第43話始まりは君のそばで④
ーネメック子爵令息ー
「お会いできてうれしいですわ。シルヴィ・ミュラーと申します。」
う、美しい。ああ…、何ということだ ひどい顔できてしまった自分が恥ずかしい。昨日の夜からやり直したい。
噂通り、いやそれ以上ではないか。光り輝く金色の髪、ディープグリーンの瞳、聖母のような微笑、完璧なカーテシー。ああ、気品がにじみ出ている、素晴らしい。名のある商会を抱え、隣国の王太子妃教育も終えている才色兼備。目が幸せだ。
‥‥後ろで人を射んとしている目つきで睨んでいる、この男さえいなければ。
「ベルナール・ネメックです。本日は私のために時間を取っていただき、恐縮です。」
「まあ、こちらこそですわ。お座りになって。」
父よ、ここまで全く話してはいないが、そうだろう、怖いだろう、恐怖だろう、威圧感が半端ないだろう、この男がずっと邸にいることになったら寿命が縮むぞ。
「ネメック子爵もよくお越しになった。我々は、別室で話をしようではないか。アラン、君もおいで。」
父上が、『え?護衛も共に行く?』と涙目でつぶやいている。
「未婚の男女を二人っきりにはできません、私は残ります。」
「…アラン、扉は開けるし、ナタリーは中にいる。男のお前がいたら話も弾まないだろう。さあ。」
護衛が聞こえないふりで無視を決めこんでいる。
「ア・ラ・ン」
再度、侯爵に呼ばれる護衛。チッって言わなかったか?
侍女が入れてくれたお茶で一息つく。
「ベルナール様は騎士ですのよね。アランから剣の腕前が確かで、誠実な方だと聞いておりますわ。ふふ、あのアランが人を褒めるのは珍しいのですよ。」
なんと!”狂乱の死神”に認められていたのか!?それは嬉しい…
「あのアランは私が拾ったものですの。拾ったものは最後まで面倒を見なくてはいけませんわ。私の嫁入りには連れて行きます。それについて、どうお考えですか?」
やはりそうか。
「父は、それにつきましては大賛成でしたが、その、あの様子では無理そうですね。一気に老けました、はは…。」
今もどうしていることやら。我が子爵家は騎士の家系だが、父上は婿養子。領地経営など頭を使うことは得意だが、どちらかと言えば母上の方が騎士らしい。母上はともかく、父上はあの威圧感に耐えられないだろう。
「そのようですわね、ふふ。では、後日、私のほうからお断りするということでよろしいかしら。」
「ええ、そうしていただけると。ああ、あなたを見たらほかの令嬢の方がかすんで見えてしまう。私の婚約者選びは今後、困難を極めるでしょうね。大変残念ですが。護衛と離れる…いえ、そのような気はないのですね。」
ああ、本当に残念だ。今日という日は大切な記念日として心に残しておこう。思いがけずあの死神から褒められたことも知ったし、結果とてもいい日だった。
「お見合いの話とは別に、お願いがあるのです。」
なんだろう?
「私、実は、ずっとほしいものがありまして、協力していただきたいのです。」
「あなたが手に入らないものですか?私がお役に立てるかどうか?」
「立てますわ。見返りももちろん用意いたします。よろしくお願いします。」
令嬢と後日、出かけることを約束し、すっかり生気を失った父を引き連れ、帰宅の途についた。
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