ一丁前に答えたけど、私、そう言う経験がないんです。恋愛が苦手で、彼氏になる人がいなくて、でも高校生になってまで彼氏いないのも恥ずかしくて言い切れなくて……。あーなんか嫌になってきた。

「春香はさぁ、そういう経験ないの?私どうしたらいいかわからなくてさ。意見が聞きたい。」

「私?私はね……。うーん。」

 え、質問された?待って?私彼氏いないのに?確かにわかってる風に相槌したけど、どうしよう……。

「春香可愛いからさぁ。絶対色々経験あるでしょ?」

「も、勿論ね!」

 はい、咄嗟に出てしまいました。だって可愛いって言われたんだよ。私悪くないよ。えー、どうしよう。とりあえずそれっぽい事を。

「まあー、重い子はね。スパッと切った方がいいのよ!本当に。」

「やっぱりそうなのかな……。」

「私も色々あったけど、後で面倒臭くなってぐちゃぐちゃになる前に色々処理した方が後腐れなくやっていけると思うよ。」

 経験ゼロの私が言っちゃってますよ。でもらしくない?人の顔色見て話すのが得意だから、言って欲しそうな言葉は思いつくの。恋愛アドバイザーになろうかな。彼氏できたことないけど!

「わかった。じゃあそれで考えてみる。ありがとう。」

「うん。こちらこそ。」

 そうやって昼食の魔の時間を乗り越えたのだった。


 授業中、先生の話も退屈でさっきの話を反芻していると、怖い事を思い始めた。あれ、私二人を別れさせようとしてない?スパッと切ろうとか言ったけど、経験ないならもっと柔らかい方向のアドバイス方が誰も傷つかなかったのでは?話し合いをした方がいいよとか、無難なアイデアなんて腐るほどあるじゃない。なんであんな言い方したんだろう。嫌だ、嫌だ、嫌だ。これで二人が別れたら私責任取れないよ。怖い。どんどん怖くなって、胸がドキドキしてきた。同時に少しだけ優越感も感じていた。ああ、私知ってる女って気取ってるのに嬉しいんだ。だからこんなこと言えたんだ。彼氏もいないくせに一丁前に扱われてるのが嬉しいんだ。気持ち悪い私が。最低だ私が。とてつもなく自己否定に苛まれて、右手をぎゅっと握りしめた。頼むから、上手くいって欲しいな……。


 次の日の朝、ドキドキしながら机に座った私のもとに沙也加が来て嬉しそうに話してきた。

「昨日さ、スパッと切った方がいいって言われたけど、よく自分で考えてさ、話し合いが一番だと思って、思ってる事話したんだけど、真摯に受け止めてくれて、お互い思ってること話せた。凄い良かった。春香のアドバイス無視しちゃってごめんね。」

「ああ!そうなんだ。よかったー。全然大丈夫だよ。二人が幸せならそれでいいの。」

 結果的に二人が別れなかったので私に責任はないんだけど、突然感情が溢れ出してきて溢れ始めた。憎い。憎い。憎い。

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