トラクトラッシュ
コトプロス
第1話 いや、タダの田舎モンだよ
俺は今日も今日とて相棒のトラクトに火を入れる。さぁて、今日は3番の畑にでも行くかな。ラジオを付けて、と。
『プツッ……ザザッ……また、今日は歌手のマイナさんが活動休止を発表………』
今俺が乗り回してるのは親父のそのまた親父の〜結構前から使ってるトラクトだ。
良く言えば物持ちが良く使い込まれている。が、悪く言えばオンボロのくたびれたトラクト。もうあちこちのアームからは軋む音が聞こえて来るし、操縦桿にはヘンなクセがついていてやたら敏感に反応するポイントがあれば反応しないポイントがあったりする。計器は一応新しいのには変えてるが年代が違いすぎて信頼しにくい。一応規格が合うのが唯一の救いか。
『それでは次のニュースです。昨夜未明に強盗グループと思われる一味が駆けつけた治安維持部隊と交戦に入り………』
「よ〜しよ〜しよし、今日も良いコちゃんだな。」
俺はトラクトのアームを操作して今日使いそうな工具をまとめる。格納庫の扉を開くと2本の脚でガッチョガッチョと仕事場に向かった。え?トラクターの仕事って地面を耕す事じゃないかって?アームやら2本の脚とは何だって?
ああ、諸君はトラクトと言えば旧時代の農耕機を指すとお思いで?
いやまあ厳密には農耕機って認識も違うんだけどさ。
トラクトってのは本来「トラクター」つまり“牽引自動車”を指しててな?人間が動かせないものを「引っ張って動かす」為の乗り物が大きな括りでトラクトなワケよ。SF作品でトラクタービームとか言ってるの見たこと無い?あのトラクターね。
『あの子供達に大人気シリーズ、覆面バイターの新シリーズは覆面バイターコーリングに……』
今日も今日とてハウスに日光が良い感じに当たる様に温室のパネル操作してるのさ。
まあ、ビニールじゃあ襲撃に耐えられないから何か凄い人が開発したビニールっぽい新素材なんだけどさ。
「どっこらしょっ…………と」
俺は日光リフレクターと灌水コントロールバルブの微調整を終える。あー、やっぱり古くなってやがるな、そろそろ替え時だな。
「おーい、ユニク!終わったぞ。そっちはどうだ?」
「いや2枚目のをもうちょい右にして欲しいかな!セイウチ。ちょっと温度が上がり過ぎてる!」
通信機からは仲間のユニクの声で答えが返ってくる。もーちょいこっちか………?ヨシッ!
無事に問題無しとの答えがスピーカーから帰ってきたからガレージへと戻る。
『それでは次のニュースで……待ってください!緊急ニュ ブツッ』
「ふぅー……そういやラジオで言ってたがあの有名な歌手が引退だって?」
俺は休憩テーブルの菓子盆からチョコをつかみ取り制御盤とにらめっこしているユニクへ無造作に放り投げる。こちらを見ずにキャッチして流れる様に口に運ぶとユニクはまあまあと答える。
「しっかし、昔はこのチョコってのの原料を集めてた労働者はチョコの味を知らなかったらしいじゃないか、分かるよなぁその気持ち。目の前にはお宝の山だってのにここで出来た食いもんはおエライサンの口にしか入らねぇ。作ってる俺達がありつけるのは、せいぜい傷んだ葉っぱぐらい」
俺のセリフにユニクがゲンナリした様子でセリフを引き継ぐ。
「それも「バイオマスに出来るから」と引っ張って行こうとしやがる。一度で良いからオーガニックの肉と野菜をたらふく食ってみたいぜなぁセイウチさんよ……あ、あと魚」
「こんど合成回転寿司でお前の好きな作品のコラボがあるとか言ってなかったか?付き合うからそうボヤくなよ」
2つ目のチョコ(合成)を齧りながらユニクがワンコインフィギュアやガチャガチャの景品、プラモのパーツが散乱しているテーブルの奥のTVを指差す。
「そうなんだよ。今年の夏アニメのアレ歌ってたアニソン歌手のマイナが引退するんだよ〜」
あぁ、ラジオで聞いたが一身上の都合だって?と俺は返す。ああいうのは残念だけど本人が納得ずくであるならばそんなワイワイ騒ぐのもダサいだろと思うんよな。
「とは言え、一度はウチの農場にPRとして来てほしかったな」
「まあなー、確か魚の方には行ったって言ってたよな」
「アレは羨ましかった」「別に話せるワケでも無し、画角に俺達が映る事は無いやん」「そうだけども」
じゃあそろそろ草刈りに行くわ、とふたたびトラクターに乗り込み農場に出る。
『おい!レーダーが何か捉えた!警告を………無視する上にタレットを躱しやがる!!お客様じゃねぇぞ!セイウチ!!撃墜頼む!』
密猟者か………良いパーツ積んでないかな?
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