第5話

 そんなわけでウェリナ君とのタイマンバトルを強いられることになった俺。当たり前だが、無策ではこのハイスペモンスターに勝てるわけがない。が、勝たなきゃ破滅ルート確定とくれば、そりゃもう死ぬ気でやっていくしかないでしょう。

 とはいえ、気合だけ空回りさせても仕方がないわけで。

 そう、ここはすでに命のやりとりを強いられる最前線。こういう場面こそ冷静に、クレバーに立ち回らなくちゃならない。今やるべきことは何か。中でも最優先に果たすべきタスクは何か。

 ……いや、んなもん答えは一つでしょ。

 とにかく、この世界における〝バカ王子〟ポジを脱却するのだ。


「えーと、これからは心を入れ替えて、王子として真面目にやっていきたいと思います」

 そう俺が宣言したときの、宮廷の驚きといったらなかった。

 宰相のおっちゃんは腰を抜かし、近衛騎士たちは目玉をひん剥き、メイドの皆さんは「あたしたちの油断を誘う罠かも」と逆に身構え、王子の乳母と称する女性に至っては、血相を変えて医者やらまじない師を呼びつける始末だった。

「この間も大変な目に遭ったばかりですのに!」

 そう嘆く乳母のリリアンによると、つい最近もアルカディア君はひどい食あたりを起こしてぶっ倒れたらしい。ただ、食あたりといえど症状は重く、それこそ何日も生死の境を彷徨う羽目になったのだそう。

 言われてみれば、最初に転生を自覚したとき、やけに身体が重かった記憶がある。あれは、直前の闘病生活でごっそり体力を奪われていたせいだろう。

 何はともあれ、俺の脱バカ王子作戦はこんな感じで始まった。


 だが。

 それは、決して易しい道ではなかった。

 どうやら王族と呼ばれる人種は、俺達庶民がイメージする以上に多くのことを学ぶ必要があるらしい。例えば語学。隣国の王家や要人と接することも多い王族は、そりゃもういろんな言語を嗜んでいなくちゃならない。前世では大学入試用の受験英語だけでお腹一杯だった俺は、最初のハードルで早くも心が折れそうになる。ちなみに、勝手に自国語に訳してくれる(グーグル翻訳的な)魔法はありませんかねとリリアンに訊くと、そんな魔法はございませんと真顔で返された。

 他にも、地理、歴史の座学に器楽演奏やダンスのレッスン、テーブルマナーのトレーニングなど、こなすべきタスクは尽きなかった。が、それでも俺は文句も言わず愚痴も吐かず、死ぬ気でこなしていった。いやさ、ちょっとでもサボったら破滅確定だからね。

 とまぁ、そうした苦労の甲斐もあって、一か月も過ぎる頃には俺の王子っぷりはだいぶ板についてきた。以前はアルカディア君のセクハラに怯えていたメイドさんたちも、近頃は随分と警戒を緩めてくれている。まぁ、陰では相変わらず彼の悪口に花を咲かせているようだが……


 そんなある日、俺は、宮殿で意外な人物と鉢合わせする。

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