湿気った部屋に生えるキノコ

 ラララは路上に立ちに行った。客を引いてくれば食事にありつけるがその間俺は嵐の夜に閉め出される。窓の隙間から雨風が吹き込みソファの綿を濡らした。どうせならこの街を地図から吹っ飛ばしてくれるといいんだが。

 濡れそぼったラララが帰ってきた。寒さに顔を赤らめてるが、頬は張られたのかもしれない。コートを脱ぎバスルームに入った。ドアの外れたバスルームからシャワーの湯気がもうもうと溢れてくる。ママは消えたのだろうか。ラララは鼻歌混じりに濡れたまま出てくると片膝立てて足のマニキュアを塗りだした。

「ひどい雨よ。ネズミ一匹いやしない」

「豆の缶詰がある」

「穀潰し」


 部屋の壁からニキビのようにぷっつりした突起が生えている事に気が付いた。ラララが換気扇を回し忘れたせいだ。あっという間に立派なキノコに成長した。ぷりっと打ち震え、カサの粉を振りまいた。繁殖行為かもしれない。

「あっすごい」

 素肌にオーバーオールを着たラララが這い寄ってきた。親キノコの周囲には既に新しい突起が生え始めている。

「朝食の心配がなくなったわね」

「これ食べれるの?」

「火を通せば大丈夫よ」

 親キノコは生かし子キノコだけ収穫した。ジャムの瓶を拭いその中に詰めていく。瓶が一杯になるとラララは「任せて」と言いキッチンに立った。その間俺は親キノコを観察した。飽きる事はなかったが斑点を見続けたせいで頭がかゆくなったのでやめた。

 ラララが鍋ごと持ってきたのはキノコのスープだった。ふやけたキノコから出た汁で湯が黄色く濁っている。見た目を誤魔化すようにコショウをぶちまけた。

「どう?」

「ちょっと渋い」

 そう言うと不服そうに鍋を取り上げ味見をした。

「悪くないじゃない」

 悪いとは言ってない。その言葉は声にならなかった。ラララの両目が不自然に釣り上がっている。にっと笑った口は耳まで裂けていて、ギザ歯の隙間から真っ赤な舌が別の生き物のようにちろちろと動いている。

「どうかした?」

 ぐっと顔を寄せられ突き飛ばした。引っくり返り、鍋を被ったラララがキノコにしか見えなくて腹がよじれた。

「何すんのよう……ギャア」

 ラララが俺を見て悲鳴を上げた。背後に気配を感じて振り向いた。窓ガラスに殺したはずの大男がうつっていた。気が遠くなり崩れ落ちた。大男は俺を見下ろしてゲラゲラと笑っている。ラララがロンリコの瓶をぶん投げた。窓ガラスを突き抜け外から悲鳴が聞こえた。

 大男は二度目の死を迎え、俺とラララは気付いたら眠っていた。失神だったかもしれない。

 目が覚めると雨が上がり部屋はすっかり乾いていた。親キノコも消えてしまった。


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