第30話
~フランシーヌ皇女とお茶会~
「シルヴィ!!会いたかったわ。」
「フランシーヌ!私もですわ。」
すっかり元通りの綺麗な肌になったフランシーヌ皇女が、私に飛びつく。
「ふふ、また、はしたないって怒られるわよ。」
「はっ!そうだったわ。”婚約もしたのにいつまでも子供っぽくてはいけません”って昨日も言われたばっかり!」
顔を赤く染め、手を頬にあてる姿はとても可愛らしい。
晴れた空から、穏やかな陽の光が照らすなか、ガゼボで、お茶をいただく。
「ご婚約おめでとう。フランシーヌ。これはその贈り物よ。」
ナタリーから受け取った贈り物を渡す。なめらかで吸い付くような肌触りと、美しい光沢の絹の布。フランシーヌの美しさに合う布に出会うまで苦労したわ。
「え?私に!はぁ~、何て上品なの。特にこのロイヤルブルーの上品な色合い。ああ、嬉しすぎるわ。ありがとう!!でも、さすがね。手に入らない物はないという商会を経営しているだけあるわね。」
「ああ、あの国の商会のことかしら。それは、人に譲ってきたの。思ったより高く譲ることができたわ。これからは、主な取引はこの国の私の商会に引き継ぐわ。」
「そうなのね。あんなに大きな商会だったのによかったの?でも、この国の商会に引き継ぐのね、それなら一安心したわ。婚姻で必要なものを是非シルヴィにお願いしたいと思っていたの。」
「フランシーヌの婚姻ですもの。手は抜かないわ。まかせて。どんなものでも最高の物を手に入れるから。」
久しぶりに会った友人との話は尽きない。
「それにしても、フランシーヌが、私の元婚約者のことを褒めた時には、正直趣味が悪いと思ったわ。」
3度目の治療を終えた後のお茶会で、フランシーヌがあの王太子を褒めたことがあった。主に顔だが。
「だ、だって、あの見た目よ。私の求める王子様像だったのですもの。ほら、ただの憧れよ。国を訪れた時はご挨拶程度しか関わったことがなかったし、まさか、シルヴィがいるのに男爵令嬢とだなんて、聞くまで知らなかったのですもの。」
慌ててフランシーヌが言う。大事な友達だが、叔父様との約束があるため、幻覚魔法のことは伝えていない。自分の顔が幻覚なのではと不安にさせたくないとのことだ。しかし、今のフランシーヌに言ったとしても、私がきちんと治したことを疑いはしないと思うが。ふふ。ああ、それほどまでに心許せる友に出会うなんて、何て幸福なのだろう。
「で、あなたを射止めた王子様は?政略的な結びつきではないと聞いたわよ。よく、許してもらえたわね。」
しゅんとしているフランシーヌを哀れに思い、違う話題を振る。
「ええ!覚えているかしら。幼馴染で文官のコンスタン。とても優秀なの。以前のお茶会の時もいたと思うけど。」
「覚えているわ。優しい笑顔の方ね。ふふ。あなたが私の元婚約者を褒めちぎっていた時、絶妙に不機嫌な顔をしていたあの方ね。」
話題にあの王太子が出るたび、悔しいような、悲しいような複雑な顔をしていって面白かったわ。私が、王太子と男爵令嬢のことを伝えると、顔が、ぱああと輝いたのだもの笑いをこらえるのが大変だったわ。
「え?そんな顔していたの?やだわ、コンスタンったら。ふふ、気付かなかった。…あのね、私があの顔の時に本当は何度もお見舞いに来てくれたの。顔を見ても、”皮膚1枚が変わっただけだろ。すべてが変わったわけではない”と励ましてくれた。でも、冷たく追い払ってそのあと会おうともしなかったの。何度も来てくれたのに…。」
その時のことを思い出し、後悔しているのか涙をにじませている。
「そう、羨ましいわ。」
誠意のある人に愛されているのね。
「生きていると辛く苦しい局面に立たされる時があるわ。そして、そういう時に、人の本当の優しさや気質、いえ本質がわかるわね。そんな人が婚約者だなんて羨ましい。そして、とても嬉しいわ。」
ありがとう、と小さく微笑み、涙をぬぐうフランシーヌ。
「そうね、辛い思いをしなければコンスタンの本当の誠実さに気付かなかったかも。それにお父様も、婚約者選びは、辛い思いをした私の好きにしていいって言ってくれて。…シルヴィ、私はね、優しさだけじゃなくて自分のために本気を出してくれるかどうかも愛には必要だと思うわよ。ふふ。」
そうね。私もそう思うわ。
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