第6話 生成AIに関する著作権の法解釈を解説します

 皆様、お久しぶりです。


 AIについての解説を5回に分けて説明してまいりましたが、間違った知識でAIを批判している意見・記事を多く見かけます。

 私はAIに対し、肯定的・否定的のどちらの意見をお持ちになってもよいと思っています。

 意見は人それぞれですからね。


 しかし、そこは感情的な部分だけが先行してしまうのは、あまりよろしくありません。

 そこで今回は、現時点での法的な解釈について解説したいと思います。

 法解釈については、文化庁が著作権に関する資料を公開しておりますので、こちらを参考としています。

 私は弁護士ではありませんので、詳細な内容についてはお答えできないことをご承知おきください。


 重要なことなので最初に言っておきますが、危険なのは技術ではありません。

 使う側の悪意であったり、無知による不安の拡散であると私は思います。


 昔、Winny という、ファイル交換ソフトの開発者が逮捕されるという事件がありました。

 この裁判で争点となったのは、『道具に罪はあるか』ということでした。

 例えば包丁は人を殺せますが、通常では料理に使用するものです。

 この包丁で人を殺した場合、包丁を作った人を罪に問えるかというものでした。


 生成AIについても同様です。

 生成AIは問題も多く起きていますが、それは使う側の悪意によるものであり、技術そのものの問題ではないということを念頭に置いてください。



 1.『AIは他人の著作物を勝手に使っているから問題がある?』


 一番良く見かける意見です。

 まず、生成AIの著作権を入力と出力に分けて考えます。


 入力に該当するのは、いわゆる学習になります。

 学習をして、パラメータを調整し、学習済みモデルを生成するという流れが一般的です。

 このとき、学習用データに著作物を含む場合があります。

 ここで関係してくるのが、著作権法第30条の4になります。


 ――


 著作権法第30条の4

 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。


 ――


 要約すると、学習目的であれば著作物を許可なく使用できるということになります。

 この法律ができた背景には、AIが学習するデータ量は膨大なのでいちいち許可を取ることが難しいということ、それによって発展の妨げになることを防ぐためだったようです。

 もちろん例外もあって、例えば特定の作品に特化した『過学習』をさせる目的であれば許諾を得る必要があります。

 ドラゴンボールのみを学習させたら、ドラゴンボールっぽい画像が生成されますよね、そういうのはダメということです。


 実はAIの学習方法は人間とよく似ています。

 人間だって、最初から上手に絵をかける人はほとんどいません。

 様々な絵を見て、真似して描いてみてを繰り返し、その結果自分らしい絵が描けるようになります。

 例えば漫画家でアシスタントとして入った先生の画風に影響を受けている人がいますが、それはパクリと言えるでしょうか。

 AIの学習も同様に、様々なデータから共通点を学習し、最適解を生み出せるようになるのです。


 出力に該当するのは、AIによる生成になります。

 著作権侵害となるかは、人がAIを利用せず絵を描いた場合と同様の判断となります。

 つまり、『類似性』と『依拠性』を両方とも満たすことが条件となるのです。


 『類似性』とは、よく似ていることです。

 ただ、難しいのは『作風・画風・アイディア』は類似性には当たらないということです。

 小説だと『異世界転生』というジャンルがありますが、『異世界転生』はアイディアなので問題はありません。

 問題となるのは、登場人物の名前・性別などの属性に至るまで酷似している場合です。


 『依拠性』とは、意図して既存の著作物に類似させることです。

 例えば、画像生成をする際に『ドラゴンボール風』と指示した場合、『ドラゴンボール』の著作権を侵害する意図があるとなります。


 だいぶ前になりますが、槇原敬之さんの歌詞が自分の作品のセリフに似ていると、漫画家の松本零士さんが訴えた事件がありました。

 結果は槇原敬之さんが勝ちましたが、この争点は『依拠性』の証明ができなかったためです。

 槇原敬之さんが『銀河鉄道999』を読んでいないと主張し、松本零士さんは読んでいる証拠を提示できなかったのです。

 似ているかどうかは人によって判断が異なりますので、『依拠性』は重要です。


 <結論>

 AI自体には違法性はない。著作権侵害となるかは、利用者次第。



 2.『私の作品とそっくりの絵をAIで作って売っている人がいる』


 1で説明したとおり、『依拠性』が認められれば著作権侵害を主張できます。

 画像生成AIでは、2つの生成方式がありますので、それぞれ説明します。


 ・t2i (Text to Image:テキストから画像を生成)

 プロンプトと呼ばれる、生成を指示する文言を与えることによる生成方法です。

 既に説明した通り、『ドラゴンボール風』と指示した場合、『依拠性』が認められます。

 そうでなく、たまたま似た画像が生成された場合は『依拠性』は認められません。

 ただし、意図的に『過学習』を行っていることを認識して生成を行った場合は『依拠性』が認められます。


 ・i2i(Image to Image:画像から画像を生成)

 画像から別の画像を生成する方法です。

 例えば、ドラゴンボールの画像を指定し、加工するような生成を行った場合は『依拠性』が認められます。


 そっくりの絵が度々問題となりますが、ほとんどがi2iによるものと思われます。

 ではi2iが悪なのかと言えば、そうではありません。

 本来は、自分の画像を清書したり、背景を追加するといった、作業の補助を目的としているためです。


 <結論>

 AI自体には違法性はない。著作権侵害となるかは、利用者次第。

 他人の著作物を元画像として使用しないようにしましょう。



 3.『AIを使って絵や文章を作成すると著作権がもらえない?』


 著作物・著作者は以下のように定義されています。


 ・AIが自律的に生成したものは、『思想又は感情を創作的に表現したもの』ではなく、著作物には該当しない。


 ・人が思想感情を創作的に表現するための『道具』としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となる。


 t2iで画像を生成する際に、一切の文言を指定せずに生成した画像であれば、思想や感情が含まれていない(AIには感情がないとみなされる)ため、著作物にはならないが、なんらかの文言を入れていれば著作物となると解釈されます。

 よって、多くの場合で著作権が認められ、著作者となります。

 不用意に著作権侵害をすると刑事罰の対象となる可能性があるため、注意しましょう。


 <結論>

 生成内容の指示をした場合は著作権がもらえる。


 ――


 最後に少し補足をします。


 実は二次創作や、SNSや動画配信サイトで漫画やアニメのキャラクターを描くといった行為の多くは著作権法違反となります。

 違反とならないのは、もちろん許可を取っている場合ですが、いちいち許可を取っているケースは多くなさそうです。

 とはいえ、実際に告訴されるケースはほとんどありません。

 これは、こういった行為が著作権者の不利益になっていない、あるいはむしろ宣伝に繋がる等の理由によります。

 AIによる著作権侵害も同様に、著作権者の不利益とならないことに気をつけましょう。



 いかがだったでしょうか。

 AIに否定的な意見をお持ちの方は、是非一度AIを使ってみてください。

 使い方さえ間違えなければ便利なものですし、少子化が進む日本にとって避けられない技術でもあります。

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