転生した世界は美醜逆転!?~私はあなたが好きなんだから!~
アキ猫
第1話 転生令嬢は美的感覚がおかしい
私はアリーゼ。
平民だから姓はない。
お父様とお母様、少し年の離れたお兄様や屋敷のメイド達に可愛がられて今の歳まで生きてきた。
ちなみにお父様は王侯貴族を顧客に持つ店を構えていることもあり、お金持ちではある。
だから、私の住んでいる家はそこそこ大きい。
「アリーゼ、王族の住んでいるお城みたいな屋敷はいち商人が建てたらいけないんだって。金は有り余っているのに、どうしてアリーゼのお願いを聞いてあげられないんだろう」
お父様であるランベルトがションボリと肩を落とすのに目を瞬かせる。
あれは何の時だったか⋯⋯確か初めて王城を見て、あんな広い所に住みたい!なんて馬鹿なことを言ってしまったことがある。
お父様は狭いと言うが、我が家は充分に広い。
幼児の足だと端から端まで歩くと、かなりの距離があって未だに屋敷の全部の部屋を見たことがない。
使っていない客室まで綺麗にしなくてはいけないから、人手が欲しいとメイド達が困っているのを聞いたことがある。
これ以上、メイド達に負担をかけたくないし、今の屋敷がいい!と力説するしかない。
いつも優しいメイド達の為なら恥を忍んでお父様に甘えまくりますとも!
お父様は私の望んだ物を何でも手に入れてこようとする、娘ラブ過ぎる人だと忘れていた自分が情けない。
決して、今の屋敷に不満がある訳ではないというのに、私はどうしてそんなことを言ってしまったんだ!
広大な庭にはたくさんの花が植えられていて、庭師のトビーじいちゃんが丁寧に世話をしてくれている。
あまりにも綺麗だから、その花を切り花にして孤児院の子ども達にお小遣い稼ぎの為に売ってもらっている。
きちんと対価として賃金を渡しているから、孤児院の子ども達も嬉しそうだし、これこそがウィン・ウィンの関係というやつだろう。
家族に内緒にしていたが気づいたらお父様達に慈善事業をするなんて⋯!って感動されて、恥ずかしい思いをしたのは記憶に新しい。
お父様は私のことを「可愛い」と褒めてくれる。
それはもう、顔をデレッデレにして、肉付きのいい手で私を抱き上げて頬擦りをするし、何なら屋敷にいる間は私の定位置はお父様の膝の上だったりする。
お父様の真ん丸なお腹はポヨンポヨンと弾力があって気持ちいい。
そんなお父様をメイド達が「素敵」とか「カッコいい」なんて言っているのを聞いて、ほんの少し違和感を覚える。
「アリーゼ?難しい顔をしてどうしたの?」
お母様のナタリアはおっとりとした雰囲気の優しい人。
暴走するお父様を止められる唯一の人で、メイド達いわく「綺麗」なのだそう。
ツルンとした白い肌に糸目、プックリとした唇。
不細工とは言わないけど、何か違うんだよなぁと首を傾げる私の頬をお母様が指で突っつく。
お母様は高位貴族の娘だったらしい。
けれど、商人として屋敷にやって来たお父様に出会って、お互いに一目惚れ。
身分の違いを理解していても燃え上がる恋は止められなかったのだそう。
駆け落ち同然に実家を飛び出て、お父様の屋敷に身を寄せたと聞いている。
わりと思い立ったら即行動!な人だから怒らせないようにしないと、離縁状を突きつけられたらどうしよう!?なんてお父様がガクブルしているのを時々見かける。
「やっぱりもっと大きな屋敷に住みたいんじゃない?僕が大きくなったら、立派なお城を立ててあげるからね」
ナデナデと頭を撫でてくれるのはお兄様のアルベルトである。
お兄様はお父様と瓜二つだ。
真ん丸な顔に真ん丸な体。
鼻はお団子みたいで低いし、目が細過ぎて見えないけど青色をしている。
五歳年下の私と勉強の合間に遊んでくれる優しいお兄様である。
メイド達いわく「天使のような美貌」、「将来が楽しみな美少年」だとか。
三人に囲まれて、甘やかされている私を見て、メイド達がホォッとため息をつく。
「お嬢様は今日も可愛らしい」
「将来、王族にも見初められる美貌になるでしょうね」
褒めてくれているメイド達。
彼女達もどちらかと言うと真ん丸い。
やっぱり納得がいかなくてコテリと首を傾げる私にキャッ〜!と歓声を上げるメイド達と家族。
ふと、部屋の隅にある鏡が目に入った。
そちらへ向いてトコトコと歩く私。
うっ⋯体がすっごく重いのは気の所為なの?
そして、鏡に映った自分の姿を見て、呆然と呟く。
「え、何なの、この丸々と太った豚さん⋯⋯?」
家族よりも真ん丸で、糸目で鼻ペチャのタラコ唇の幼女が鏡の前で立ち尽くしていた。
膨張色であるピンク色のドレスはリボンとフリルでかさ増しされているせいか、より一層真ん丸に見えてしまう。
あまりのインパクトに頭の中が真っ白だ。
コレを⋯私の家族やメイド達は"可愛い"と言っていたのか?
恐る恐る振り向くと、キラキラとした笑顔の家族達。
「「「アリーゼはどこから見ても可愛い(わ)」」」
メイド達までウットリと私の方を見ていて、ついに私は気が遠くなった。
■■■■■■
どうやら、私ことアリーゼは前世の記憶とやらがあるようだ。
前世の私はポッチャリとしていた。
好きになった男の子に「痩せてから出直して」って言われたこともあるし、服屋に行けば突き刺すような視線をよく感じた。
どうやって死んだかは覚えていないけど、こんな私でも愛してくれる人を見つけたかった⋯なんて神様にお願いしたのは覚えている。
つまり、これは神様からの私へのサプライズプレゼントに違いない。
神様、ありがとう!
なんて素敵なプレゼントなのかしら!
けれど、どうやらこの世界は前世とは美醜逆転しているようだ。
真ん丸の体つきのお父様やお母様、お兄様を「麗しい」と周囲の人達は言う。
そして、同じくずんぐりむっくりな体つきで背が低く、目は糸目、タラコ唇の私を皆は「天使」とか「女神の再来」なんて呼ばれている。
いやいや、私のどこが可愛いの!?美しいというの!?という心の叫びはうっかり口に出すと、「誰がそんなことを言ったんだ!そいつは目がおかしいのか!?」なんて今にも犯人探しをしそうになった為、本当に心の中だけで言うようにしている。
私には皆の価値観が分からないだけで、否定したいわけではない。
皆がベタ褒めしてきても遠い目をしつつも聞き流せるようになったわたしを褒めてあげたい。
何よりも戸惑うのはこの世界のイケメンが私に甘く囁いてくること。
彼等は自分に自信がある。
自分みたいなイケメンに声をかけられて、嬉しいだろう?
そんな言葉が透けて見える態度に私は思わずスンッとした顔でそっけない態度しか取れない。
そのせいか男性嫌いだと周囲の人達には思われているようだが、こればかりはどうしようもない。
だって、だって!
私の好みのタイプは背が高くて、細マッチョで彫りの深い顔立ちの前世でのイケメンなのよ!
前世の時からずっとその好みは変わらない。
お前、ポッチャリのくせにイケメンが好きだったのか?なんて言わないで。
誰だって素敵な人に声をかけられて、恋愛を楽しみたいと思うものでしょう?
私だって、恋愛をしたいの!
皆みたいに恋人と植物園とか公園を散策して、湖に浮かんだアヒルボートを二人っきりで楽しみたいし、カフェでスイーツを「あ~ん」なんてしてみたいし、イチャイチャしてみたい。
けれど、この世界では傾国の美人とまで言われるほど可愛くて綺麗な私に声をかけてくる男は、皆して好みのタイプとはかけ離れている。
不細工にも優しい、人の内面を見る優しいお嬢様。
そんな風に皆は解釈をしてくれているみたいだけど、私はどう考えても外見至上主義だ。
だって、今世のイケメンにはかなり塩対応をしている自覚はさすがにある。
「うぅ⋯⋯私の理想のイケメンはどこなのぉ」
はしたなくもベッドに突っ伏して呻く私。
今年で十五になる私にはたくさんの縁談が届いているようだ。
恋愛結婚が主流のこの世界では格上の家からの
申し出も普通にお断り出来るからありがたい。
そうじゃなかったら王子様と強制結婚させられていたかもしれない。
うん、王子様は遠くから見たことはあるけど、お兄様よりは細いけど丸みを帯びた体つきをしたノッペリとした顔の人だ。
縁談が来ていると聞いた瞬間、失礼なことに鳥肌を立ててしまったのはお父様達にも内緒だ。
どっかに背が高い、細マッチョの彫りの深い顔をした男は転んでいないだろうか。
不細工と言われ続けてきたであろうその人を、誠心誠意口説きに口説きまくって、毎日愛の言葉を捧げたい。
尽くし尽くされる⋯そんな相思相愛の相手を見つけたいものだ。
「お嬢様は本当に変わっていますね」
呆れたように言うのはレティ。
私の専属メイドだ。
彼女には私の好みを隠さずに伝えている。
かく言うレティはパッチリとした目が可愛い、スラッとしたモデル体型の前世での美人さん。
不美人だと辛い目に合ってきたらしく、彼女を喜んで専属メイドにした私には相当驚いたらしい。
屋敷のメイド達も嫌いじゃない。
皆、私に優しいし、頼れるお姉さんって感じで大切な人達だ。
でも、四六時中一緒にいるのなら私好みの美人を専属メイドにしてもいいと思った。
しかも、屋敷のメイド達は私の専属メイドに誰がなるかで仲間割れして、一時期は空気が悪かった。
だから、私が拾って来たレティを専属メイドにするって言っても文句を言えなかったらしい。
「普通の不細工な男達はお嬢様のように誰もが憧れる美貌を持っている方の前には遠慮して現れませんよ」
その言葉にガクリと肩を落とす。
人間誰もが引き立て役になりたいなんて思わない。
絶世の美女(笑)の前に立つ勇気のある不細工はなかなかいないのだろう。
もうちょっと私の顔が中の上程度だったら可能性はあったのかもしれないが、生まれ持った顔は変えられないし、私を可愛がってくれている両親が悲しむようなことは言いたくない。
あぁ、でも⋯⋯。
「明日は街に行く日ですね」
私が落ち込んでいるのを見るに見かねたのか、話題転換をしてくれるレティ。
何だかんだ言っても優しいんだから。
「そうだった!明日はどこに行こうかな」
私はあまり屋敷の外に出ない。
以前に誘拐されかけたこともあり、お父様達の許可をもらってから護衛を連れて行かないといけないからだ。
「新しいパティスリーが出来たって言ってたわよね。あ、レティは刺繍糸も欲しいでしょ?手芸屋にも行かなくちゃ!」
「お嬢様、私のことはいいので好きな所に行きましょう?」
「え?レティが楽しんでいる所を見るの、私が好きなのよ。行っちゃダメなの?」
上目遣いでウルウルと目を潤ませる。
鏡を見たら自分自身に吐き気すらするかもしれないが、レティには効果抜群だったようだ。
一瞬だけ息を詰め、小さな声で「お嬢様のお望みなら」と言われた。
手先の器用なレティの刺繍はとても緻密で、私はそのファン第一号だと自負している。
新作は何かなとワクワクしてきた。
そんな私を見て、仕方ないなとばかりにレティが微笑む。
出会った頃のレティは無表情だった。
少しずつ喜怒哀楽を見せてくれるようになったことが嬉しくて堪らない。
「レティ、ケーキを半分こしようね」
ヘラリと笑ってそう言うと、恥ずかしそうにしつつも頷いてくれる。
私と同じで甘い物には目がないのだ。
少し食べただけでも太ってしまう私と違って、レティは痩せの大食いなのに食べても太らない体質らしい。
本当に羨まし過ぎる。
それぞれが好きなケーキをいくつか頼んで、分け合うのはいつもの流れ。
最初こそ遠慮していたけど、美味しいケーキは目を輝かせて食べるように勧めてくれるレティを見るだけで、こちらまで幸せな気分になる。
私の毎日の生活は優しさと幸せに満ちている。
これほど人に愛されたことはなかった。
だからこそ、人を愛する喜びを噛み締めたいと最近は強く思うようになったのだ。
「どっかにイケメン、落ちてないかなぁ⋯⋯」
「まだ言ってる」と言いたげなレティの呆れた目には気づかないふりをして、私は理想の男性を夢見る。
どうして神様が私を転生させてくれたのかはどんなに考えても分からないけど、もし、叶うのなら私が愛したいと思えるそんな人に出会わせて欲しい。
美醜逆転なんてどうして!?と思っていた時期もあったけど、慣れてみれば私は美女(笑)だから色々と融通をしてもらえて助かっている。
これもまた神様からのプレゼントなのだろう。
だから、何としてでも私の理想の男性を見つけたいと思うことはいけないことだろうか。
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