ある考えすぎな男の日記

やながせじんた

20240319 年金とカラオケ


行員に言われるがままに忙しなくタブレットの画面をタップさせられながら、

「コンビニに支払う手数料って"急かされない代"だったのかもな……」

と思った。


国民年金。いつもはコンビニで支払っていたのだが、ある日、コンビニで渡されたレシートに「手数料 110」とあるのに気づいて、銀行を使ってみることにした。1円を笑うものは1円に泣く。110円でも節約した方がよいのでは、と思って今日は近所の銀行の窓口に行ってみたのだ。


口座開設以外の用事で銀行窓口を使ったことがなかった私は、まず、受付番号の入手で戸惑った。用件の種類に応じた番号を押して受付番号が発券されるアレである。

年金の支払いがどの番号に該当するか分からず、というかそもそも発券が必要だということに気付かず、誰もいない待合室を横目に窓口の行員に「年金の支払いをしたいのですが……」と話しかけたら、「〇番を押して発券してください」と言われた。冷たく。悲しい。

「誰もお客さんがいないんだから、その場で口頭で受け付けてくれたっていいじゃないか!」と過剰にシステム化された窓口に多少の怒りを覚えつつ、指示に従って受付番号を入手した。

発券して間もなく、先ほどの行員の窓口に案内された。

「結局あんたなんかい!」という過剰に(以下略)へのツッコミを胸に押さえ込みながら窓口に行き、「年金の支払いをしたいのですが……」と繰り返した。

発券の工程の冗長性が強調された。


そして支払いが完了するまでの工程も信じられないほど煩雑で忙しなかった。

タブレットに署名し、用件を選択し、うんたらかんたら……

詳細は記憶から消し飛ばされてしまっているが、とにかく、コンマ一秒の無駄も許さないと言わんばかりの行員の口調にまんまと従わされ、忙しなくタブレットを操作し、なんとか支払いに辿り着いた。


疲れた。ほんとうに疲れた。

コンビニなら払い込み用紙を渡してハンコをポンポンポンと押してもらって液晶画面の確認ボタンを押せば、あっという間にあら不思議、もう支払いができるのである。

このコンビニの便利に、110円を支払っているのだな、コンビニエンスを名乗ることだけのことはあるな、と実感した一件であった。


**********


銀行を出た私は、目に入ったカラオケボックスに向かった。

そこは数年前のコロナ禍で当時の恋人と行ったきりだったが、なんとなく、ヒトリカラオケの気分になったのである。

最後にヒトリカラオケをしたのはもっとずっと前、学生時代に一人暮らしを始めた頃だ。

それは初めてのヒトリカラオケというものだったのだが、なんの因果か、その店の入り口真横のパーティルームに通されたのである。帰っていく団体客の「え、パーティルームでヒトリ?ウケるんだけど」といった声がしっかりと聞こえ、ヒトリカラオケそのものの楽しさよりも、パーティルームの孤独の方がずっと印象に残ってしまった。

以来、「一人暮らしなんだからカラオケでお金払わなくても家で歌えばいいじゃん」と気付き、ヒトリカラオケからは遠のいていたのである。


特に馴染みがあるわけでもない店で、受付のシステムも料金の相場も不透明なまま、ただヒトリカラオケの気分になったというだけで突撃してみた。

受付はなんとかクリア。ただ、ドリンクバーにしてみたものの、結局一杯しか飲まなかったのは反省点である。

指定された部屋に行き、一時間歌いまくった。歌いながら次の曲を予約していたため、ぶっ通しであった。全部全力で歌った。最初は自分の声が聞こえるのが恥ずかしかったが、歌ううちに楽しみ方がわかってきて、最後は爽快な気分であった。

時間通りに退室し、料金の支払い。窓口でグラスの載ったトレーと入店時に渡されたレシートを渡したら、「お支払いはコウホウのセルフレジにてお願いします」。

予期せぬ出来事に一瞬頭が真っ白になり、「後方」と変換するのに時間がかかった。振り返ると、別の客がちょうど支払いをしているところだった。

客にならい、なんとか支払いを終えた。


**********


銀行しかりヒトリカラオケしかり、今日は普段しないことをする一日となった。

発見や刺激があって楽しかったのは間違いない。

システムへのついていけなさを痛感した。


発達していくシステムについていけないのを、自分にはシステムでとりこぼされている大事なものが見えているんだと思い込むことで、誤魔化しているだけなのかもしれない、となんとなく思った。

テクノロジーの発展についていけないタイプの人間になっていくのだろうか。

多分、新たなテクノロジーによって失われるものを批判的に自覚しつつ、それに適応できるというのが、一番理想的なんだろうな。

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