草間統志郎の火遊び
おめがじょん
草間統志郎の火遊び
「なぁなぁ、八代クン。"とりあえず生で"って言葉な。めっちゃいやらしいと思わへん?」
営業停止した廃工場の屋上でケラケラ笑いながら男がそう言った。
年は二十代前半。おかっぱ頭に七分丈の和服と洋服の中間のような服装の男だ。
笑っていられるような状況ではない。伊庭八代だけでなく、複数の男に囲まれている。どいつもこいつも手練れの魔術師だ。そして、裏社会の人間でもある。
「……確かに、ちょっとえっちかもしれないね」
「──やろ!? 春休みに梢子ちゃんと飲み行った時な。あっ、これちょっとえっちだって気づいたんよ」
そんな状況ではあったが、言われてみれば、という思いも生まれて来たので八代も会話にノってしまった。脳内で菊姫梢子が飲み屋に行った時によく言う言葉なので脳内再生は容易かった。シチュエーションをラブホに置き換えて「とりあえず生でいいよね?」なんて言われたら「うぉ!?」ぐらいの気持ちになってしまう。童貞ではあるが。
「──っ!」
しびれを切らした他の魔術師達が男目掛けて一斉に襲いかかった。
八代は「やめておけばいいのに」と思ったが特に制止はしない。他の勢力の人間だからだ。銀泉会の親団体の坊ちゃんの女に手を出した輩を締め上げるだけの仕事だった。郵便局のポストまでお使いに行くぐらいの気持ちで来た八代だが、行った先にはかなり都合の悪い相手が標的として狙われていて、尚且つケラケラ笑いながら話しかけて来たというわけだ。
「生でってトコよりも、とりあえずって単語の方がエロいとボクは思うんよ」
「わかる。取り急ぎ早くヤりたいよねって急かしてくるようなニュアンスが感じられるのが良い」
高速で背後に回った魔術師の方すら見ずに男の肘鉄が炸裂して工場の屋上に叩きつけられた。身体強化魔術が何時の間にか男の体に光り輝いている。
視認できないぐらいの速度で展開されていた。肉弾戦では分が悪そうだと手練れの魔術師達はすぐに判断をして、遠距離からの魔術攻撃へと切り替えた。
「せやろせやろ? やっぱ八代クンにこの話して良かったわ。清春クンとか即物的過ぎてこういう話題全然ノってこんし、清麻呂クンになんか話したら興奮し過ぎて鼻血止まらなさそうやもんな」
そして魔術師達は気づいた。己が展開しようとしている魔術印がもう既に男の周辺に展開を完了しているという事に。ありえない速さだ。魔術師の常識を超えている。
しかも教科書通りの魔術ではない。自分達が研鑽を重ねて改良したオリジナルの魔術印が展開している事に驚きを隠せなかった。
「とーしろー君も早く学校来なよ。清春も復学したし──それにこのままだと姫先輩が留年しちゃうよ」
魔術師達の魔術印が完全に展開しきるよりも早く男──東京魔術大学血継魔術科3年。草間統志郎の魔術印が完成した。研鑽を重ねた自身の魔術を自分がくらうという現実を理解できずに魔術師達は攻撃をくらって沈黙した。残りの追手は八代だけだが、相手はほぼ同格か格上なのはわかっている。もはや仕事をする気はなかった。
「梢子ちゃん後輩ってちょっと可愛いな。真央チャンみたいなTHE・後輩な感じもええけど、生意気な年下も悪くないしもうちょっと休学しよかな。期末試験までには戻るって先生に伝えといてや」
「はいはい。伝えておくね」
「──んじゃ、またおもろい話あったら連絡するな」
ゆらり、と統志郎の姿を揺れると忽然とその姿が消えた。
古今東西ありとあらゆる魔術を網羅している男なので何が起きても不思議ではない。血継魔術【複製魔術】の使い手。草間統志郎。八代も正面きって戦うのは避けているぐらいトリッキーな魔術師は、今日もどこかで火種を起こしながら、自身の欲望の赴くまま魔術の探求を行っていた。
草間統志郎の火遊び おめがじょん @jyonnorz
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