第12話 そして──




 私は一人、廃屋にいた。


 遠くで、パトカーの音がした気がするけど、もしかしたら私の気分がそうさせているだけなのかもしれない。


 ソファの上で丸まって座った。そうして、どれくらい経ったのだろうか。


 ふと、前を見上げればこの前、ここであった人が目の前にいた。


「今日は土曜日なのに、こんなところにいるんだね」


 どこか、面白そうな顔をして、彼はそう言ってきた。


「私を、連れてってくれませんか?」


 ふと、そんな言葉が口に出た。何を言っているのか、自分でもよくわからない。


 けど、そう、願ったのだ。願いたいとどこかで心が叫んでいたのだ。


「ん〜、家出ってやつ? それとも、今、街が騒がしい理由は意味だったりするのかな?」


 ニコリ、そんな擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべて、彼は私に言ってきた。


「どうだっていいでしょ?」


 本当にどうだってよかった。彼が私を家出した子と勘違いしても、彼が私を通報しようと……、どうだってよかった。


「そうだね。確かに、俺にとっては君がどういう人物であろうとどうだっていい、けれど、普通は気になるだろ?」


 そう言って、彼は私の隣に座った。


「本当に、お前が町を騒がしてるなら、自首したらどうだ?」


「……なにがあったのか知ってるの?」


「いんや。人が死んだ、ってぐらいだ」


「なら、非力な私ができるわけないでしょ」


 そう吐き捨てる。


「そうかもしれないし。そうじゃないかもしれない」


 軽薄な笑みで、彼はそう言ってきた、彼自身、どう思ってるのかは推量れない。


 私は、どうするのか、どうしたらいいのか。


「まぁ、お前が人殺しでも、お前には勝てる。安心できるな」


「……そうですね」


「さてと、俺はそろそろ戻らなきゃいけないんでな。じゃあな」


 そう言って、彼は去っていく。結局、名前もわからなかった。彼の後ろ姿を見ながら、そう思った。

 

「連れてってくれなかったな」


 そう口にすると、余計に、寂しくなった。


 時が過ぎていく。



 空が暗くなって



 気温が下がっていく



 割れた掃き出し窓から入ってくる



 風が頬を撫でて、髪を揺らす



 空には、一番星が輝いた



 無音の世界



 忘れた頃に、車の音が鳴る




 私は立ち上がった



 すべきことはわかった



 そして、私は────








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