ザ・野口フェロモンゾーン

黒夜

第1話 変人でも誰かの幸せのために。


俺──野口雄二は世の中変わった人間が多いと思う。なぜなら俺の通う高校には『変人トップスリー』なんて呼ばれて人間が存在するからだ。変人第二位の好寺好未は不登校を続けてるのにテスト期間は何故か出席して学年一の成績を残した後、また引きこもりに戻るという謎の行動をしている。


それで美人でスタイルも良く、テスト期間にしか登校しないのに学校一の美少女なんて呼ばれている。俺は何度も悔しがるがり勉と嫉妬する女子の顔を拝んだか……。もう譲ってやれと言いたくなる。


次に変人第三位。だらら~ん、だっだんっ、オタクで中二病で学校一のモテ男──陣手戸だ。彼も変わり者で自分がオタクであり中二病であることを隠しもしない。それでいて成績も優秀でかなりの美形のイケメン。学校の女教師も彼にはデレデレするほど人気者。同時に男子からはかなり嫌われている。


女性からあすればバカな一面が可愛いと思う人もいるみたいだが、男子からすればバカはバカだと言う者もいるだろう。ちなみに俺はこいつのことはどうでもいいと思っている。モテるなり僻まれるなり勝手にしろ。


そして最後に変人一位だが……。言わないとダメ?


ダメだとな~。ここまで言ったからには言わないとダメだよな~。嫌だな~。言いたくないな~。


はあ……断じて認めたくないが変人第一位の座に選ばれているのは……あーははは!はあ……俺だ。なぜ俺が変人と呼ばれてこの二人を置いて第一位の座に座っているかと言うと、人からフェロモンゾーンなんて呼ばれる特殊能力を持っているせいだ。いや、好きでその席に座っているわけでもないし、この能力も不可抗力だからな?


ちなみにこのフェロモンゾーンがどういう能力かというと俺を中心とした半径一メートル以内に接近した異性は俺のことが大好きになるというものだ。その好意の変化がの仕方が異常で異常でっ……簡単に説明、いや実践して見せよう。


俺は教室の中を見渡して友人の長木美羽に一メートルにギリギリ入らない位置から声をかける。


「長木ちょっといいか?」


「うん?誰、って!野口君!?いや!近づかないで!」


「だが断る」


これは逃げることが遅れた長木に一歩迫った。俺が近づき長木が近くに迫った瞬間からフェロモンゾーンに入る。入った瞬間から長木の表情が変化する。青ざめた顔は赤くなり、嫌悪の目はハートマークに、引きつった口元は涎を垂らしにやつき、甘たるい声を出す。


「野口く~ん♡大好き♡!」


そう言って抱き着こうとしてきた長木を避けて背中を押す。勢いよくフェロモンゾーンから離脱した長木は教室の後ろの棚に頭から突っ込んだ。ガラガラガッシャン!


「さて見てくれただろうか?今のが俺のフェロモンゾーンの効果だ」


「誰に言ってんのよ!」


「ああ、無事だったか」


長木がのろのろと立ち上がり大声をあげた。どうやら特に怪我はないらしい。良かった。


「自分から近づいておいてこの対応、よくもやって好き♡!」


一歩近づきまた離れる。


「まあやったわね!いい加減に好き♡!」


また近づき離れる。これを繰り返すと……。


「いや好き♡!この好き♡!ああ好き♡!うるさ好き♡!」


それそろやめようかなあ。


「いい加減にしろお好きいいいいいぃぃ~♡!」


一分後──。


「はあ、はあ、はあ、はあ、あ、野口君、教室でわたしに何叫ばせてんの……」


「まあいいじゃん」


「よくない!」


このあと離れたところから長木にお説教された。


◇ ◇ ◇


三年の先輩である好寺先輩の家で俺たちはテレビゲームをしている。俺達とは俺、好寺先輩、一年の陣後輩を含めた三人のことだ。俺たちは変人トップスリーなんて呼ばれてるせいか自然と友人の仲になっていた。ちなみに陣も好寺先輩も俺のフェロモンゾーンに入った状態で床に座っている。


「なんだかムズムズするわ」


「じゃあ好寺先輩だけ離れてくださいよ」


男の陣には効果がないのはわかるが好寺先輩にも長木ほどの効果は現れない。しかしさっきから妙なことを呟くからゲームに集中できない。


「さっきからわたし、このゲームに登場する土管が野口君のナニに見えてきてるんだけど」


「先輩病気です。すぐに病院に行ってください」


「……フム、まったく闇夜の影狼のように羨ましい先輩ですね。野口先輩」


「ごめん陣。闇夜の影狼のなにがいいのかさっぱりわからん」


こいつの言葉選びはちょっとよくわからん。まあ中二だしな。


「そういえば今日、長木にお説教されて腹立ったな」


「どうせ野口君が余計なことをしたんでしょう」


「野口先輩は色欲マッシーンですからね」


「ごめん陣、意味わからん」


ピコピコとコントローラーを操作しながら途中机に置いてる飲み物で喉を潤す。そして隙を見てお菓子を食べながら汚れた手を陣の服で拭く。


「野口先輩、僕はあなたのハンカチじゃありません」


「めんご、めんご」


「謝るならお菓子を食べる手を止めて、って!濡れた手で触らないでください好寺先輩!」


「ごめんなさい、雑巾かと思って」


「この先輩たち、マジクレイジースクールマン&ガールだぜ……」


「「意味わかんない」」


ゲームに飽きたので俺はいち抜けることにした。コントローラーを床に置き立ち上がり、背伸びをする。すると同じくコントローラーを床に置いた好寺先輩が俺を見ていた。


「あんまり長木さんをいじめないようにね」


なにかを悟らせるためなのか、好寺先輩はそんなことを真面目に呟いた。


◇ ◇ ◇


ある日の放課後、俺は長木に屋上に呼び出された。


「どうしたんだ?長木」


「あのね、野口君に伝えたいことがあって」


「伝えたいこと?」


俺が一歩近づこうとすると長木は手で俺を制した。どうやら近づくなと言うことらしい。大人しく近づかないでいることにする。


「あ、あのね?えっとね……」


なのか頬を染めてモゾモゾソワソワしながら長木は何かを言おうとする。俺は背後の屋上の入り口に誰かが隠れる気配を感じながら、それを待った。


「わたし、野口君のことが、好きになったみたいっ!」


目をつぶりながら言われたその言葉に衝撃を受けた。なにせ生まれてこの方、俺のフェロモンゾーンに入った人間以外からは好意を向けられたことがないからだ。俺は初めての体験に動揺し、そして長木を信用していいか迷った。俺は学校でも並ぶものがいない変人で、悲しいことに人から変態なんて呼ばれることもある。


そんな俺に恋する女の子がいるだろうか?しかし、長木を見る限り、この告白は真剣なものに感じられる。俺も真剣に考えなければ……。


「長木、俺は……」


「許すまじ!野口性欲魔神いいいいぃん!」


後方から野次馬の──もとい陣の声が響き。バックから俺に突進してきた。


「野口先輩は俺を置いてリア充にジョブチェンジするつもりですか!先輩は一生俺と同じ陸奥の仲間じゃなかったんですかあああー!」


「違うけど……」


「そんなあ~」


一世一代の告白を台無しにされた長木はポカーンと口を開けて固まっていた。すると長木に近づいた好寺先輩がいやらしい下卑た顔を浮かべていた。


「長木ちゃん、この変態がいいの?変人でいいの?あらもう可愛いわね!」


そう言って抱き着いた。俺より楽しそうにいじめてるこの人。抱き着かれた長木は顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。


「もういや……変人なんてえええー!」


屋上にそんな悲鳴が響いた。


◇ ◇ ◇


──数年後。


俺と美羽は晴れてめでたく結婚した。今は最近買ったばかりの新居で二人暮らしをしている。リビングでアルバムを見ながらソフェで懐かしそうな顔を浮かべている美羽に俺は話しかける。


「何見てるんだ?」


「うーん、わたしと好寺先輩と雄二君と陣君の写真」


「ああ、変人の……」


懐かしい。二人も元気でやってるかなあ。


「まあ、今となっては笑い話だし、面白かったなと思うよ」


「そうか」


「変人も悪くない、ふふふ♪」


そう言って美羽は嬉しそうに笑った。

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ザ・野口フェロモンゾーン 黒夜 @fujiriu

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