今夜はごちそう
浬由有 杳
お題「トリあえず」
新婚だってのに、もう復帰か。
マットで靴の土を落とし、手袋を外して開錠する。
ヘルメットを脱いだとたん、食欲をそそる香りが鼻孔に溢れた。
「おかえりなさい」
愛しい妻がホッとした表情で出迎えてくれた。
なんとか笑みを浮かべ、そっと華奢な体を抱きしめる。
「ただいま。これ、お
遅ればせながらの同僚からの結婚祝いだ。
手書きのラベルに、妻が怪訝そうな顔をした。
「米酢って?」
「本物の米のお酢。奥さんが
「いいの?こんな貴重なものを」
「いいんじゃないか。品種改良が成功したってニュース、見ただろ?そのくず米で作った試作品らしい。味の感想を聞かせてくれって」
何気ない口調で付け加える。
「明後日、防衛戦に復帰するよ」
彼女は目を瞬かせて俯いた。が、すぐに、健気にほほ笑んでくれた。
「じゃあ、これを使ってもう一品増やすわね」
「いい匂いだな。夕飯は肉料理かな?」
「今夜はとっておきのごちそうよ。鳥以外の肉がネットスーパーに出てたから奮発しちゃった」
「鳥以外の肉って、まさか!」
驚きのあまり声が大きくなってしまった。
「この前の遠征で生きのいいのが入ったそうよ」
大戦後、
生き残ったのは、強い免疫力を誇る
戦後生まれの俺たちにとって肉とは
ほんの数年前までは。
今では合法的に買えるとはいえ、鳥以外の天然肉は庶民には贅沢品だ。
「とりあえず、お酢を使った肉料理を検索してみるわ」
タブレットのアプリを開き、彼女は『
「あった。『
夕食は素晴らしかった。
メインの料理は、
今夜はごちそう 浬由有 杳 @HarukaRiyu
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