とある男のくだらない日
夜海野 零蘭(やみの れいら)
こんな日もいい
最悪だ。
朝から開口一番、ハゲ課長の怒鳴り声を浴びる羽目になってしまった。
「塚田、昨日の書類に空欄があるぞ!!お前は何年この仕事してるんだ??」
そこは課長がそうしろって言ったんじゃねえか。
しかし30そこらの俺が言い返せるはずもなく、渋々と書類を修正して再提出した。
まぁ、それだけならいい。
仕事の休憩中、とある女性社員Aが俺に話しかけてきた。
「塚田くーん、先週の日曜日に○○町にあるフーゾクいってなかったぁ?あの人妻なんとかってお店ー!塚田くんみたいな人が入ってくの見たのよ」
「いや、行ってないっすけど…」
Aはニヤニヤしながら、仲のいい女性社員Bとつるんでゲラゲラと笑っていた。
Bも同じ顔をしながらこう言い放った。
「えー、つかっちゃんじゃないんだー!興味ありそうだと思ったけど」
「そうじゃないって言ってるんですが…」
そう答えると、その場にいた他の社員は俺のことを白い目でクスクスと笑いながら見てきた。
変な誤解をされているようだった。
(とんでもない。俺は風俗なんて入ったことはない。)
と言いたかったが、この場の雰囲気を考えて止めておいた。
まったく、この会社どんな人選してるんだよ。
休憩以降は、サボりがちな後輩Cのフォローをしたり、ハゲ課長のご機嫌取りをしたりして仕事をこなした。
そんなこんなで、このくだらない一日は過ぎていった。
なんだかムシャクシャして、一人でふらっと飲み屋に入った。
入ったことがない店だったが、威勢のいい店員の声を聞いて俺はなんだか気持ちよくなった。
「生ひとつ」
「はいよー!」
おっさんのようだが、生ビールを飲むと1日の嫌なことを忘れられる。
しかし、店員の大学生らしき兄ちゃんがビールを運ぶ途中で転んでしまい、ビールをこぼしてしまった。
俺のズボンはびしょ濡れになった。一瞬、怒ろうとしたのだが…
「お客さん、本当に申し訳ありません!!今拭きますので」
「あ、ああ」
なんとも健気な謝罪をされて、怒る気が失せた。
その兄ちゃんはテキパキとビールを拭き取って、替えのジョッキにビール入れて運び直した。
「すみません。こちらお通し追加サービスしますので、どうぞ」
その日のお通しは、なんとマグロの刺身だった。さっきのお通しはタコワサだったのだが…
でもいい、マグロの刺身は俺の好物だ。
「ありがとう、お兄さんは新人さんかい?」
「は、はい!」
「ズボンのことはいいから、これから頑張れよ」
「ありがとうございます!!」
彼を見て、昔の俺を思い出した。
俺も新入社員時代は結構なドジだったが、良い上司や先輩にさんざん助けてもらったものだ。
グダグダな1日だったが、新人兄ちゃんのお陰でわりかし良い日になった気がする。
その日の生ビールは格別だった。料理はどれもうまかった。
会計のとき、俺は新人兄ちゃんに礼を言った。
「ありがとう。また来るよ」
「こちらこそ、いつでもお待ちしております!」
たまにはこんな日もいいな。
とある男のくだらない日 夜海野 零蘭(やみの れいら) @yamino_reila1104
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