量産ヒーローにも意地がある!

モノアイの駄戦士

プロローグ


第二の人生として与えられた世界は現代ファンタジーだった。

それも子供やかつてそのヒーローに憧れた大人達が羨望の眼差しをかけるだろう【ヒーロー】という存在が、世界の治安を守る現実のものとして存在する世界に。




俺、フジン・ガイはその世界に転生という奴をしてみたいで最初は面白そうだの、大人になったときが楽しみだの暢気に考えていた。

だがまず赤ん坊からのやり直しで、俺のメンタルは破壊された。

「ばぶばぶ」か「あうー」しか言えないし体が不快や痛みを感じれば勝手に泣き出し、そして娯楽は赤子の玩具か知育番組。

これが少なくとも3年か4年も続くんだから次第に俺は、自分を赤子だと考えて心を無にしていた。

それを乗り越えてようやく喋ることや歩く事ができるようになって。

そこでようやく転生した世界がただの日本っぽい異世界ではないことを知った。

【異界獣】安直な名前だがその通りの存在は、異界とこの世界を繋いでしまう【罅隙カゲキ】から現れる化け物達で、この世界の一般的な攻撃方法ではあまりダメージを与えられない。

殺し合いに特化した理性を持たない獣達は、ひたすら破壊行為と人間、亜人関係なく虐殺していく。

亜人については後で説明するとして、異界獣に対抗するには特殊なパワードスーツや超能力を持った者達、今では【ヒーロー】と呼ばれる存在達が人類側の最後の切り札だった。

数多のヒーロー達の献身と犠牲の果てに、対異界獣防衛組織【メナス】を結成。

組織化によってヒーロー達の負担軽減や新たなヒーローの人材発掘に一躍することになった。

そして幼児退行しかけてた俺には、そんな事は関係なく彼らのファンになりいつかは彼らのように皆を守るヒーローになるんだと憧れた。

その想いは成長して高校生を卒業した今の俺になっても変わらない。

むしろその想いは強くなった気がする。

メナスに入るためにひたすら出来ること、身体を鍛えてその結果、入隊を勝ち取った。

だけど現実は非常なものだ。


「君、マドが変身に必要な最低値ギリギリじゃないか」


「はい?」


【マド】

この異世界に存在する所謂いわゆる魔力とかMPマジックポイントみたいなもので、ほとんどの生命体が持っている魔法の力だ。

ちなみにマドがないと人権なし、みたいな事はない。

むしろ、マドがない人が比較的多くマドを持っていてもその量は大小様々。

俺もその事については知っていたが、マドの量がヒーローになるための必要条件に入るとは微塵も思っていなかった。

というかソレ、メナス側のガバだろ。

だがしかし、ギリギリとはいえ新人に与えられる量産型の変身アイテム【ビギナルベルト】でなれる黒と灰色の如何にも量産型ですよ、といったシンプルながらカッコいい【ゲイザー】になれるのだから良しとしよう。

じゃあその後は汗水流して武術の学習や戦闘訓練による熱い友情物語が……と思いきや、そんなものは一切なかった。

メナスには様々な人種がいる。

先述した【亜人】は、ケモミミと尻尾を生やしたそういう人達に人気な【獣人】や昆虫を擬人化させたような【蟲人ちゅうじん】、水中に適応した【魚人マーメイド】等、多種多様だ。

種族特性もあるとはいえ、メナスはこの星を守る防衛組織。

まだ発足して十年の組織は未だ人手不足であり、民間人を立派な戦闘員にする暇などないのだ。

一応、そういった事を学ばせてくれる有料のアカデミーはあったが高額なので諦めた。


なまじ、ゲイザーの性能が良いだけに素人でもスピア雑魚級やそれより少し強いソード級相手には壁くらいにはなるのだから、そういった面でも放置されたのだろう。

だから今、メナス隊員専用の連絡アプリで集合をかけられて混雑した中、俺は興奮した味方にぶん殴られている。


「おい!俺は味方だッ!」


「うわあぁぁぁぁ!!」


どこのバーサーカーだよ。

そんな俺の愚痴はゲイザーの強烈なパンチで喉の奥に引っ込む。


「んにゃろ!」


このままだと埒が明かないので殴り返して正気に戻す。


「うあっ…!?」


「冷静なれこの馬鹿野郎ッ」


蹴っ飛ばしてソイツをどかすと、次には眼の前にスピア級【怪人】が剣を振りかざしていた。


「うおわ!?」


ギリギリで回避するがその怪人の後ろから殴りかかるゲイザー。

ゲイザーは黒と灰色で構成されたカラーリングで、怪人みたいな奴がいると結構まぎわらしいのであるのだが、スーツのAIが敵味方の判別をしている筈なんだけどな。

結局のところは統制の取れ碌に訓練されていない一般人。

AIがサポートしてくれるとはいえ、どうして最低限の訓練もせず放置するのか。

よく分からないが少なくとも、これじゃ本当に肉壁にしかならない。

メナスには個々人に与えられる階級みたいなものがある。

下っ端は【ウォール】、その次は【カウント】とあるが、最上位までに色々あるので割愛させてもらおう。

ともかく、下っ端である俺はウォール。

憧れのスーパーヒーローになるにはまだまだ遠い夢物語である。


「ぐるぁ…」


「フンッ!」


戦場になったショッピングモールで混戦。

黒と黒が入れ混じる戦いは非常に見づらいし、集合体恐怖症の人間にはかなり辛いだろう。


「ぐわぁっ!?」


「あぁ!?」


そして一方が押され始めた。

ソード級は怪人のような雑魚とは違い、人の形を持ってはいるものの異形の姿である事が多い。

ソード級はジャマダルという、インドで使われていた短剣を2つ持って有象無象のゲイザー達を斬り捨てていく。

モチーフは象なのだろうか、長い鼻と灰色の身体がよく目立つ。


「ギャアァー!?」


「ぐる…」


ソード級に斬り捨てられたゲイザー達は装甲の限界によって強制的に変身を解除される。

そして、量産ヒーローから無力な一般人に転落した者達は怪人達に殺されていく。

抵抗しても無駄だ。

怪人はヒーロースーツパワードスーツを纏った状態でなら雑魚だがそれさえなければ、凶悪な殺人鬼である。

老若男女関係なく、生きている存在を殺すのが異界獣なのだ。


「クソッ、これで何回目だッ」


入隊してから何度も招集されては戦ってきたが、その度にゲイザーの性能に任せた戦い方によって命を落とす隊員は多い。

こころざしだけでは駄目なのだ。

とはいえ、俺も似たようなものだ。

ゲイザーのフルスペックを活かせてない奴が何を言っても無駄だろう。

怪人を殴り飛ばしてこの場から離れるか……そう考えた時。

スーツに内蔵された通信機から聞き慣れた少女の声が響く。


「【ピストル】、ただいま参上!とっとと道を開けなさい!」


ショッピングモールの出口から現れた青い装甲を纏った女性的なシルエットを持ったヒーロー。

その手に持つ散弾銃ショットガンを構えて怪人達に撃つ。


「ぐるぁ…!?」


「ぐ……」


エネルギー弾が怪人達の身体を穿ち、穴を作る。

それを確認するや否や、腰のガンホルダーに引っ提げていたもう一つの散弾銃を持って怪人に向けて乱射していく。


「ハッハッハァ!!」


ピストルが散弾銃をブッ放すだけで周囲の怪人達は動かぬ塊となり、そして最後に残ったのはソード級らしき象人間。


「ひ、一人なら俺でも!」


「あっ、馬鹿!」


何を勘違いしたのか、一人のゲイザーが飛び出すが象人間、仮称【エレジャマン】は目に終えぬスピードでジャマダルを振り、近寄ったゲイザーは装甲を貫通したのか砕けた装甲と血飛沫をバラ撒きながら吹っ飛んだ。


「ストレッチャー!」


「きゅ、救急車…!」


他のゲイザー達が助けようと騒々しくなるが、ピストルはその間に散弾銃を一つ捨てて、残った散弾銃のハンドグリップをスライドさせる。

それが意味するのは……まあ言わずもがなというやつか。


「【チャージショット】」


エネルギーを収束させ放つシンプルな機能。

一つのレーザーとなってエレジャマンの身体を貫通する。


「終わった……」


倒れ伏すエレジャマン。

それを見たゲイザー達は気が抜けたからか、座り込んだり気絶したりと現実と理想のギャップに精神的に圧殺されていた。


「あら、まだいたの?あんなにスーパーヒーローになるって言って負け犬だった貴方はもう辞めたと思っていたのだけど」


「またウザ絡みかよ、ルカ」


変身を解除した俺に目聡く気付いたピストルもといルカ。

フルネームはラナキア・ルカと言い、小学校くらいからの付き合いだ。


「忠告してるだけよ。ゲイザーに変身するだけでギリギリなのに、それ以上の高望みなんて無謀なんだから」


「ご忠告どうも。それでも俺はヒーローになりたいからやり続けるさ」


一緒にヒーローになろう、そう夢を言い合ったあの頃が懐かしい。












ーーー












俺の家である古いアパートに帰って早々に、俺は銭湯に入る準備をする。

古いアパートなので遮音性やスペースはあまりないが、それを差し置いても目の前に銭湯という魅力は逃し難いものだ。

戦闘後の汗を流すべく、身体を洗い流し銭湯特有のデッカイ湯船に浸かる。

今の時間帯は昼なのもあってほとんど人がいない。

デッカイ風呂を独り占めしているという状況をたっぷり堪能しよう……


「はぁ……」


身体が癒やされる。

だがバシャーン!という音と共に水飛沫を全身に浴びる。

のんびりしていた所に無礼な行為をする奴が出てきたのだ。

俺はブチキレる。


「おい誰だ!?」


爆心地に近付いてその犯人をとっ捕まえようと俺は思っていた。

だが、犯人は小さな少女。

真っ白い肌に漆黒の髪、そして思わず見惚れる金の眼。


「あー…うー…?」


「どういうことだ…?」


耳がとんがっているので、吸血鬼族かエルフなんだろうが……見たこともないアフリカとかいにいそうな民族衣装が更に分からなくさせる。

そして、何かを喋ろうとして赤子みたいな声しか出せない彼女に、俺は戸惑う事しかできなかった。

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