雪解けチョコ
@edamame050
雪解けチョコ
今日は何の日だ、二月十四日そうバレンタインだ!
バレンタイン、好きな人に愛情を形にして送る素晴らしい記念日。
ある人はこの機会に乗じて、告白して恋人同士になったりするってこともあるのかもしれない。
かくゆう私、佐々木狛春もこの記念すべき日に備えてとってもcleverなプランを考えてきた。そのプランはこうだ!
①結月さんと学校で雑談をする(平常運転)
②話の流れで放課後デートに誘う。
③帰りに手作りチョコを渡して想いを伝える。
完璧だ!我ながら隙がないプランに驚く。
あとは告白がうまくいくかっていう一番大きな問題があるけど、結月さんから私への好感度パラメーター高いと思うし、大丈夫だよね?
まぁプランはまとまったことだし、とりあえずチョコレート作りを開始しますか。
必要な材料と器具をキッチンに並べる。
こんなこともあろうかとチョコレート作りは半年前から練習してるので、今回はー……自信があるんだよね!!!
そしてあれこれと工程を経て、できたものがこちらになります!
完璧だ……!(二回目)何も言うことがない。
よし、チョコはできた!あとは万が一でも溶けないように冷蔵庫に保管しておけばオッケー!
明日どうなるかわかんないけど、何とかなるよね!きっと!おやすみ!
最悪だ……フラフラとした足取りで洗面所の鏡の前に立つ。
そこにはボサボサの髪に目元に隈を携えた酷い顔の私がいた。
あの後布団に潜ったはいいものの興奮しすぎて眠れなかったのだ。
明日への緊張から興奮したってこともあるが、気合いを入れるためにエナジードリンクを三本飲んでチョコレート作りに励んだのも良くなかったな。くっ、せめて一本にしとくべきだったか。
こんなコンディションで上手くやれるのか、不安がすごい……いや、だめだ弱気になるな。
鏡の前で自分の顔を二回叩いて喝を入れる。
頰がヒリヒリするが、おかげで弱気な自分を追い出すことができた。
『よし、がんばろう』
教室に着くと朝礼が始まる前に結月さんのところに向かう。
結月さんはいつも通り文庫本を自分の席で座って静かに読んでいる。
さすが、図書委員がやると絵になるな。いや、図書委員は関係ないか。
『結月さん、おはよう!』
『おはようございます。佐々木さん』
結月さんに話しかけると文庫本から視線を外して、こちらにニコッと微笑んで挨拶してくれた。うっ、眩しい。思わず目を細めたくなるな。
『?いぇーい?』
私が目を細めて手を顔の前に掲げてると、結月さんはそれをハイタッチと受け取ったのか手をバチンと合わせてきた。
軽快な音が鳴る。
『いぇーいって、ごめん結月さん。そういうつもりじゃなかったんだ』
『えっ、違うんですか?』
『うん』
あっ、恥ずかしそうに顔を伏せた。ちょっと赤くなってて可愛い。うっ、いや、いい加減にしないと話が進まないな。
そろそろ朝礼始まっちゃうし、本題に入るか。
『結月さんはその、今日の放課後空いてる?』
『空いてますよ』
よかった、もしも先約があって断られてたら終わってた。結月さんはどうやらどフリーらしい。やったね。
『どこか行くんですか?』
純朴そうな少女の目を向けてくる結月さん。
『それはねー……』
やばい、よくよく考えたらどこ行くか考えてなかったや。
チョコを上手く作ることばかり考えてたせいだ、どうしよう。
目が泳ぎ出して右往左往する。なにか、何かいい案ないか?
ふと、結月さんの読んでる文庫本の帯を認める。
帯には映画化決定!二月十四日公開予定!と書かれていた。
これだ!
『ねぇ、結月さんその本ってどんな本なの?』
『この本ですか?この本は一日分の記憶しか保持できない記憶障害を持つ女性とそれを知りながらも献身的に支える男性の物語です』
私が尋ねると、ネタバレしない程度に本の詳細を教えてくれた。
『その小説、映画化されるんだね』
『何で知ってるんですか?』
『だって帯に書いてるよ?』
結月さんが文庫本の表紙を見る。
『あっ、ほんとだ』
『今日からみたいだね』
『そうみたいですね』
結月さんはたった今、気づいたみたいだ。
『よかったらさ、今日の放課後観に行かない?』
『いいですね!』
正直行くところが決まらなかった時のことは考えてなかったため、だいぶ危なかったがこうして奇跡的になんとかなったので、これは上手くやれよという天啓なのではと感じた。
『じゃあ放課後、そのまま映画館行こっか』
『はい!』
この勝負頂きました。ありがとうございます。
放課後になり早速、映画館に来るとカップル、家族、友達同士、一人で来た人と館内はいろんな人が来場していた。
チケット売り場に行きチケットを買う。
どうやら前売り券を買わなくても席は確保できるみたいだった。
『結月さんポップコーンとか買おうよ』
映画鑑賞の醍醐味といえばポップコーン!かどうかはわからないが、見ながら食べるのはなかなか楽しかったりする。
『そうですね、せっかくですし二人でわけあえるくらい大きいもの頼みましょう』
『うん』
シアタールームに入場し指定した席に着く。上映開始日に来たこともあってか平日の夕方にもかかわらず、シアター内はたくさんの人がいる。
『映画館ってなんだかワクワクしますね』
上映を待つ間、肩が触れ合うほどの距離にいる結月さんが声を弾ませながら、囁いてくる。
『うん、家で見るのとはやっぱり雰囲気が違うよね』
『わかります!』
私の言葉に同意するように、うんうんと頷いてくれる結月さん。
そろそろ上映が始まる。学校で結月さんに聞いた限りでは恋愛小説が原作ということくらいしかわからないので、どんな内容なのか非常に楽しみだった。
本編が始まった。
ある女子学生と男子学生の儚くも切ない恋の話だった。
少女は記憶は一日分しか保持できないため、少しでも残していけるようにノートにその日の楽しかったことや悲しかったことを記録していき、少年はそんな少女の毎日が少しでも色鮮やかになるよう、いろんな楽しいことを二人で実行していく。
観てるこっちまで幸せな気分になる展開だった。
後半に差し掛かると物語は急展開をみせた。なんと、少年は心臓の病気を遺伝的に患っていて長くないようだった。
それでもどうせ治療が成功して生きるんでしょと、高を括って見てたら呆気なく少年は死んでしまった。
少女は悲しみに暮れた。まさか私もこんな展開になるとは思わず、涙が溢れた。
幸い少女の記憶は一日分しか保持できないため、今までの少年との思い出をノートから消せばその事実を知らないまま過ごすことができた。最終的に少女の記憶障害は治りいつも通りの日常生活に戻るというエンドで上映が終わる。
衝撃的なラストを迎えて、喪失感がすごい。
少女はこれからも生き続けるのだろうが、そこには本来いたはずの少年がいない。そんなのあんまりじゃないか。
隣の結月さんを見ると同じ思いで観ていたのか目元が赤くなっていた。
『映画よかったね』
『はい、ハンカチ用意しておいて正解でした』
各々映画の感想を言い合う。
そこでふと考える私がもしもいなくなったら、結月さんは私のために泣いてくれるのかなと。
『あのさ、結月さん』
『なんですか?』
深呼吸してから彼女を見つめる。いや、ありえないか、映画に影響されすぎたな。
『ポップコーン美味しかったね!』
『はい!』
二人で帰路につく。外に出るとなんと雪が降っていた。つまりホワイトバレンタインデーということか。
傘を一本買って二人で身を寄せ合って歩く。なんで二本じゃないのかというと、私が無理をいって二人で一つがいいとごねたからだ。
結月さんは不思議そうな顔をしてたが、なんとか私の案は承諾された。
とはいえ映画館の時もそうだったが、この距離感は中々にくるものがあるな。
『佐々木さん、今日が何の日か知ってますか?』
無言で結月さんの隣を堪能してると、意外な問いを彼女からかけられる。
え、この質問って、え、私が先に訊こうとしたやつ。
『な、なにかなー知らないなー』
突然、彼女の方から訊かれるとは思ってなくて、咄嗟にシラを切ってしまう。何やってるんだ私。
そんな私に苦笑しつつも結月さんは続ける。
『今日はバレンタインデーですよ。はい』
カバンからラッピングされた四角い箱を取り出し、それを渡される。
『え?これを私に?』
嬉しい嬉しい嬉しい。おそらく結月さんにとってはただの友チョコだろうけれど、それでも私の喜びは臨界点を超えていた。
頬を無限に緩ませてると、さらに意外な言葉を彼女は放つ。
『佐々木さん』
『なーに?』
『勘違いされたくないのでハッキリ言いますけど、それ友チョコじゃないですよ』
『え?』
まさか、義理チョコ……?
結月さんにとって私ってその程度の存在だったんだ……
自分が思っていた評価と違って、内心すごいショックを受ける。
『本命です』
一瞬、銀世界が静止したように映った。それから数秒間私は息をするのも忘れて何も言えず、ただ目の前の彼女を見つめることしかできなかった。
はっ、はっ、はっ、ようやく息の吸い方を思い出す。
息を止めてたせいなのか、彼女からの言葉を受けたせいなのかわからないが、私の顔は自認できるほどに熱くなっていた。
冷静になって彼女の真意を測る、ただ何度咀嚼して飲み込んでも言葉通りの意味にしか理解できない。
『結月さん、それってつまりさ』
震える唇でなんとか言葉を紡ぐ。
『はい、大好きです佐々木さん』
結月さんは照れくさそうに笑って、ごちゃごちゃと考える必要のないまっすぐで明快な想いをぶつけてくれた。
胸中が歓喜に満ちる。心の奥底から叫びたい気分になる。
こんなことあってもいいのだろうか、都合が良すぎる。他でもない私にとって最高の展開だ。
だから私は一度自分の頬を叩いた。
『いたっ、夢じゃない?』
『ふふっ、へんな佐々木さん。夢なわけないじゃないですか』
おかしそうに笑う彼女が今は堪らなく愛おしくみえる。
よかった、夢じゃないや
『結月さん』
『はい』
『私でいいの?』
今更になって不安になった。本当に自分なんかが彼女の隣に立っていいのかと。ああ、我ながらほんとめんどくさい。
これでもし、この性格が面倒くさがられてやっぱり無理とか言われたら泣くくせになにやってるんだか。
でも、そんな私の心配も次の彼女の言葉で杞憂に終わった。
『貴女だからいいんです。貴女以外大好きになんてなりません』
ああ、やっぱりよかった彼女を好きになって。だってこんなに幸せな気持ちにしてくれたんだもの。
『こんな私でよければ貴女と一緒にいさせてくれませんか?』
もちろん答えは決まってる。
『はい』
雪が降っている。火照った身体を冷ますようにシンシンと。街灯が私達を照らす。その全てが今の私にはどこか優しく感じた。
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