第31話
ーミラベルー
こんなはずじゃなかった。
皆から愛される優しき王太子妃。そして、美しき未来の王妃。
そう、あの時までは完璧だったはずよ。あの女を踏み台に登り詰めた。それなのに。
やりたくもない神殿の手伝いに通い、猫をかぶり、微笑を絶やさなかった。美しい王太子と出会い、恋に落ちる。計画通りだったわ。あの女が大事にしていた人たちは、全部私の味方。噂を操ることなど簡単なことだったわ。
あの女をイビリまくっていた王妃にだって気に入られていた。そりゃそうよ。わざと若い頃のあの人のようにふるまったのだもの。普通は同族嫌悪を感じるはずなのに、『若い時の私を見るようだわ。セドにはあなたのような人と恋に落ちてほしいわ。』ですって。あはは、母親が浮気を勧めるなんて、ずいぶん頭が軽い、いえ軽いのは頭だけかしら。まあ、あの王妃がこなせる仕事なんて大したことない、そうよ、跡継ぎである王子を産んだら、あとは楽しく暮らすだけ。そう思っていたのに。
あの冊子の中身はどういうこと!?全てはあの女の手のひらの上で踊らされていたっていうの!?
自分が優秀じゃないことなどわかっていた。学院でA評価を取ったことも不思議に思ったのだが、教師への色仕掛けが効いたと勝手に思っていた。なのに外交?普通外交官がするものでしょ?王妃だってやっていないわ。私にできるわけないじゃない。手紙、会議、書類?無理無理無理。最悪だわ。今から学ぶ気なんかさらさらない。
それにしても、王太子のあの姿…。美しい見た目の理想の王子様は、私の目の前で輝きを失った。あれが本当の姿?たいしたことないじゃない…。国王に似ていない王太子…。…厄介な予感しかしないわ。
…あー、もう、いやだ。選択を間違えた。宰相の息子あたりで手を打っておけば、いや、宰相の妻も優秀さが求められるのだろうか。ならば、次期公爵のフェルは?辺境伯の息子は?はは、今更だわ。
あんなに親しげだった聖女たちの態度も180度変わり、民が私を見る目にも光が無くなった。せめて、自分の評判を落としてはいけないと、あの後も神殿に通っていたが、私への態度に耐えきれず手伝いに行くのをやめた。人間追いつめられると本性が出るっていうけど、あの態度は全く聖女じゃないわね。笑える。
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シルヴィの名で、慰謝料の請求が届いた。どういうこと?婚約破棄の時点で公爵があの女だったとは。令嬢ではなく公爵だからこんな馬鹿みたいな金額なの?次期公爵は、フェルナンではなかったの?こんな金額払えないと両親に泣かれてしまった。なによ!公爵令嬢を押しのけるなんてさすが私たちの娘だと言っていたじゃない。わかったわよ。責任は私だけではないわ。王太子に言って、払ってもらうから。
あの姿を見てから、すっかり会おうという気持ちが無くなっていたが仕方がない。何とかしてもらわなければ、この男爵家はとりつぶしだ。金を作るために私たちができる仕事なんて…いやよ、それだけは絶対いや!!
想像したくもない未来が頭をちらつく中、意を決し、重い足取りで、王宮へ向かった。
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