第2話 鶏合え酢

 遠路はるばる店の前までやってきた俺達だったが。

鶏和トリあ』本日営業終了しました

の張り紙を見て、またも落ち込んでしまった。

 鶏合トリあとは、店の名前であり、かつその店の看板料理のメニュー名でもあった。

 井手いでちゃんの『えず鶏合トリあ食べて元気出そう』作戦はあっさりと失敗に終わった★

 『取り敢えず』とは、『さしあたって』とか『まず初めに』的な意味なのだが、それが出来ないとは不運というかなんというか。

 ずぅ〜ん★ 落ち込むはな紗菜さな井手いでの3人──俺はこの3人を『はなさないでトリオ』とひそかに呼んでいるのだが──は、お酢で美肌効果を信奉しんぽうしているのだ。俺は酸っぱいの苦手なんだけれどな。

 おっと、自己紹介が遅れてしまったな。俺は佐藤孝雄さとう たかお。勇者だ。はなさないでトリオを引き連れ、魔王討伐の旅をしている。


「閉まってしまったものは仕方がない。取り敢えず、何か食べられそうな店を探して移動しよう!」

 取り敢えずに失敗して、改めて取り敢えずを使用するのはかなり珍しい気がするな。

「え〜っ! もう疲れたーっ! 歩けな〜い!」

 魔法使いの紗菜さなちゃんが言う。彼女ははなさないでトリオの中で最も体力及び胸がない。言わば、『貧乳ひんにゅう』『微乳びにゅう』『あわちち』とかそういったくくりだ。

「洞窟探索して、モンスターとか龍と戦って、その足でここまで来たんだもんね? 私ももうへとへとですぅ〜」

 僧侶の井手ちゃんも続く。井手ちゃんは体力も胸もそこそこある。CカップかDカップくらいかな?

 トリオの中では一番俺好みの胸である。

「2人ともだらしがないな。とはいえ、そろそろ休息を入れないと、戦闘になったときに十分なパフォーマンスが発揮出来ない恐れが生じるな」

 戦士のはなちゃんまで、そんなこと言い出した。華ちゃんは一番体力及び胸がある。よくそのビキニよろいで隠せているな、といったサイズ感である。見ごたえはあるが、俺はそこまで巨乳好きではないのだ。

「干しスライムでも食べるか?」

「はぁ? 干しスライムなんか食べる訳ないでしょ! 冒険中、仕方なく食べるための非常食なんだから!」

 怒る紗菜ちゃん。せっかく街中にいるのに、干しスライムなんかそんな不味いもの食えるか! といった剣幕けんまくだ。

「あー、頭の中、鶏肉モードだったのに〜! 

□ーソンの唐揚げちゃんで良いから買ってきて!」

 いや無理だ! ガレフアルドこの世界にコンビニなど、おそらく存在しない。もし元の世界に戻れるのなら、もうこっちに戻って来るかよ!

「何を言っている、紗菜!」

 そうだ、華ちゃん! もっと言ってやれ!

「そこはフミマのフミチキだろう!」

 違うーっ! 問題はそこじゃなーい!

「華ちゃんまで何を言ってるの!」

 行けっ、井手ちゃん! 2人にガツンと言ってやれ!

「ななこイレブンのしちチキ一択です!」

 お前もかーっ!

 あ~、腹減ったな〜★ 俺はコンビニメンチカツ食べたい。


 続く

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