第10話 幸災楽禍
最初はガサガサとした音が流れる。画面は女子トイレの中を撮影している。
『早く入ってよ』
これは、沙良の取り巻きの声。イジメに積極的ではないが、沙良を怖がって、付き合ってた子。
『は、はい』
私の声が、それに頷く。それと同時に画面が動き、トイレの中へと入っていく。
入ったああと、振り向いた先に映るのは沙良とその取り巻きたち。ばっちり写っている。
画面の中の沙良が、口を開いた。
『それじゃあ、楽しもうか?』
いつもの、笑顔で、こう喋っていたのだな、と思い出す。
文を見れば、彼は驚いた表情をしている。
これが沙良が本当にいて、驚いているみたいだ。
『それじゃあ、さぁ。今日はトイレの水、飲もっか』
『は、はい』
あぁ、これはつい先日のやつだった。私は、勉強机の上に置かれたコップを手に取る。
彼は、動画に釘付けで、私に注意は向いていないようだ。
私はそうっと、家から持ってきた睡眠剤のカプセルを割って、彼のお茶に、それを入れる。
『お〜、こんな感じか?』
これは、スマホを個室の中に立てかけていたはずだ。
『ほら、入れよ』
取り巻きの、一番背の高い子が高圧的な声を出す。
『キィー』
と、トイレの扉が開く音。そして、そこには、便座の横が写っているはずだ。
『速く飲めよ』
『あなたにピッタリ』
『そうそう』
この時、沙良は、どうしていたか。
彼女らの言葉から一拍置いて
『あなたって、グズでマヌケよね。それに、ノロマ。いいから、早くやってよ』
数秒後、『ピチャリ』と水の音がする。
『ズゾゾ』
水を啜る音がする。私が、水を啜る音だ。
「これは、何をしているんですか」
私は、そう問う彼を向く。
「まぁまぁ、そう焦んないで。お茶でも飲んだら?」
私は、そう言ってお茶の残りを飲み干す。
彼は、気分を落ち着けるためか、お茶を一気飲みした。数分すると、落ち着いたようなので、私は口を開く
「あの動画がなにか、だったかしら? けど、さっき言ったでしょ? 沙良がイジメをした光景。トイレの水を飲むって、いいセンスしてると思わない?」
私は、面白おかしく、そう笑う。
彼の表情はとても悲惨な状態だ。全てに裏切られたとでも言いたげだ。
「ふふふ、もう少し、面白いお話をしようか?」
「……なんですか?」
聞きたくない。けど、聞かなければいけない。そんな悲壮感すら漂わせながら、彼は聞いてくる。
「実はね。私、沙良と友達じゃないんだよ?」
彼は、呆けた表情をしている。どうやら、まだわかっていなかったみたいだ。
「私がその動画を、なんで持ってると思う?」
ふふふ、と笑いながら、私はベットの上に腰を下ろした。
ベットから男の子の匂いがする。けれど、父親とは違った匂いだ。
「ねぇ、ところで、眠くない?」
私は、彼にそう尋ねてみる。彼が睡眠薬入りのお茶を飲んでから15分はもう過ぎてる。人によるが、そろそろ効き目が出てくる。
「なにを言って……」
私は立ち上がって、彼に歩み寄る。
「私って、いつもよく眠れなくて、睡眠薬を毎夜飲んでいるんですよ」
私は、今、高揚している。
「親にも、迷惑かけていると思うんですけど、こればかりはしょうがないですよね……」
「だから、なんの、はなし」
彼はどうやら、眠たいようだ。その証拠に、ここまで話したのに、理解してくれない。
「つまりですね。私は、あなたに睡眠薬を飲ませたんですよ」
そう言って、彼の背後に回る。
ふらふらになった彼は容易く、押し倒せた。
もちろん、床だと痛そうなので、ベットの上に、だ。
「あら、寝ちゃった?」
私は、彼をベットの上にうまく横たえて、その上にまたがる。そして、うまい場所にスマホを置いて、録画をスタートさせる。
準備が終わり、私は今またがった彼を見つめる。彼は必死で、眠気を堪えようとしているが、半開きの目で、こちらを見ることしかできない。
そして、私は彼の唇をなぞった。
かわいそうな彼、私に初めてを穢される。
けれど、恨むならあなたの大好きな彼女を恨みなさい。
そう思いながら、私は彼と唇を重ねた。
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