トリにあいたいぞメロス

きつねのなにか

トリあえず

メロスは激怒した。必ず、かの有名なカクヨムのトリと合わねばならぬと決意した。メロスには政治がわからぬ。メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。けれどもトリの動向とかわいさに対しては、人一倍に敏感であった。


メロスは今日未明、川を渡ったところにかの有名なカクヨムのトリがいるとの噂を耳にした。メロスはこれは奇跡、会いに行こうと画策した。

カクヨムのトリは空を飛べない、デブすぎて鳥ではなくトリになっているくらいだ。

川を渡ったところはそんなに広くない。今日は雨も降っていないし簡単に渡れるだろう。

本来のんきなメロス、口笛を吹いて兎を追ったり鴉に糞を投げつけられて投石で仕留め返したりしながら進んだ。そうだ、王にも見せようと思い伝書鳩を飛ばした。王のことだ、セリヌンティウスも一緒につれてやってくるだろう。なら妹夫婦にご飯を用意させた方が良いのではないか? そう思って一度帰り、妹夫婦にご飯を作ってくれるよう頼んだ。妹は快く応じ、「これはピクニックみたいな物ね」なんて声でお弁当を作成してくれた。

さてと準備は出来たいざまいらん。るんるんと進んでいくメロス。その前に川があった。メロスの足は、はたと、とまった。見よ、前方の川を。山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。メロスは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながらゼウスに手を挙げて哀願した。「ああ、鎮しずめたまえ、荒れ狂う流れを! トリに合うことが出来なかったらカクヨムユーザーとして面目がたたんのです」

濁流は、メロスの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。今はメロスも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。ああ、神々も照覧あれ! 濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。メロスは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻かきわけ掻きわけ、獅子奮迅の人の子の姿には、神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。ありがたい。メロスは馬のように大きな胴震いを一つして、思った。


弁当、無くなっちゃった。

そして川のすぐそこにいるというトリもいなかった。トリに、会えなかった。トリ、会えず。トリあえず。あっははっははっはははははは。おんもしれえ。はーあーあー、どうしようっと。一旦家に帰ろーっと。


ことの結末とあまりのくだらないだじゃれを聞いた妹はメロスを処刑した。妹の齢三十六のことであった。

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トリにあいたいぞメロス きつねのなにか @nekononanika

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